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いっけなーい、遅刻遅刻! ……よし、一言目はこれで行こう。最初のインパクトが大事だってひいおばあ様も言ってた。それにこれだとなんか恋が始まりそうな気がする。食パンを咥えてレインくんにぶつかれば恋は更に加速しそうだ。
ふむ、と決意をして、箒を加速させた。恋のついでにこっちも急ごう。試験が始まってからだいぶ経ってしまっている。
ふと気になったので軽く振り返ってはみたが、先程まで一緒にいたカルド様はもう見えなかった。危ないから会場まで着いていくと言ってくれたのに、「急ぎたいです!」って言って置いてきちゃったんだよねー。これってあとで怒られるやつ?
でも事情と見解はあらかた説明したんだよ。カルド様はそれを他の神覚者様たちに説明するために魔法局に向かったってことにできないかな。……できないか。
まあ怒られるのはもう受け入れる。今来てる制服が先輩によると「保健室で借りてきた」、つまりはパクってきたものだという時点で怒られる覚悟は決めているからね。先輩も善意でやってくれたわけだから……。
そんなことを考えながら箒を飛ばしていると試験会場であるなんとかの屋敷がかすかに見えた。おお、あそこだ。なんとなくだけどレインくんの魔力を感じるから間違いないみたい。結構早く着いたな。
カルド様を完全に撒けるぐらい箒も飛ばせちゃったし、こんなに距離があってもレインくんの魔力を感じるし、やっぱり魔力の総量も出力も上がってるみたいだ。ひいおばあ様の言っていたとおり、「稀によくある」ってやつだね。目の中の母上譲りの五芒星も心做しかぴかぴかしてると父上に言われたし、私の体に何かしらの変化が起きていることは確実だろう。その変化が良い方向に作用しますように!
そう願っている間にも早速なんとかの屋敷の上空に到着した。レインくんの魔力をさらに強く感じ、血が沸くような妙な気持ちになる。急降下して屋敷の門の前に辿り着くとその感覚はさらに強くなった。背中の辺りがゾワゾワして、やけに頭がくらくらする。早く早くと見えない何かに急かされるようにして扉に手をかけたが、ビクともしなかった。……うん?
「し、閉まってる……!」
押しても引いても、なんなら横にスライドさせてみようとしても門はビクともしない。それどころか何かの魔法がかかっている痕跡さえ見えた。えっ、私こう見えても試験出場者なんですけど! ここに入る資格は持ってるはずなんですけど⁉︎
試験の模様が中継されているというだけあって、私の周りにもそういう魔法の気配を感じる。ならば今の私の様子も観戦者や試験を監督する魔法局の人たちに見えているはずだ。これは抗議をしなくては。
「入れないんですけど! 開けてください! ……無視しないで! もういいです、壊しますからね! 私はちゃんと『開けて』ってお願いしたのに、開けてくれない方が悪いんですからね!」
箒をくるりと手の中で一回転させると思った通り大鎌へと変化した。おー、なんか鎖が前よりもジャラジャラになってる。まあこれぐらいはいいか。
変化した大鎌を魔力を込めて思いっきり振りかぶり、横薙ぎに一閃する。すると門どころか屋敷の扉の方まで壊れてしまった。あと門と屋敷の間にあるなんか高そうな噴水とか石像とかも壊れちゃったし、周りの木も結構な範囲で折れた。それに屋敷もちょっと崩れちゃった……。
言い訳するとここまで壊す気はなかったんだけど……でも、開けてくれない方が悪いよね。うん。壊す直前にちょっと門が開きだしてた気もするけど、それは見間違いだよね。
うんうん頷きながら大鎌に乗って、跡形もなく崩れた門を越えた。そのまま扉も突っ切る。その瞬間にバチッと静電気みたいななにかを感じたけど、多分侵入防止の魔法とかだろう。私はここに入る正当な権利を持っているので通過できたようだ。
屋敷の中は薄暗く、嫌な気配で満ちていた。遠くの方から戦闘音が聞こえてくるし、至る所に戦闘の痕跡がある。壁にはよく分からない調度品や高そうな絵が飾られていた。趣味悪ーい。うちには起きたくないな。
それらを観察しながら行く宛もないのでレインくんの魔力を目指して進んでいると、突如目の前に大きなイノシシが降ってきた。その額に生えたドリルみたいに鋭い角が、明かりを反射してキラキラ光っている。毛並みも白くてツヤツヤだし、なんか強そう。
フンフンと鼻息荒く突っ込んできたイノシシをサッと避けて、空中から見下ろす。なんだこのイノシシ。誰かのペット? それとも試験の刺客とか? 危ない生き物とか罠とかがたくさんあるってカルド様は仰ってたけど……。
「それにしては弱そう」
大鎌から飛び降り、柄を掴んで落下の勢いのままに振り下ろす。まともに脳天に打撃を食らったイノシシは「ぷぎゅっ」と鳴いたっきり動かなくなってしまった。うーん、こんなに弱いってことはやっぱり誰かのペットかな。
血が飛び散るのは嫌だったので峰で殴りつけた甲斐あって、死んではいないが気絶はしているイノシシの周りを大鎌に乗って飛び回りながら観察する。殴ったのは私だけど、たんこぶが痛そうだ。人のペットを殴ってしまったなら飼い主に謝るべきだと思うけど、でもこんなに大きいイノシシ運べないな……そもそもこんな所でペットを放す飼い主も悪くない?
だいたい私は早くレインくんのところに行きたいんだ。人のペットのことなんて構ってられるか! このイノシシは、何か重いものが上から降ってきて勝手に気絶してしまったんだろう。可哀想に。起きたら自力で飼い主を探しなさいね。
そういうことにして、この様子が全て中継されていることも忘れて可哀想なイノシシに背を向けると、背後からぽんっと可愛らしい音がしてもくもくと白い煙が昇った。え、なに? イノシシの罠?
慌てて振り返った私の目に異様な光景が飛び込んでくる。ぷぎゅぷぎゅ泣く小さなイノシシ……いや、ミニブタ……? が、きらきら光ってる五芒星の形をしたマスコット? みたいなものを持ってよたよた歩いていたのだ。ええ……? 事態についていけず意味もなくミニブタから距離をとると、ミニブタはより悲壮な声で鳴いて短い手足を懸命に動かして近付いてきた。なになになに。
「ええ……? ちょっと角生えてるし、さっきのイノシシだよね……?」
「ぷぎゅう」
「これくれるの? 何か分かんないけどありがとう。部屋に飾るね。あの、私行かなきゃいけないとこがあってね」
「ぷぎゅ……⁉︎」
「……一緒に来る……?」
「ぷ!」
「そっか、来るか……」
懐かれちゃったよ。
もらった五芒星のマスコットをローブのポケットに入れ、白い毛並みのミニブタも一緒にポケットに突っ込む。フードに入れようかと思ったけど結構重いしよく動くしで落としそうになったからポケットに入れることにしたのだ。
楽しそうにポケットの中でぷぎゅぷぎゅ言っているミニブタに微妙な気持ちになりながらも、さっきまでよりも安全運転で大鎌を飛ばした。この子の飼い主はどこにいるんだろうか。レインくんに相談しよう。