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 曲がりくねった、薄らぼんやりと暗く狭い道。足元から漂う冷気が肌を冷やし、時折聞こえてくる囁き声は聞き取れないからこそ恐ろしい。録音したものを流しているのか、途切れることなく同じメロディーを繰り返すピアノの音色が不気味だった。
「えーん。暗いよお、怖いよお」
「うるさい子ね」
「ここから出してよお」
「ゴールはまだ先よ。と言っても、そのへっぴり腰じゃあと何時間かかるか分かったものじゃないけど」
 マーガレット・マカロンが冷たい。これが半殺しにした相手への態度か? もっとこう、申し訳なさを全面に出てくるべきだと思う。
 私よりもずっと大きな歩幅ですたこらと歩いていくマーガレット・マカロンを、からかわれた通りのへっぴり腰でよたよた追いかける。自分が連れ込んだくせに置いていかないでよ!
 ──人気のない廊下で出会してしまったマーガレット・マカロンに連れ込まれた先はおばけ屋敷だった。マーガレット・マカロンのクラスの出し物らしい。
 昨年コインの奪い合いという名目の元行われた互いの実力調べの勝負で私はマーガレット・マカロンに惨敗し、生死の境をさまよった。結果的に生き残ったため「半殺しにされた」と言えているが、後ちょっとで全殺しになるところだったのだ。
 そんな相手とそれ以来の再会ということもあり咄嗟に抵抗できなかった私は、今こうしてお化け屋敷を歩かされているというわけ。半殺しにされるより酷いよ。
 しかもこのお化け屋敷、かなりクオリティが高い。怖がらせるのと驚かせるのとを同時にやってくるから、こちらとしてはもう気絶しそうなぐらいだ。
「うわーっ! なんか降ってきた! なんか降ってきた! なにこれ……ギャーッ! 顔のない人形だーっ!」
「本当にうるさいわね」
「レインくん助けてーっ!」
 突然降ってきた人形に驚いて腰を抜かしてしまった私を見下ろして、マーガレット・マカロンは「意外な弱点ね」と呟いた。心外だ。おばけが怖くて何が悪いというのか。言っとくけど私は幽霊も苦手だからな。おばけと幽霊の違いは分からないけど。
 おばけ屋敷は怖いし、マーガレット・マカロンは冷たいし、レインくんは迎えに来てくれないし。腰が抜けて前にも後ろにも動けなくなってしまったため、ここに連れ込まれた時から持ちっぱなしのケモ耳カフェの看板を抱きしめてしくしく泣く。世界が私に優しくない。
「そこで這い蹲ってても出口にはつかないけど」
「……マーガレット・マカロンには私をこのおばけ屋敷に連れ込んだ責任がある。よってその責任を果たし、私を外まで連れていくべき」
「随分上から目線な腰抜けですこと」
「おばけ怖い」
「所詮紛い物、本物はここにはいないわよ」
「本物がどこかにいるみたいな言い方やめてよ!」
「魔法史の第二資料庫にいるって噂」
「あああああ私が週一で呼び出されてるとこおおおおお」
 なんでわざわざそんなところに!
 えーんえーんと声を上げて泣いていると、ため息をついたマーガレット・マカロンが「仕方ないわね」と言ってひょいと私を持ち上げて肩に担いだ。うおお、いつもよりも視線が高い。しかもすごい安定感。形がお腹にめり込んで痛いけど、その痛みもここから出られることを考えれば安いものだ。
 安定感はあるが以前半殺しにされたことへの恐怖も当然あるため、振り落とされないようにしっかり掴まっているとすぐに出口に着いた。マーガレット・マカロンへ私と比べてかなり背が高いし、足も長い。だから早く着いたんだろう。ラッキー。
 受付に座ってお菓子を食べていた女の子は私を担ぐマーガレット・マカロンと大人しく担がれている私を見て「エッ」と声を上げていた。去年の私たちの戦いは結構有名だからね。校舎の一角を破壊し、校庭の一部を更地にし、そして私は死にかけた。そんな私たちが一緒にいるという珍しい光景をお見せしてしまった。言っとくけどレアだよ。
 受付の子にケモ耳カフェの看板を振って宣伝している私に気付かず、マーガレット・マカロンはドアを開けてすぐに私をひょいっと投げた。やっぱり扱いが酷い。私だったから良かったけど、私じゃなかったら着地できなかったかもしれないぞ。
 しかし、マーガレット・マカロンのおかげでおばけ屋敷から脱出できたことは事実。そもそもおばけ屋敷に入ることになった原因もマーガレット・マカロンであるということをすっかり忘れた私は素直に「ありがとう」とお礼をし、マーガレット・マカロンも「どういたしまして」とそつなく礼を受け取った。
「……どうせならマーガレット・マカロンの演奏会の方が良かったんじゃない? おばけ屋敷より人集まったと思う」
「文化祭っていうのはそういうものじゃないでしょ。まあ性欲を前面に押し出したカフェを企画立案したアンタには分からないかもしれないけど……」
「それ私のこと? 私そんな風に思われてるの?」
「挙句の果てにはレイン・エイムズにいかがわしいプレイを強要して破局したとか。青い春ね」
「それ私のこと……?」
 誰だそんな根も葉もない噂を流したやつは……。ぶちのめすぞ。
 一瞬そう考えたものの、ハッとした。いや、その噂こそが私たちの真の関係性を表しているのでは……? 私たちってやっぱり加害者と被害者なんだ。
 一瞬で悲しくなって涙が出てきそうだったが、なけなしのプライドが「マーガレット・マカロンの前では泣けない」と私を支えてくれた。そうだそうだ。
「マーガレット・マカロンは、私のライバルだから……」
「突然何言ってんの、アンタ」
「次は私が半殺しにするから……具体的には三学期末以降に……」
「最終試験後じゃないのそれ」
「だって最終試験前に問題起こすとヤバいもん……」
 レインくんはきっと私のことが嫌いだろうけど、私はやっぱりレインくんのことが好きだ。こんなに沢山嫌な気持ちをさせておいて今更なんだって思われるかもしれない。でも、レインくんが神覚者にするのが今の私の夢だから。
 マーガレット・マカロンに背を向けてとぼとぼ歩き出してすぐに、「変なコね……」という呆れたっぷりの声が聞こえてきたけど、それはマーガレット・マカロンに言われたくない言葉ランキング一位だよ。

ふたつおりのひとひら