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「えーっ! マーガレット・マカロンいないの⁉︎ どうして? この私の、ライバルたる私の晴れ舞台ですよ⁉︎ なぜ⁉︎」
「幻のタルタルソースを求めて先週から旅に……」
「おかしいだろアイツーッ!」
ギャーッと叫んで地団駄を踏むと、マーガレット・マカロンの友達? 部下? 後輩? とにかくマーガレット・マカロンと親しくしている一年生二人は軽く飛び上がって怯えた顔をした。ああ、いけないいけない。先輩としてもっとこう、かっこいいところを見せねば。
ごほんと咳払いをして、暴れたせいで乱れた髪をサッと後ろに流す。そういえば髪もだいぶ伸びたな……。試験終わったら切りに行こうっと。まあそれは今はどうでもいい。
「とりあえず! マーガレット・マカロンが帰ってきたら言っておいてくれる⁉︎ 再戦の申し込みをするから私に会いに来いと!」
文化祭の時にも言ったが、再戦を挑むつもりは消えていない。次こそ勝つと気合いも入れているし、勝てる自信もある。
なにせ! 私は神覚者選定最終試験まで勝ち残った超エリートなんだから!
ふんっと胸を張って、「分かりましたー」「失礼しまーす」と足早に去っていったオルカの一年生二人を見送った。気を付けて帰れよ!
伸びた髪をもう一度後ろに流し、召喚した箒に飛び乗って一年生二人とは反対方向に進み出す。目的地はない。私たち最終試験出場者は試験終了まで課題が免除されているから図書室に行く必要もないし、学期末試験に関しても「最終試験のために準備してたら勉強まで手が回らなくてえ」と言って適当に乗り切るつもりだ。魔法史? 知らないよ。あれはね、やるだけ無駄。
じゃあどこに向かおうかというと、やはり目的地はないのでただただゆらゆらと箒で進む。すれ違った何人かに「頑張れよ」と声を掛けられたので親指を立てて答えておいた。頑張るよ。
最終試験は明日。試験前の調整は既に終え、あとはもう本番を待つだけである。そもそも神覚者になる気がなくレインくんのサポートに徹すると決めている私としては、サポートに適した自身の固有魔法を磨いたり乗る機会があるかもしれない箒を改造してみたり、それぐらいしかやることがなかった。なるようになると信じているのでね。
妹も中継を見ると言っていたし、ライオ様にも「期待してる」と言われたし、みんなにいいところを見せなくては。先輩なんて賭けの胴元やってるらしいよ。あの人、次進級出来なかったら退学らしいけど進級する気あるのかな……。
とにもかくにも私は私なりに頑張ろう。だから見ててね母上! 私、母上と同じ舞台に立って、全力を尽くしてくるからね!
きっと応援してくれているであろう母上を思ってむふふと笑っていると、向こうから見覚えのある人が歩いてくるのが見えた。あ、あれは!
「レインくんだー!」
「……ああ、お前か」
「そうだよ私だよー! さっきぶりだねえ! 修行どう? 上手くいってる? 私でよければ手伝おうか?」
「一戦頼む」
「まっかせてー!」
ぴゅーんっと箒を飛ばしてレインくんの元へひとっ飛びし、勢いを殺すことなく飛び降りて抱きつけば普通に受け止めてくれた。わーい。レインくんは元々体幹が優れた人だけど、最近は更に、こう、力が強くなった。私が不意に飛び付いても絶対に受け止めてくれるしビクともしない。筋肉も増えて体もがっしりしてきたし……かっこいー!
いつものように腕を組んで抱き着いたまま来た道を引き返していく。さっきまで頑張っていたようで、レインくんの体からは少し汗の匂いがした。むふふ。レインくんの匂いだ。
少々変態チックなことを考えている私にレインくんは何も言わなかった。いつもならあれこれ言ってきたり嫌そうな顔をしたりするんだけど、今日はちょっと緊張しているのかもしれない。見上げた先にある横顔も心做しかかたい。まあそうだよね。試験、明日だもんねえ。
私は「レインくんを神覚者にすること」を目的にしているから、緊張はしていない。レインくんならば神覚者になれると信じているからというのもある。
でもレインくんにとって神覚者になるのは目的への一歩目に過ぎず、その一歩目を踏み出せなければ何も始められない。その思いの強さは私なんかには到底測りきれないものだ。
腕に触れていた手をゆっくりおろして、その手に触れる。そのまま許可も取らずに手を繋いで、肩に頭を預けた。歩きにくいだろうに、レインくんはやっぱり何も言わない。
「レインくんは神覚者になれるよ。私が保証する」
「……」
「言葉は行動して初めて意味を持つ。事を成さなければ言っていないのと一緒……でしょ? 大丈夫。私は明日、行動で示すよ。君は神覚者になれる。私が君を神覚者にする。それで君はこの世界の仕組みを変えるんだ」
それはきっと生半可なことではない。神覚者になるまでよりも、なってからの方が大変だろう。世界はすぐには変わらない。人はすぐに変われない。でもレインくんなら大丈夫。この二年間でレインくんの強さはよく分かった。君は魔法の腕はもちろん、心だって意思だって誰より強いんだ。
レインくんの横顔から目を逸らし、視線を足元へと向ける。同じ模様が繰り返されるだけの変哲のない廊下。こんな普通の廊下だってレインくんと一緒にいるだけで特別なものになる。私がひとりで喋っているだけのこの時間だって、大切な思い出になる。
ああ、かつてこの道を母上と父上も歩いたのだろうか。大切な試験の前日に二人で会ったりしたのだろうか。
そんなことですら私はもう母上に聞けない。母上は死んでしまったからだ。人が死ぬというのはそういうこと。二度と会えなくなるというのは、そういうことなのだ。
でも知っていることもある。母上は最期まで成すべきことを成して死んだ。自分に嘘をつかなかった。たとえ最期に残ったのが後悔でも、やりたいことをやりきったのだ。母上は役目を果たした。ならば、そこまでして母上が守りきった何かを、誰かを私も守りたい。私も母上のように、成すべきことを成して死にたい。
「レインくんが神覚者になるところ、一番近くで見せてね」
「……それだけか?」
「うん? あ、じゃあ授与式でぎゅってしていい⁉︎ あれって中継されてるでしょ、世界中の人たちに私たちの仲良し具合をアピール……って何その顔! 『いつも勝手に抱きついてくるだろ』の顔?」
「もういい」
「もういい⁉︎ えーっ待って待って! 次は当てる! 絶対当てるから!」
呆れたような怒ったような顔をして他所を向いてしまったレインくんに必死で言い募る。二年間も一緒にいたら大体顔を見ただけで何を考えてるかは分かるようになってくるけど、たまに外すことだってある。今のはその「たまに」! 普段は八割ぐらいの確率で当てられてるの!
っていうか、元はと言えば口下手で口数少ないレインくんにだって問題あるよね! 言いたいことがあるなら言ってくれればいいのに! もう! ……まあ、そういうところも好きだけど!