21

 うちの学校は生徒がそれぞれ三つの寮のどこかに所属することになっていて、三年間その寮が変わることはない。授業も基本的には寮ごとクラスごと。
 だからこそというか、まあ仕方ない話なんだけど、必然的に交友関係が偏りがちになる。神覚者を目指す生徒はコインを巡って熾烈な争いを寮内外で繰り広げるわけで、そうなってくると「みんななかよく」はそもそも無理な話なのだ。
 比較的顔が広くて友人が多い方だと自負している私だって、他寮生となるとちょっと気まずいこともある。特にレアンね。レアンの人たちはみんな他人を下に見てる空気出してくるし、私が歩いてると「魔法史万年赤点女!」とかからかってきたりするし……。うるさいわボケ。本人が一番分かってるんだよそんなことは。
 まあそんな感じだから、寮ごちゃまぜの課外授業でも他寮の生徒とはあまり絡まない。私は大体いつもレインくんとマックスくんと先輩と四人でいて、他の人たちも大抵は仲のいい人と一緒にいる。先生たちもそれに慣れているから何も言わない……はずなんだけど。
 今日の課外授業はいつも担当している先生が急遽欠勤になったとかで、普段お世話になることのない先生が担当することになった。たまに廊下ですれ違うことはあってもほぼほぼ初対面の先生だ。どんな授業なんだろうとちょっと緊張していた私の耳に授業開始早々に飛び込んできたのは、衝撃的な一言だった。
「今日は他寮の生徒とペアを組むように」
 そ、そんなことある⁉︎
 生徒たちの動揺のざわめきが巻き起こる中、先生はそんなことは気にせずに淡々と説明をしていった。数ヶ月前に突如現れて魔法局の皆さんに退治されたクマが森中に餌として危険な生物の卵みたいなものを埋めていったらしくて、それを掘り起こすらしい。冬になったら孵化するからその前に、だって。春じゃないんだね。
 それはそれとして、ペア、誰と組もう。他寮の知り合いと言われて真っ先に思い浮かぶのはマーガレット・マカロンだけど……。
 そう思ってマーガレット・マカロンを探してみたのだが、やつめ、なんと先輩に声を掛けて既に「自分たちはペア組みますけど?」みたいな空気を醸し出していた。なぜ? 二人とも何か話して笑っているから、余計にどういう繋がりが分からなくて困惑する。
 他に誰か……とキョロキョロしているうちに、マックスくんはレアンの女の子に声を掛けられている。女子! なんかムカつく!
 そんな感じでペアはどんどん決まっていく。やばい、このままじゃ残っちゃう。「余った人は先生とペアを組む」とかいう罰ゲームみたいなことになったらどうしよう。
 ……いざとなったらレインくんとペア組んじゃおっかな。バレるかな。普通にバレるか。
 いつもの真顔で隣に立っているレインくんにはなんの動揺も見られないが、その立ち姿があまりにも堂々としているせいか周りに誰も近寄ってすら来ない。まずいぞ……! 誰か、誰かいないの……⁉︎
 これまでの倍の速度で首と目を動かして私たち以外に余っている人がいないのか探していると、少し離れた位置にいるレアンの生徒二人と目が合った。フードに仮面を合わせた変な人と、人形を抱えてるウォーカー家の……たしかアベルくん、かな?
 あの二人も周りに誰もいないし、私たちと同じくペアが決まっていないんじゃないだろうか。ちょうどお互い二人組。これはもう声を掛けるしかない……! レインくんの手を取って、レアンの二人の元へ駆け寄り口を開いた。
「あのっ! 良ければペア組んで欲しくて!」
「……」
「……」
「……」
「む、無視!」
 三人いて三人とも無視ってなに? みんな口下手なの? そんなことってあるの? レインくんはまだいいよ。私がいつもたくさん喋ってるもの。でもレアンの二人はいつも無言なの? そんなことないよね?
「えっと、じゃああの、仮面の人! 私とペア組もう!」
「……」
「なんか喋ってよお……」
 えーんと泣き真似してようやくレインくんが口を開いてくれた。
「お前の相手はオレだ」
「えっ? レインくん? これそういうのじゃないよ?」
「受けて立ちましょう」
「仮面の人も受けて立たないで?」
「……」
「また無視!」
 どうして無視するの? 私のこと嫌いなの? 今まで話したこともないでしょ。なのになんで……。
 困惑する私を他所に、二人はさっさと森の中に入っていった。その二人を皮切りに、他のペアも続々と歩いていってしまった。ええ……。
 チラッと隣を見るとアベルくんと目が合った。そのままお互い数秒見つめ合う。……気まずい。
「……あの」
「行こうか」
「あ、うん」
 喋った!

 +

 そんな始まり方だったにも関わらず、私たちは課題は概ね順調にこなしている。喋る必要のない課題だったのが良かった。私が卵を見つけて、アベルくんの人形がそれを掘って、カゴに入れる。この単純な動作を繰り返しているだけだが、既に卵はかなりの数が集まってきている。このまま行けば結構いい成績が取れるかも。
 途中で「私たちって案外相性いいかもね!」とアベルくんに声を掛けたんだけど、ガン無視されて終わった。私の方を見向きもしない、あまりにも堂々とした無視だった。声聞こえてないのかな? と疑問に思うレベル。悲しかったのでそれからは声を掛けていない。
 こうしてほかの人と一緒にいると実感するけど、やっぱりレインくんは優しいな。私がどんなにくだらないことを言ってもちゃんと反応してくれる。先輩がどこかに行って帰ってこなかった夜に部屋で変な音がして、怖くなった私がウサちゃんルームを尋ねて「今日は魔法史の第二資料庫に行ったから多分呪われたんだ、このまま呪い殺されるんだあ」と泣きついた時も五分ぐらい悩んでからウサちゃんルームに泊めてくれたし……。朝起きてソファーで私が寝てるのを見てマックスくんはすごい驚いてたけど、「レインくんが入れてくれたんだよ」と言ったら納得していた。ね、レインくんは優しいでしょ。
 でもアベルくんに「レインくんぐらい私に優しくして」というのは色々無理だろう。そもそも声掛けても無視されるから言ったところで無駄かもしれない。……変なこと考えるのはやめて、一人でしりとりしてよう。
 猫、コアラ、らくだ、だ……だ……?
 だのつく動物って何かいたっけ。全然思い浮かばない。
 うーんと悩んでいると、何メートルか先に変なものが埋まっているのを見つけた。なんだあれ。
「アベルくん、待って。何かある」
「……どの辺り?」
「あと十メートルぐらい進んだ辺り。待ってね、今見るから……うん……? なんかすごいでかい卵かも……縦も横もアベルくんぐらいある」
 うーんと唸りながら目を凝らして地中に埋まった不審物が何なのかを確認する。形は丸っぽいから、やっぱり卵なんだろうか。でもこれまでに拾ってきた卵の何倍何十倍も大きい。報告したとおり、縦にも横にもアベルくんぐらい……いやそれ以上の大きさがある。
 私が立ち上がって巨大卵の大きさを推し量ろうとしている間に、アベルくんはどんどん歩いていってしまった。ええ……。私が言うことじゃないけどマイペースな人だなあ。
 しかもちょうど卵の辺りで止まったかと思えば、人形に何かを命じて土を掘り起こし始める。ええ⁉︎
「ちょっ、えっ、なにやってんの⁉︎ 危ないよ!」
「放置しておく方が危ないだろう」
「それはそうだけどお」
 でも掘り起こしたって運べないじゃん。え、運ぶの? 人形が? ……あ、私ですか。いや、確かに箒に乗れば私なら運べるだろうけども!
 アベルくんって意外とマイペース。そして強引。一応二年近く同級生として同じ学校に通ってたけど全然知らなかったよ。
 どんどん土を掘り返して卵を露出させていく人形を、アベルくんの隣に立って見つめる。やっぱり大きいな。これを運ぶのか……出来るけどね? そういう問題でもないでしょうよ。
 そんなことを考えながら結構近くで見ていたのだが、近すぎたのか掘り起こした土がちょっと飛んできたので、咄嗟に手を前に出してアベルくんの抱えている人形を庇った。……よし、汚れてない。
 手の甲についた土を払って、アベルくんのローブの袖を引っ張って一歩下がった。やっぱり近すぎてもダメだからね。
 そうしてふうと一息ついたのだが、ものすごい視線を横から感じる。無駄に緊張しながらアベルくんをちらっと見上げると、かっぴらかれた目と見つめ合うことになってしまった。おお。これは「なんだこいつ」の顔か……?
「……いや、大事なお人形さんなんでしょ? 汚れたら嫌かなと……」
「防御魔法は元々かけてる」
「あっそうですか」
 変に気を使っちゃったってことね。まあそうか。大事なお人形さんなら万が一壊れたりしないように手は尽くすか。
 なんだか気まずくなってきて下を向くと、アベルくんが「昔」と徐に呟いた。顔を上げてもう一度アベルくんの方を向く。既にその視線は掘り起こされる卵と掘り起こす人形に向かっていたため、目は合わなかったが。
「母が生きていた頃、母の友人の子と家のそばの森の中で迷子になったことがある」
「……ふーん」
「出口を探して歩いていたらその子が『変なものが埋まってる』と言い出して、二人で地面を掘った」
「……」
「出てきたのは錆びた剣で、どこからどう見てももう使えないものだった。でもその子はそれを持って帰ると言って聞かなかった……」
「結局その二人は帰ってこない子どもたちを探しに来たお互いのお母さんにたくさん怒られて、拾った剣はどこかの犯罪者が埋めたものだったので証拠品として没収されましたとさ。……よく覚えてたね? 私言われるまで忘れてたよ」
「僕もついさっき思い出したんだ。君のその目がお母上にそっくりだったから」
「よく言われるー」
 ぴかっと光る五芒星が浮かぶ私の目は母上譲りのものだからね。綺麗だと好評です。
 それっきり卵が完全に掘り起こされるまで何も話さなかったが、これまでのような気まずさはもう感じていなかったし、きっとアベルくんもそうだったのだろう。授業終わりに「じゃあね」と言って手を振ったら軽く手を上げてくれた。
 ちなみに、レインくんと仮面の人は卵そっちのけで戦ってたらしくてボロボロになっていた。もう、レインくんったら。

ふたつおりのひとひら