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「えー、では文化祭のうちのクラスの出し物ですがー、何か案ある人ー」
「はい! はいはいはい! 猫耳女装メイドカフェ! 猫耳女装メイドカフェがいいと思います!」
「えー、猫耳女装メイドカフェ以外で何か案ある人いませんかー」
「なんでえ⁉︎」
 ギャンッと叫んでばんっと机を叩いたものの、文化祭実行委員にはシッシッと手で虫を追い払うような仕草をされて終わってしまった。あまりにも対応が雑すぎると思います!
 季節は秋。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋と、秋と言えば色んなものが目白押しだけど、このイーストン魔法学校で秋の一大イベントと言えばもちろん文化祭である。
 生徒の自主性に富んだうちの学校では、文化祭はもちろん企画から運営までそのほとんどを学生が担う。あれがやりたいこれがやりたいと言えば実現できるだけの環境が揃っているのだ。そんななかで自分の欲望に素直にならなければ、一体いつこの欲をさらけ出せばいいと言うのか。
 えーんと泣き真似をしてみたもののクラスメイト一同から完全にスルーされ、隣に座る先輩に助けを求めたもののは鼻でひとつ笑われて終わった。みんなが冷たい。
「あたしはいいと思うぜ、猫耳女装メイドカフェ」
「ほんと⁉︎」
「女装っつーことは野郎共が主役だろ? あたしが面倒なことしなくて済む名案じゃねえか」
「そういうことじゃないんだけど……」
 思わずムッとしたものの、先輩はゲラゲラ笑うばかりで全く話を聞いてくれない。完全に出来上がっている。まだ放課後にもなっていないのに早すぎるのでは。
 本人は水だと言い張っているものの絶対に水ではないとみんな知っていて、もはや公然の秘密になっている酒入りの水筒からチビチビと酒を飲む先輩は、「投票になったらお前の案に一票入れてやる」と笑った。すごい、全然嬉しくない。サボり目的だと宣言されたあとだからだろうか。
 出来れば先輩みたいな酔っぱらいからではなく、なにかこう、まともな人からの賛同が欲しい。誰か猫耳女装メイドカフェを良いと思ってくれる人はいないのかと周りを見渡したが誰とも目が合わず、仕方なく前に座るレインくんの肩をつついた。すぐに怪訝そうに振り返ってくれたレインくんに「ねえ」と声を掛ける。
「レインくん、猫耳女装メイドカフェ、一緒にやろうよ」
「嫌だ」
「どうして? やってみれば多分楽しいよ」
「お前の趣味を人に押し付けるな」
「ひ、酷い言われようだ」
 そんな、私の趣味全開みたいな言われ方しちゃったよ。そりゃ猫耳とメイドは私の趣味だけど、女装とカフェは別に趣味じゃない。それっぽくしただけだし……。
 絶対にやりたくないと表情と態度と言葉で主張してくるレインくんにショックを受ける。そんなに嫌? それにレインくん、私のことを猫耳女装メイドカフェが好きな人だと思ってたんだ。
「あのね、違うんだよ。私はただ猫耳つけたレインくんにメイドさんになって欲しいだけなの」
「余計意味が分からねえことを言うな」
「あーん、レインくんが分かってくれないよお」
 わざとらしく泣き真似をしてみたものの取り付く島もなく、助けを求めようと見てみた先輩はやけに真剣な顔で一人で絵しりとりをしているし、レインくんの隣に座っているマックスくんは前を向いたまま寝ていた。みんな全然真剣に考えてないじゃん! それなのに私の考えた猫耳女装メイドカフェを否定する理由って何⁉︎
 悔しさを胸いっぱいに感じながら、衝動的に杖を一振りしてレインくんに魔法をかける。一瞬でその頭にぴょこんと生えた猫耳は髪色に合わせたツートンカラーで可愛い。ほら! こんなに可愛いじゃんか!
「おい、何した」
「猫耳生やした。やーん、可愛いねえ」
「今すぐ解け」
「やだやだ。レインくんはもう私だけの猫ちゃんだから」
 サッと立ち上がって前の席に回り、無理矢理タックルするようにして場所を空けさせてレインくんの隣に腰掛ける。そのまま強引に腕を組んで、空いた方の手でレインくんに生やした猫耳を撫で回した。私たちはいつもこんな感じなのでクラスメイトたちももう何も言わない。
「耳がよっつある。かわいー。ねえ、感覚はある? 触られてるって分かる?」
「違和感はある。解け」
「やだってば。猫耳女装メイドカフェを受け入れるか、このまま私の猫ちゃんとして暮らすか。二択だよ」
「ふざけるな」
「ふざけてないでーす。私はいっつも真面目!」
 猫耳の方は感覚がいまいちないらしいが元々ある人の耳は当然感覚が残ったままらしく、ちょんちょんつつけば何か言いたげな顔をされた。くすぐったいみたい。可愛い反応だ。
 鏡がなくても自分でもわかるほどニヤニヤしながらレインくんにイタズラを続けていると、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか杖を向けられた。やばっと焦る間もなく、ぽんっと音が鳴って頭が重くなる。なに。なんか……なんか生えた?
 慌てて自分の頭をぺたぺた触る私を見下ろしたレインくんは親切に手鏡を向けてくれた。ウサちゃん柄の可愛いやつ。お礼を言ってその手鏡を覗き込む。ふーむ、これは……。
「ウサちゃんの耳だ!」
「ロップイヤーだ」
「なんか自分に生えると変な感じ……レインくんどう? 可愛い?」
 手鏡からレインくんへと視線を戻してそう聞いたものの答えはなかった。しかし伸びた手が顔や背中を撫でていくので可愛いとは思ってもらえているのかもしれない。ウサちゃんにとってお耳としっぽはあんまり触られたくないゾーンだから気を使ってくれているんだろう。やーん、優しい!
 でも私は人間なのでベタベタ触ってもらって大丈夫なんだなー!
 触って触ってと擦り寄れば、リクエスト通りにレインくんはウサちゃんの耳に触ってくれた。うーん、レインくんの感想通り違和感はあるけど、それも「触られてる」って分かる程度のもので問題はなさそうな感じだ。くすぐったいのと恥ずかしいのもあるけど、レインくんだからいいや。
 触ってもらえる嬉しさや照れくささと一緒に文化祭で猫耳女装メイドカフェをする時のことも考えていく。コイツマジでやる気かよ……って思ったでしょ? 私はマジでやる気ですよ。クラスのみんなだって他に案が出てこなくて「やばい、このままだと猫耳女装メイドカフェだ……」って感じの空気になってきてるし。ここまで来たらもう勝ちは確定したようなものですよ、ふふん。

ふたつおりのひとひら