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 いっけなーい、遅刻遅刻! 私、この春からイーストン魔法学校の三年生になる、どこにでもいる普通の女の子! 実家の病院を継ぐことが既に決まっているから、周りのみんなとは違って進学か就職か迷うこともなく学生生活最後の一年も楽しもうって思ってたんだけど、実はトラブルが起きて……!
 なんと、人の家を燃やし尽くしちゃったの! とある試験で訪れたお屋敷にちょっとしたミスで火をつけてしまったら、塵一つ残らず綺麗さっぱり燃えちゃった!
 さすがに物損としてカウントしていい範疇を超えていると魔法局の偉い人からとんでもなく怒られて、私はお屋敷の再建を任されたんだ! 授業より何より再建を優先しろ、一月までには必ず元通りにすることと厳命されて、もう大変! 一緒に放火をした他校生の痴女と、一番に現場に駆けつけたものの消火出来なかった連帯責任として揃って再建を命じられた神覚者様と一緒に頑張ってはいるけど、本当に終わるかなあ?
 不安はいっぱいだけど、好きな人や仲良しの友達と過ごせる学生生活最後の一年はやっぱり楽しみたいよね! 今年は妹も入学してくるし、よーし、張り切っちゃうぞ!
 ドッキドキの新学年編、スタート!
 ……なんて明るく言ってみたところで、私が遅刻をしている事実も、全焼させたお屋敷の再建が若干詰みかけている事実も変わらないわけだ。虚しいね。
 今日も朝から痴女とお屋敷の設計図探しに国中を走り回っていた。まずそれがないのだ。あの火事で焼失したのか元からないのかは不明。再建メンバーの残りの一人であるカルド様も業務の合間を縫って魔法局内を探してくれてはいるようだが、この数日、それらしき情報すら手に入れられていない。詰みです。
 その上、私は編入試験関係の雑事をいくつか請け負っているのでもう大変。妹が編入してくるとあって数ヶ月前に「ぜひ私にやらせてください!」と校長先生に直談判したんだけど、そうまでして手に入れた仕事が重荷になっている。今更投げ出すことも出来ないし……!
 見兼ねた先輩とマックスくんがまだ休暇中だというのにたまに手伝ってくれるが、それでも忙しいものは忙しい。箒をかっ飛ばして、今まさに編入試験が行われている校内に突っ込んだ。今年の編入試験はルッチ先生が担当されているから、あまりにも遅刻するとブチギレられる……!
 そう思って飛ばしまくった甲斐があったのか、幸いまだ試験は始まったばかりのようだった。ルッチ先生が机をバーッと出し、受験生たちがそれに驚いている間に試験用紙と羽根ペンが空から降ってくる。あっ、痛っ、紙当たってる当たってる! 羽根ペン刺さる!
 えっ、なに、なんの嫌がらせ⁉︎ 慌てて紙の雨と羽根ペンの槍の中から脱出し肩で息をする私に気付いているはずなのにルッチ先生はこちらを見向きもせず、受験生たちを席に着かせて試験の開始を宣言した。怒ってるの……? 私が遅刻したから……?
 過激すぎる怒りに怯えながら、空中で受験生全員が見える位置を陣取った。私がこの編入試験で任されているのは、度を超えたカンニングとか受験生同士の脅迫とかを見つけること。母上譲りの特殊な目をしている私ならばと去年から任せてもらっている仕事だ。
 受験生の頭を順繰りに眺めていると、後頭部からして可愛い女の子を見つけた。愛しい愛しい妹である。頑張ってるみたいだ。贔屓はできないけど応援はするからね、頑張……うん? 早いな、あの男の子。もう終わったのか。
 妹を応援している間に早速第一の課題を終えたようで立ち上がった男の子がいた。いけないいけない。妹だけを見てるんじゃダメだった。試験全体を……うん⁉︎
 思わずぎょっと目を見開き、ギリギリまで降下する。ルッチ先生に試験用紙を提出する男の子をさっきよりも近い距離から見てみたが……え、この子、魔力がそもそもなくない?
 最近の激務のせいで私の目がおかしくなったのかとも思ったが、他の受験生たちの魔力は見えるし、この男の子に続いて席を立ってチラチラと私を見ながら試験用紙を提出しようと歩いてくる妹の魔力も見えている。ええ……? つまり何、この子は……マジで言ってる?
 凝視しすぎてしまったからか、男の子本人とばっちり目が合ってしまった。やばっ。
「どうも」
「ど、どうも……」
 礼儀正しっ! 会釈までされちゃったよ。

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 それからの試験でも、妹はもちろん例の黒髪の男の子にも注目していたのだが、やはり彼には欠片の魔力も見えなかった。強いて言えば頬の痣の辺りに微弱な魔力を感じるが、それは痣を魔法で刻印しているからのようである。そんなのってありなの? そんな力技許される? それが許されるなら私だって常時三本線になってかっこつけたいよ。
 母上譲りのこの目がおかしくなったわけではないと分かって安心したが、それでもなんとなく微妙な気持ちになる。だってあの子、魔法不全者でしょ。で、ここは魔法学校。一応魔法を学ぶ場所なわけだけど、あの子はここで何を学ぼうとしているんだろう。
 魔法不全者は死すべしなんて過激な発想をしているわけではないが、ちょっと志望動機が気になりはする。見た感じ運動神経と筋肉が凄まじく素晴らしいようで、難なく試験にはついていってるけど……。
 それにどうもルッチ先生は妙にあの男の子を敵視しているようで色々不穏だ。だってほら、なんか迷路作っちゃってるよ。こんなの事前に伝えられてた試験内容にはなかった。わざわざ防音の魔法まで使ってから受験者の女の子に声掛けてるし……うん、これは私の手に余る。校長先生呼ぼーっと。

ふたつおりのひとひら