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 びゅーんっと音がして、光線が窓の外を通過していった。うーん、眩しい。
 のそのそとベッドから起き上がり、ふわっと欠伸をする。毎晩のように窓の外でピカピカ光るのが眩しくて満足に寝れず、最近は寝不足が続いている。私って結構繊細だったんだなあ。
 寝れないしなにか飲み物を飲もうかなと目を擦りながら顔を上げると、窓際に置いた椅子に座って外を眺める先輩が目に入った。その手の中には見慣れた酒瓶。また飲んでいたらしい。
 視線に気付いたのか私を見た先輩はフッと笑って「お前も飲むか」と酒瓶を揺らしたが、それには軽く首を横に振っておいた。未成年飲酒は校則違反。三学期末には神覚者になるための最終試験もあるし、飲酒で失格とかちょっとね。
 のたのた歩いて水道に向かい、置いてあったコップに水をくんだ。……つめたーい、生き返るー。
 そのままコップを片手にベッドに戻って、ぺたんと座り込んでから先輩に「面白いもの見えた?」と声を掛ける。先輩はニヤニヤ笑いながら窓を軽く開け、外を指さした。
「知り合いが労働させられてるのを見るのが面白え」
「趣味悪ッ」
 そりゃ留年しまくってすでに五年間もこの学校に通ってる先輩からしたら、最近派遣されてる魔法局の局員さんたちは知り合いばっかりなのかもしれないけど、それにしたって趣味が悪いよ。
 見てみろとばかりに手招きされたので、ベッドの上を移動して窓の方に寄る。そのまま外を覗けば何人かの魔法局員が巨大なクマ相手に戦闘を繰り広げてるのが見えた。大変そう。
「どの人が先輩の知り合い?」
「全員」
「全員⁉︎」
「ここを卒業した若手ばっか寄越されてんだよ。この何日か人員の入れ替わりも何度かあったか、他校の卒業生は一人も見てねえ」
 先輩は謎に情報通なので、誰がどこの学校を何年に卒業してーとか、誰々は在学中にあんなことをしでかしてーとか、そういう話を聞いていないのによく聞かせてくる。今回魔法局から巨大クマを退治するために派遣された局員さんたちのことも「全員知り合い」とは言ったけど、一方的な知り合いもそれなりにいるんだろうな。まあ一緒に授業を受けたことがある本物の知り合いもいるんだろうけど。
 先日校庭で暴れてレインくんにぶん殴られた超巨大なクマは、別に授業で使う予定だとか試験で使う予定だとかはなく、単純に謎発生したクマだったらしい。校舎も破壊され、私の他にも何人か怪我人も出て、結構大変な騒ぎになった。
 しかも校長先生が直々に森を調べたところクマは他にも何頭もいて、要は繁殖していたらしい。その場で退治しようとしたらしいんだけど、森の中で光線を放たれると最悪大火事になりかねないってことで校庭までおびき寄せて退治することになったんだって。
 最初はレインくんを筆頭に腕に自信のある生徒たちが「自分がぶっ殺します」と言っていたものの、事態を重く見た先生たちは魔法局に応援を頼んで、こうしてこの何日間か夜通しクマ退治が行われている。因みにどうして夜にやるかっていうと、昼間は生徒が校庭をうろちょろしていて巻き込むかもしれなくて危ないから。あと、今回派遣されている局員さんたちは日中は普通に魔法局で仕事をしているからだそうだ。魔法局、ブラックだよねー。
 酒瓶を片手に窓枠に頬杖を着く先輩と一緒に見下ろす校庭では、ちゅどーんちゅどーんとひっきりなしに爆発が起きていた。巨大クマの光線と局員さんたちの魔法がぶつかり合って爆発しているのだ。近付いたら熱そう。
 ちびちびとコップの中の水を飲む。冷たくて美味しい。そのまま特に面白いものでもないがつまらなくもない戦闘光景をまじまじと見つめていると、先輩が「お」と声を出して僅かに身を乗り出した。興奮気味に放たれた「見てみろ」という言葉に従って、私も一緒になって窓の外に注目する。何かあったのかな。
「どこ?」
「一番デケェクマの正面でビュンビュン飛んでるやつ」
「えっーっと……あれか。……うん? あれってもしやオーター様?」
「あのむっかつく飛び方は馬鹿眼鏡だろうなあ。あはは、ウケる。神覚者にまでなって母校でクマ退治かよ」
 私にはよく分からないけど、酒瓶をサイドテーブルに置いてまでしてゲラゲラ笑い出したあたり先輩的には相当面白いことらしい。ムカつく飛び方って言うけど、飛び方も普通だし。馬鹿眼鏡って言われるほど変なメガネしてたっけ?
 ツボに入ったのか腹を抱えて笑っている先輩は一旦無視して、もう一度窓の外を見た。月明かりに照らされてわうわうと吠えているクマの周りを、細かい何かが浮いているように見える。砂……かな。
 クマが無差別に放つ光線を難なく躱してクマに攻撃魔法を打ち込んでいく動きには無駄がない。一番大きいクマをひとりで相手にしてこれほどの動きができるんだ。流石、神覚者に選ばれるだけのことはある。こうやって遠くから見てるだけでも結構タメになるな。
 先輩が笑っている間にも戦局は進み、クマは周囲に漂っていた砂に締め上げられて苦しげに叫んだ。窓枠がビリビリ震えるほどの咆哮だ。……これ、他の部屋の人たちも寝れてなさそう。
 クマの叫びは少しずつ弱まっていき、やがて無音になった。周りを見れば他の局員さんたちが相手取っていたクマたちもすでに地に伏している。どうやら全てのクマを退治し終わったようだ。
「先輩、終わったみたいですよー」
「あ?」
「ほら、全部やられちゃった」
「おー……」
「オーター様と知り合いなら手振ってあげれば?」
「ンであたしがアイツにそんなことしてやんなきゃなんねえんだよ。酒も飲んだしもう寝るわ。窓閉めといて」
「はーい」
 私だったらレインくんに「お疲れ様」って手を振るし、逆に手を振ってもらえたら嬉しいけどなあ。
 そう思いつつも、先輩とオーター様は私とレインくんではないなんてこともちゃんと分かっているため、ベッドに入っていく先輩の後ろ姿に何かを言うこともなく窓を閉める。……あれ。今、オーター様と目が合ったような。……まあこんなに距離があるのに見えるとも思えないし、勘違いか!

ふたつおりのひとひら