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「はいはい退いて退いてー! 急患通りまーす!」
急患の乗ったストレッチャーで人を轢きながら猛ダッシュ。ストレッチャーに強化魔法をかけ、急患にも保護魔法や固定魔法、その他諸々揺れ防止だとか応急処置だとか極々限定的な痛覚麻痺だとか複数の魔法を同時に使えるだけの魔力があるからなせる技である。一緒にストレッチャーを押してくれているナースさんがめちゃくちゃ足が早いのも良かった。もちろんいい子は真似しちゃダメだよ。
ぴゅいーっと廊下を駆け抜けて処置室に到着すると、ストレッチャーを部屋に入れながら隣の部屋で別の患者さんの処置をしている父上に向かって「次もここでいいの⁉︎」と声を掛ける。
「あと何人だ!」
「ざっと見た感じ五人はいた! でもまだ増えてるよ!」
「五人! ダメだ手が足りん、ひいおばあ様を呼んで二階を開けろ! そのあとお前もこちらに入りなさい!」
「分かりました!」
運んできた患者さんの処置はナースさんに任せ、怪我人でひしめく処置室を飛び出す。そのまま箒を召喚してすぐそばの窓から飛び出した。ババ上……ではなく、ひいおばあ様の病院まで向かうならこっちの方が近道になる。外は今危険だけど、私なら自衛もできるし……。
そう思ったちょうどその瞬間に、あまり遠くない場所でちゅどーんっと爆発が起こってカッと辺りが眩しくなった。咄嗟に爆発の起きたのとは反対側に顔を逸らして目を細めながら、箒に魔力を込めて加速する。
今の爆発が起きたのは首都の方。それも魔法局の辺りだった。見るまでもなく分かることで、怪我人は確実に増えている。急いでババ上を呼んでこなくては。
──首都で爆発騒ぎが起きたのは、今から三十分ほど前のことである。年末で人通りが多かったこと、ちょうど昼時で飲食店などは忙しなく火を使っていたことが被害拡大の要因になった。
現場に居合わせたが被害が軽かった患者さんに聞いた話では犯人は三名の覆面集団で、二人は確保されたが一人は未だに爆発を起こしているらしい。恐らく先程の爆発もその一人の仕業と思われる。
神覚者様たちも出てきて対処に当たってくれているらしいが、なんでも捕まえた犯人が他にも爆発物を仕掛けたと言っているそうだ。そちらの捜索にも当たらねばならず事態は芳しくない。
首都と魔法局にほど近い実家の病院は、こういう事態になれば当然わんさかと急患が運び込まれてくる。学校が長期休暇に入っているためいつものように父上の仕事の手伝いをしていた私もこうして一戦力として駆り出され、今は更なる戦力を確保するためババ上の元へと箒を走らせているのだ。
先程の父上との会話や院内の状況からも分かる通り、とにかく人手が足りていない。なるべく早くババ上の元へ辿り着き、なるべく早く戻ってこなければ。そしてそのためには近道をするべきである。そうでしょ?
なので私は先程爆発の起きた魔法局上空を突っ切ることにした。だってここを通った方ババ上のところに早く着く。だから仕方ないんだよね。
もちろん爆発で吹っ飛ばされるのは嫌なので防御魔法もしっかりかけている。固有魔法を使って強化した防御魔法だから余程の攻撃でもない限り無傷で通り抜けられるはずだ。しかもかなりスピードを出しているからすぐ飛び抜けられる。
途中で爆発魔と戦っているカルド様とすれ違ったが、私が早すぎたようで「ん?」と言われて終わった。スピード狂の本領発揮よ。
そのままスピードを落とさずに空をかっ飛ばしていると、私よりも低い位置を見覚えのある人が飛んでいるのが見えた。あ、あれは!
「レインくんだーっ!」
ぎゅんっと高度を下げ、スピードも少しだけゆるめて隣に並べば、レインくんは驚いたように目を見開いて私の方を見てきた。それにピースをして、「もっとスピードあげてっ!」と声を掛ける。行きたい方向は一緒みたいだし、このまま途中まで一緒に行こう! こんな時でも、休みの日に偶然会えたことに変わりはないし!
「こんなところで何やってる⁉︎ 病院はどうした!」
「サボってないよー、ババ上呼びに行く途中! 人足りないの! レインくんはっ?」
相当な速さで箒を飛ばしているためお互いの声が聞き取りずらく、自然と声を張ることになる。レインくんは風のせいで乱れて視界を遮る前髪を煩わしそうにかきあげて、「犯人!」と叫んだ。レインくんの大声、久々に聞いた。うーん、声も大好き。
「犯人を追ってる!」
「えっ、あそこでカルド様が戦ってる人以外は捕まえたんじゃないの⁉︎」
「もう一人、まだ逃げてるやつがいる!」
「えーっ! やばいじゃん!」
逃がしちゃったらまた爆発が起きて、何人も怪我をするかも……それはやばい!
舞い上がる前髪を押さえる余裕もなく、辺りを見渡して「どんな人⁉︎」と尋ねる。レインくんがこっちに箒を進めているってことは、こっちに犯人は逃げたはずだ。
私が何をしようとしているのか気付いたのかレインくんはこちらに手を出してきた。なになに? 手を繋ぐのは地上に降りてからがいいんだけど……。浮かれたことを考える私を他所にレインくんは口を開く。
「交戦した時に着いた傷、これで分かるか!」
「き、傷ぅ⁉︎ 早く言ってよレインくんのばかばか! あーっ痛そう! 治……しちゃダメなのか!」
「そんなことはどうでもいい、早くしろ!」
「もー、分かってる! あとで治すから絶対うち来てよ! えーっとその魔力は……」
若干スピードをゆるめながら眼下に広がる街並みを見下ろす。そもそも人が多いし、爆発が起きて混乱しているし、治療のために何人もが魔法を使っているしで情報量が多い。キリキリ痛み出した頭を手で押さえて堪えながら犯人を探した。
えーっと、えーっと……あ、ババ上とオチョアだ。そっか、ババ上の方からこっちに出てきて治療してくれてたんだ……じゃなくて、犯人は……あーっ!
「ババ上ーッ!」
叫びながら急降下を始め、声に反応してか治療の手を止めてこちらを見上げたババ上に「その人ッ!」ともう一度叫ぶ。
「そこの爆弾の柄のシャツの人! 捕まえて!」
私が何を伝えたいのかこの短い言葉だけで分かってくれたようで、ババ上はサッと辺りを見渡し、次の瞬間には犯人に向かって走り出していた。そして空高く飛ぶ。助走のついた飛び蹴りをまともに食らった犯人は吹っ飛び、瓦礫の山に突き刺さったのであった──。
「ふう、一件落着。レインくんレインくん、私頑張ったよ! 犯人見つけたよ! 褒めてー?」
「よくやった」
「やーん、そんなに乱暴にしたら髪ぐちゃぐちゃになっちゃう! もー、レインくんったら……もっと撫でてー!」
地面に降り、レインくんに抱き着いて頭を撫でて褒めてもらい満足している私は、この直後、音も気配もなく背後に近付いていたババ上……ひいおばあ様に「ババ上と呼ぶんじゃねぇダボが」と鉄拳制裁されることをまだ知らない。これは正に、束の間の愛しき平和ってこと──。