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文化祭準備期間に入った校内はどこか浮ついていて、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。それを聞いているだけでこちらもなんだか上機嫌になってくるというもの。
それに加えて見渡す限り誰も彼もが忙しなく動いているのは、ここが校庭のど真ん中で、皆それぞれクラスの出し物に関する何かしらを制作するために集まってきているからだろう。かくいう私もマックスくんと二人で看板製作に勤しんでいる。
私の描いた猫のイラストの隣にウサちゃんを描いていたマックスくんが顔を上げ、「どうかな」と聞いてきた。手を止めてウサちゃんを見る。ふむふむ。
「可愛い」
「よし。じゃあ次のを描こう」
「うん。私はねー、次は……クマ描こうかな」
「クマはやめておいた方がいいんじゃないか。ほら、ちょっと前に騒ぎがあったし」
「あー、そっか。ならライオンにしよう」
ちょっと前にあった騒ぎこと巨大クマ騒動はオーター様が巨大クマのコロニーに乗り込んでクマたちを一網打尽にすることで無事に解決したのだ。それもあって今私たちはこうして校庭文化祭の準備をすることができている。ありがとうございます、オーター様。
そんなことを考えながら手に取った筆でパレットの上の絵の具を混ぜ合わせて理想のライオンのたてがみを再現しようとしていると、ちょうど作業が終わったのか撤退していく生徒たちが「ケモ耳カフェ……?」と訝しげに声を上げるのが聞こえた。私たちが作成している看板に書かれた文字を読み上げたらしい。うん。ケモ耳カフェです。
結局、うちのクラスでは猫耳女装メイドカフェに勝るような提案がされず、私の一人勝ちということになった。なんだかんだ言って何人か乗り気だった人もいたんだよね。先輩を筆頭に「手抜けるじゃん」という女子一同、「猫耳メイドしか勝たん」という一部の層、そして「こんなことでもなければ女装なんてする機会ないし」という更に極々一部の特殊な人。そんなこんなで最終的には投票で正当に勝った。
しかし、ここで担任からストップがかかる。健全でなければ学生のだし物として認められない、などと言ってきたのだ! どこか不健全だと言うのか一から説明して欲しい。私は別に猫耳女装メイド、レインくんにえっちなことをさせようなんて思ってない! 私だけの猫ちゃんだと思ってるだけだ!
提案者の責任として真剣にそう主張したのだが、「二日目は父兄含めた一般客も来るのにこんなものダメに決まってるだろ。第一お前らなんだその猫耳とうさ耳は」と切り捨てられて終わった。「猫耳」「女装」「メイド」。ひとつひとつそれ単体ならば問題のない要素も、三つ掛け合わされば不健全になってしまうらしい。そんなのってないよ……。
えっちなことはしませんと念書を書くから猫耳女装メイドカフェをやらせてくれと頼んだのだが、私だけの猫ちゃんことレインくんが「オレはやるなんて一言も言ってない」と反旗を翻してきたため、泣く泣く女装メイドは削ることとなった。それに、女子たちが「どうせなら私も接客やりたい」と言ってきたのも尊重しないわけにはいかなかった。女の子が女装しても、それは猫に猫耳を生やすようなものだ。
そんなこんなで紆余曲折を経て、我がクラスの出し物は「ケモ耳カフェ」に決まった。ギリギリまでケモ耳を拒否っている人たちもいたが、最終的に「看板やビラには『私プレゼンツ』と記載し、これは私の発案かつ性癖でありクラスメイトは巻き込まれた立場だと明文化する。また全ての責任は私が負う」ということで落ち着いた。別にケモ耳は性癖じゃないんですけどね。
新たな性癖を背負わされることにはなったが、二時間半の泣き落としの結果レインくんが「耳だけなら」と嫌々ながらに頷いてくれたため、ギリギリ私の勝ちだ。私はこう見えて首都一、ひいては大陸一と言っても過言ではない大病院の跡取り娘であるため、そんな私の名前を出す許可も一応父上から取ったし「やるなら本気でやりなさい」と応援も受けた。私の性癖が勝手に増やされたことを除けば、概ね問題はない。
三大魔法学校の一角として名を連ねる我が校の文化祭には、入学希望の学生や現役学生たちの父兄はもちろん、OBOGも多数訪れる。魔法局からは青田買いのために偉い人が来たりもするし、みんな気合を入れているのだ。もちろん私もそうである。ライオ様からも奥様とジュニアを連れて顔を出しに来るとご連絡をいただいたし、何より愛しい妹も来る予定だ。そして、恐らくレインくんの弟くんも来るだろう! いいところ見せなきゃね!
むふーっと鼻息を吐き出して握りこぶしを作れば、マックスくんが「すごい気合いだ」と拍手してくれた。
「頑張ります! 具体的にはクラス賞とベストカップル賞を狙います!」
「ベストカップル賞、レインがエントリーしてくれるといいけど」
「いざとなったら勝手にエントリーしちゃうから……今のレインくんには内緒ね」
「うーん……後ろ見て」
「後ろ? え、なっぎゃあああ⁉︎ れ、レインくん⁉︎ どこから聞いてたの⁉︎」
「マックスが拍手を始めたあたりから」
「あーん全部聞かれてるよお……マックスくんの馬鹿! 言ってよ!」
「ごめんごめん」
「あのねレインくん違うの……違うんだよ」
「……お前の机の中からこれが出てきた」
「そっ、それは! ベストカップルコンテストのエントリー用紙⁉︎ あーっ待って待って! 破いちゃいや! イヤーッ!」
「ふん」
「うわあああん」
「ガチ泣きだ」
「うう、ええん、うえっ、うえええ」
「落ち着け、ちゃんと息をしろ」
「うあああ、おえっ……レインくん嫌な思いさせてごめんねえ、嫌いにならないでえ」
「……エントリーする前だったからもういい。だから泣くな」
「……う、うーん」
「……おい」
「だってえ! 『今エントリーしないと募集枠満了になる可能性もあります』って言われたからあ! ごめんなさい許してええ」
「退け。辞退してくる」
「魔法契約だから契約者が死なない限り辞退無理……私の命を持ってお詫びします……」
「やめろ」
「えーんレインくんが杖取ったあ」
「これはレインが諦めた方が早いんじゃないか? ほら、こんなに泣いてるし」
「……チッ」
「うえええん、嫌いにならないでえええ」