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講堂の舞台袖にて。各寮の代表として卒業式で短い挨拶をすることになった私とマーガレット・マカロンとアベルくんは、三人で集まってくだらない話をしていた。
「どう? 今日の私可愛い? めちゃくちゃ可愛い?」
「……一応聞いておくけど、それはどういう趣旨の問い掛けなのかな」
「はい、変なこと聞いてすみませんでした! 申し訳ございません!」
私が悪うございました! と叫べば、アベルくんは驚いたような顔をした。そして「あまり騒がない方がいい。外に聞こえてしまう」と忠告までしてくれる。なんか……なんか自分が矮小な存在に思える……。
肩を落とす私を見て、私たちのすぐ側で手鏡を覗き込んでいたマーガレット・マカロンがフッと笑った。
「アベルに『可愛い』を求めるのは酷よ。レインに聞いてきた方がいいわね」
「流石の私も答辞読んでるレインくんに『可愛い?』とか聞きに行けないんだよねえ」
「あら、今日で最後なんだからいいじゃない。一花咲かせてきなさいよ」
「恥の花を?」
前から思ってたけど、マーガレット・マカロンって結構簡単に躊躇いなく私のことをおちょくるよね。しかもわりと破滅的な方向の失敗をしそうな方向に背中を押してくる。これが友情の在るべき形か?
無責任なマーガレット・マカロンに呆れていると、呑気に話している私たちを置いて最終確認をしていたらしいアベルくんが原稿から顔を上げた。
「この最後の花火だけど、仕込みはステージ後方にしてあるということでいいんだよね」
「うん。私たちが昨日こっそり仕込んできた」
「校長にバレそうになってスリリングだったわ」
小声でそう話しながら、マーガレット・マカロンとアベルくんと三人でこっそり舞台を覗く。今舞台上ではレインくんが答辞を読み上げている。かっこいいレインくんがかっこよく答辞を読み上げる。つまりここが卒業式のメインだね。
忙しいレインくんに代わって先輩が書き上げた原稿は、まるでお手本のように綺麗な文章の連続だった。やっぱりあの人は頭がいい。今日の卒業式は昨晩の深酒による二日酔いを理由に欠席してるけど、アレでも優秀な人なのだ。
気配に気付いたのかこちらを見たレインくんと一瞬目が合ったが、彼はすぐに原稿を読み上げる作業に戻って行った。頑張れと心の中で声援を送って、舞台上に視線を走らせる。えーっと、確か本当に後ろの方にちっちゃく……。
「えっ」
ない!
思わず声を出した私をもう一度レインくんが見てくる。彼は誤魔化すようにごほんと咳払いをしたが、その目は「また何かやったのか」と言わんばかりの疑念に満ちていた。何かやったっていうか……あの、はい。すみません。
三人で一斉に引っ込んで、顔を突き合わせて「なくない?」「ないわね」「ないのか……」と意見をすり合わせる。昨日いなかったアベルくんはまだしも、私とマーガレット・マカロンは花火設置の当事者である。自分たちがどこに仕掛けたかを忘れるはずがない。しかもたった一晩しか経っていないのだ。どうやって忘れろというのか。
いや、今はそんな話はどうでもいい。問題はなくなった花火だ。あれはまずい。あれをなくしたのは本当にまずい。
「私とマックスくんとマーガレット・マカロン、そしてライオ様とカルド様、ツララちゃんにレナトス様まで力を貸してくださった力作……! あとカルパッチョくんもなんか手を加えてた!」
「一番の不安要素はそこね……」
はあとため息をついたマーガレット・マカロンが額に手を当て俯く。私たちだけなら別にいいけど、それだけの方々が手を貸してくださったとなると話が変わってくる。恐れ多いという意味ではなく、危険度という意味でだ。私たちの監視下で打ち上げないと、誤爆なんてしたらまず間違いなく大変なことになる。
最後にド派手に花火を仕掛けることには賛成してくれたが、まさかそこまでの大作になっていたとは思っていなかったのか、アベルくんは顔を顰めた。私とマーガレット・マカロンは目を見合わせて「どうにかしよう」と頷き合う。どうにかってどうするんだよ、という話ではあるが。
慌てている間にも、レインくんの答辞は終わってしまったようだ。ぱらぱらと拍手が聞こえてきて、私も咄嗟に拍手をする。出来ればちゃんと聞きたかった……。そう思っていたら、マーガレット・マカロンに頭を叩かれてつんのめった。二日酔いで死にかけてる先輩をせっついてせっかく可愛い髪型にしてもらったのに!
「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
「だってレインくんの答辞……」
「あとでまた聞かせてもらいなさい。それで、どうするのよ」
「探すしかないよ。誰か拾って持ってったんじゃないかな……色んな人が舞台に上がったからだと思うんだけど、私でも魔力の痕跡が追えない。でも、舞台に上がって生徒を見れば分かる……と思う」
「じゃあ僕たちが話してる間に君が花火を探すということにしよう」
「うん」
勢い良く頷いて「絶対花火見つける!」と意気込むと、背後から「花火……?」と怪訝そうな声が聞こえてきた。あっ、ヤベッ。
「何の話をしている」
「違っ、れ、レインくん、違う、違います!」
「……お前たち、花火を仕掛けたのか」
「あわわわわ」
「どこに仕掛けたんだ」
「……」
「さあ」
慌てる私、キャパオーバーしたのかフリーズしたアベルくん、そして他人事のように返すマーガレット・マカロン。レインくんはそんな私たちを見て、事態を正確に察したようだ。「なくなったんだな」と言う声は恐ろしい。
既に半泣きの私は「ひええ」と情けない声を上げながらレインくんに縋り付いた。
「なくしたくてなくしたわけじゃないの! ちゃんとそこに置いておいたんだよ! 人避けの魔法もかけた! 誰も拾わないような見た目にもしたのに、なくなっちゃったの!」
「分かったから泣くな、落ち着け」
えーんえーんと声を上げると、レインくんはため息をつきながら私の背に腕を回してあやすように撫でつつ「どんな見た目にしたんだ」と聞いてくる。それにはマーガレット・マカロンが代わりに返事をしてくれた。
「巨大なシュークリームよ。たまたまマッシュ・バーンデッドがシュークリームを食べてるのを見たから、それでいいかって適当に決めたの」
こんなことなら巨大なタルタルソースにするべきだったわね、と意味の分からないことを言ったマーガレット・マカロンのことは無視する。変なこと言うな。巨大なタルタルソースってなんだ。それなら巨大なクッキー缶にするわ。
レインくんの腕の中でじとりとマーガレット・マカロンを睨んでいると、アベルくんが「それじゃないか」と徐に口を開いた。
「彼のクラスは確か会場セッティングの担当だったはず。なにかの用があって舞台に上がり、巨大なシュークリームを見つけた。食べれないことを疑問には思ったが、形はシュークリームなので持ち帰った……とか」
「……有り得る話ではあるな」
「確かに、それなら私の目でも魔力が追えないのも納得できる、かも?」
「ならマッシュ・バーンデッドを探し」
どっかーん!
マーガレット・マカロンの言葉の途中で爆発音が鳴り響き、「ギャーッ!」「爆発か⁉︎」「いや花火だ!」「花火⁉︎ なんで⁉︎」という阿鼻叫喚が聞こえてくる。私たち四人は顔を見合わせ、そして沈黙した。遅かった……。
誰か行けよ、と無言で責任を押し付けあっていると、壁の向こう側で二つの魔力が衝動的に膨らんで大きくなるのを感じた。私はそれを察した瞬間に息を呑んで咄嗟にレインくんの背後に隠れ、耳を塞ぐ。まずいまずいまずい! そう言えば来賓にいた! 二人ともいた!
しかしそんな抵抗も虚しく、私の名前をフルネームで呼ぶ……というか、叫んで呼び付ける二つの声が講堂中に響き渡った。もう声だけで分かる。父上とオーター様だ。
耳を塞いでいても聞こえてくるその怒りに満ちた叫び声に、「あああ」と私も叫びながら泣く。こんなことになるなんて思ってなかったんだよお!
「行くぞ」
「やだやだやだ! 怒られる! 絶対怒られるもん! 今日卒業式なのに、みんなの前で怒られるんだあ! 最後なのに! 最後の日なのに!」
「ここで逃げても捕まえられて怒られるだけだ。なら今怒られた方がいいだろ。オレも一緒に怒られてやるから」
「レインくん……」
「そうやって甘やかしすぎても本人のためにならないと思うけど」
「アベルの言う通りね。本当にその子のことを思うなら一人で行かせるべきじゃない?」
「何を言っている? お前らもだ。三人まとめて来い」
「……」
「……」
「あはは! 笑える! 怒られてやんの!」
「おい」
「すみません」
私たちにもプライバシーというものがあるのでどんな風に怒られたのかは黙っておくが、オーター様の怒り方がとんでもなく恐ろしかったとだけ言っておく。あの人は怒らせちゃダメだ。私たち三人を怒り、監督不行届でレインくんのことも怒り、花火を誤爆させたことを理由にマッシュくんたちのことも怒り、更には無断欠席している先輩と「まあまあ」と宥めようとした校長先生にもブチギレていた。多分あれはこの後ライオ様たちのことも怒るつもりだ。だって最後の方は流石に私たちを庇おうとして「そんなに怒らなくてもいいんじゃないか」と言った父上にさえキレてたからね。あの人怖すぎ。