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 ごうごうと音を立てて屋敷が燃えている。この辺りは木々が多く常にどんよりとしているはずなのに辺りが眩しいのは、屋敷を焼く火のおかげである。
 無事に脱出した私たち受験者一同は遠巻きに燃え盛る屋敷を見つめ、「これどうするんだよ」とばかりにお互いをチラチラと気にしていた。そんな私たち学生を庇うように先頭に立ったカルド様はなかなかに悲壮な背中をして「減棒……」と小さく呟いている。ご、ごめんなさい。
 隣に立つ痴女と顔を見合わせ、アイコンタクトを交わす。これ私たちが悪いの? いや、変な草生やしてくるこの屋敷が悪いでしょ。だよね……。
 経緯を説明するとこうだ。なんか変な草が生えてきて絞め殺されそうになったので、ひいおばあ様にもらった「なんでも燃やすくん」を使った。そしたら屋敷ごと燃えた。以上。
 幸いにも「なんでも燃やすくん」は特定のものは燃やし尽くすが特定のもの以外は燃やさない薬だったため、私たちは難なく脱出できた。屋敷が倒壊する危機こそあれど、未だに中に取り残されているレインくんとセント・アルズの人もきっとそのうち出てくるだろうとそこまで心配はしていない。
 問題は、この燃え盛る屋敷である。中には色々と歴史的に貴重なものも残っていたらしいけど、それらは屋敷の一部と考えるならば塵一つ残らないだろう。……やばいよね、これ。
 呑気に寝ているミニブタを抱え、恐る恐るカルド様のそばまで歩み寄る。
「カルド様……あの、再建するとなった際には私もお手伝いさせていただきますので……」
「ああ、うん……」
「カ、カルド様! お気を確かに!」
 確かに文化財レベルの屋敷がまるまるひとつ焼け落ちるのはシャレにならない話ではあるけども!
 きっと他の方々も話せば分かってくれるはずだ。だってこれは事故。草を燃やすだけのつもりが家まで燃えた。でも本当に悪気はなかった。事故です。
 心做しか項垂れているカルド様の背中をバシバシ叩いて「元気を出して!」と呼び掛ける。蜂蜜飲ませれば元気出るかな⁉︎
 慌てる私と落ち込むカルド様、そしてそれを一歩引いた位置から見ている他の受験者一同。イーストンからもう一人選ばれていた三年生の先輩はいつも私がこんな感じなのを知っているため呆れ顔だが、ほかの人たちはどちらかと言えば引いている。見せもんじゃねえぞ!
 そんななんとも言えない空気を破ったのは、燃え盛る屋敷から飛び出してきたレインくんとセント・アルズの人だった。敵味方関係なく、二人の無事の帰還におおっと場が湧く。カルド様も「無事でよかった」と大人らしいことを言っていた。さすが神覚者様、持ち直すのも早い。
 顔や服が煤けていたり、色々傷はあったりするものの、見る限りレインくんは無事である。しかもいつもの仏頂面も嬉しそう。これは嬉しい報告が聞けるやつ。
 カルド様にミニブタを押し付け、「え?」と言っているのは聞こえないふりをしてレインくんの元へと駆け寄る。そのまま抱きつけばレインくんの手が私を支えるようにして背中に当てられた。
「お疲れ様!」
「ああ。お前こそお疲れ」
「ううん、私なんにもしてないよ。強いて言えば遅刻してきてー、ミニブタ拾ってー、家燃やした!」
「……やっぱりお前の仕業か」
「人は燃えないから大丈夫! 実際燃えなかったでしょ?」
 ふふと笑ってレインくんの顔を覗き込む。煤けた頬を手で拭ってからキスをすると苦い味がした。うえー。メイクしたあとの私の頬にキスをするとレインくんもいつも苦そうな顔をするけど、こういう味がしてるのかしら。
 そのままレインくんの首筋に顔を埋めてくすくす笑っていると、私たちを置いてカルド様が「みんなおつかれー、頑張ったねー」みたいな総評を始めているのが聞こえた。まあ会場が未だに燃えてるからね。どうにかこうにか例年通りに進めようとカルド様も必死なのだろう。
 いつもだとこの後授与式になるけど、ここを放置して授与式に向かうのも……と思ったりしているのかもしれない。私、責任もって燃え尽きるまで見てますよ!
 そうは思ったけど、あれか。私は一応今日の午前中に襲撃にあったばかりだし、これでも死にかけた身。置いていけないのか。じゃあカルド様が一緒に残ってくれたりしないかなと思って顔をあげようとした時に、頭に手が置かれた。そのまま背中に回っていた手にも力が込められる。うん?
「レインくん?」
「お前はオレが神覚者になるところを一番近くで見ていると言ったな」
「うん、言った。見てたよ。まあ、ちゃんと見れなかったけど……」
「……その先はどうする」
「先? え、神覚者になったあと? それは……うーん、卒業するまではそばにいたい……けど」
「それだけか」
「だ、だって、そのあとはもう同級生じゃなくなっちゃうんだよ? 卒業したら一緒にいるのには理由が必要になるでしょ。レインくんはこれからもっと忙しくなるんだし」
「分からねえフリはやめろ。そこまで鈍くないだろ」
「いやいや、待って、あの」
 何が言いたいかは分かるけど! 分かりますけれども!
 突如始まった予想外の話に心臓が暴れ狂っているのがよく分かる。きっと私を抱き締めているレインくんにもそれは分かっているのだろう。落ち着くためにも一旦離れたくてレインくんの体を押したのにビクともしなかった。そんな!
 こうして私たちが話している間にもカルド様の総評は一人一人を褒めるターンに入っており、しかしみんなそれに集中できていないようでチラチラと視線を感じていた。余計に心臓が鳴り、顔どころか全身熱くなってくる。
「言わせてえなら言ってやる。オレはこの先、必ずこの世界の仕組みを変えてみせる。でもそれは一朝一夕で出来ることじゃない。時間がかかるだろう。その間も──これから先もずっと、一番近くでオレを見ていてくれ」
「ひえ」
「返事は」
「……あの、レインくん、みんな見てるよ……痴女とかガン見してる……」
「痴女じゃないって言ってんでしょ!」
「ほら! 聞き耳も立ててる! レインくん、返事は、あの……二人きりの時にさせて? 私もレインくんのこと大好きだしずっと一緒にいたいけど、これ生中継されてるから……さすがに恥ずかしくて」
 今更……とレインくんが思ってるのは顔を見なくてもなんとなく伝わってきたし、カルド様と痴女が「今更……」とボヤく声も聞こえたけど、仕方ないでしょ! みんな見てるんだよ⁉︎ 全国民が注目してるんだよ⁉︎ 恥ずかしいに決まってるでしょ! 私はね、自分が言うのはともかく言われるのは恥ずかしいって感じるタイプなの!
 恥ずかしさのあまり叫んで暴れ出しそうになったものの、頭をひと撫されて黙ってしまう。レインくんは私をよく分かっているから動きを封じるためにわざとやったのだ。悔しい……! その思惑通りにきゅんきゅんしちゃってるから余計に悔しい!
 大人しくレインくんの背中に腕を回し、ぎゅっと力を込める。レインくんがそのつもりならこっちだってもう遠慮しないんだから。
 そんな反撃のような気持ちを抱いていたはずなのに、すぐに嬉しさが込み上げてきてしまう。今までは私がレインくんに「これをして」「あれをするね」ってお願いしてばかりだったのに、レインくんから「これから先も一番近くで見ていろ」と言ってくれた。それはつまり、「これから先もそばにいろ」ってことでしょ。うふふ、嬉しい。
 その気持ちを言葉にしようと口を開く。
「レインくん、私も──ゴフッ」
「⁉︎」
「うわあああ馬鹿が血ィ吐いた! カルドさん! 馬鹿が血を吐いています!」
「落ち着いて。意識はハッキリしてるようだし、急いで搬送すれば手遅れには……」
「うう……母上、そのバイトは反対です……」
「ダメそう! 死ぬな馬鹿!」
 ──そんなこんなで私がレインくんに気持ちを伝えるまでに約一週間の時を要したわけだが、そんなの今後私たちが一緒にいる時間からすれば誤差みたいなものだよね! 

ふたつおりのひとひら