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 だいぶ沈んできた太陽に照らされながら、ぷかぷかとスローペースで進んでいく。事前に聞いていた通り、真夏だというのにこの辺りはかなり涼しい。首都よりも格段に過ごしやすそうだ。
 時折吹き付ける爽やかな風とぽかぽかと暖かい陽の光の影響か、ふわと欠伸が漏れた。少し前を進むレインくんが怪訝そうに振り返る。
「寝るなよ」
「分かってる分かってる。ちょっと欠伸が出ただけ……」
 そう言いながらも更に欠伸をして、箒の上で軽く伸びをした。おなかいっぱいになるまでお昼ご飯を食べたし、昨日ドキドキして寝れなかったから余計に眠くなってきちゃってるのかもな。不覚。
 ゲッカ草採取のため、大陸南西部で暮らす校長先生のお知り合いの元へ向かって出発して早数時間。途中で立ち寄った街でお昼を食べたのが一時間ほど前のことで、それ以外は箒に乗ってこうしてまったりと空路を進んでいる。
 この前一緒にご飯を食べに行った時とは違って、今日はうちの病院で待ち合わせた。校長先生から詳細を聞いたらしい父上が「最後の忠告」としてあれこれ言ってきてちょっとうるさかったけど、「ゲッカ草は多めに摘んでこい」と言っていたから自分だって早く研究をしたくて堪らないのだろう。父上はそういうところがある。
 謎にレインくんを敵視している節のある妹は今日レインくんが病院に顔を出すと聞いて興奮しすぎたのか朝から熱を出してダウンしていて、レインくんとの顔合わせはかなわなかった。なんであんなにレインくんのことでばっかりわーって反応をするのか分かんないんだよなあ。まあ、レインくんもレインくんでわーって言われたらわーって言い返すタイプだし、会わなくてよかったのかなあ。でも来年きっと妹は編入試験受けるだろうからそしたら絶対会うよね……。
 大好きな二人には仲良くして欲しいんだけどな、それに熱出したのも心配だし、と小さくため息をつくと、レインくんにもそれが聞こえてしまったのか彼の乗る箒のスピードが緩められて私の隣に並んだ。そのまま訝しげに見つめられる。
「どうした?」
「んーん、あの子大丈夫かなーって」
「妹か。ただの知恵熱なら帰る頃には治ってるだろ」
「だといいけど」
 心配だったけどわざわざ残って看病していくわけにもいかなくて、まともに顔を見れないまま出てきてしまった。昨日の夜、私が「トランプとか人生ゲームとか持ってこっかな」と悩んでいた時には「そんなもの不要です!」と元気に怒っていたけど、それが朝起きたら熱を出してるなんて心配。重い風邪とかじゃなければいいけど……。
 もう一度ため息をつけば、レインくんは呆れた顔になって「人の心配ばっかしてトチるんじゃねえぞ」と言った。うーん、正論。
「お前の親父さんも言ってたが、採取の途中でどこぞの貴族に雇われた魔法使いと戦闘になる可能性もある。そういう輩は殺す気で攻撃してくるからな。気を抜けば死ぬ」
「はい、気を付けます」
 ぴしっと敬礼をしてみせれば、レインくんは頷いて前を向いた。レインくんには簡単にやられちゃうけど、私だってこう見えて結構腕は立つ方だ。ゲッカ草を狙ってやってくる悪い魔法使いがマーガレット・マカロンでもない限り、油断せずに先手を取れれば悪い結果にはならない……はず。
 相手がマーガレット・マカロンだったらその場で辞世の句を詠んだ方がいいかもしれないが、マーガレット・マカロンがそんな所に来るとも思えない。あの人、学校でも滅多に見かけないもん。
 それにマーガレット・マカロンだって、今戦えばいい結果を残せるかもとも思っているのだ。少なくとも以前のように半殺しにされたりはしないだろう。半殺しにされてからめちゃくちゃ鍛えたからね。
 あの時はもう、死んだかと思った。辞世の句を詠む余裕もなかったし、上半身と下半身がほぼさよならですよ。父上とババ上……ではなくて、ひいおばあ様の尽力がなければまず間違いなく死んでいた。その説は本当にありがとうございました……。
 傷は残ったけど仕方ない。ひいおばあ様は「体を乗り換えれば傷はなくなりますよ」って言ってたけど、体を乗り換えるって何? 怖かったし、母上から貰った体を捨てるのも嫌だったので傷に関しては諦めた。そもそもの話、マーガレット・マカロンに半殺しにされるぐらい弱かった私が悪いのだ。
 もし再戦するなら、今度は腕の一本や二本もいでやりたいぜ。私は胴体が泣き別れになりかけたんだから、それでようやくおあいこ。
 気合を入れてふんすと鼻息を吐き出していると、またこちらを見つめたレインくんが呆れた顔をした。気を抜いてると思われたのかも。
「違うよ、マーガレット・マカロンのことを考えてたんだよ!」
「何故」
「悪い魔法使いがマーガレット・マカロン並の実力者だったらどうしようかなーって。どうする?」
「倒す」
「そりゃそう」
 レインくんなら倒せちゃうんだろうけど、私は倒せるか分からないからどうしようかなーって話だよ。だからってレインくんに庇われるのもなんか……なんかやだ。
「いざとなったらこれ使うかあ」
 いつも通り首から下げた絹の小袋に触れる。見た目は小さいけど拡張魔法が掛けられてるから結構色々入っている。その中のひとつ。一年前マーガレット・マカロンに半殺しにされた時、ひいおばあ様が「いざとなったら使いなさい」と言ってくれた例のアレ。
 あんまり使いたくないけど、いざとなったら使うしかないよなあ。
 何か言いたげなレインくんの視線を敢えて気付かないふりで躱し、眼下に広がる景色を指差した。
「着いたみたい。降りよう」

ふたつおりのひとひら