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「校長先生、見て! あの子が私の妹! ヤバくない? 強くない?」
「ふむ、ヤバいのお」
「でしょ! あのねー、さっきから私の方チラチラ見て気にしててね、もうホントいじらしくて可愛い子……。姉上はいつも見てるからね!」
「ふむふむ、良いものをやろうな」
「わーっ、飴だ! 校長先生ありがとう! ……いちごミルクだー! 私いちごミルク好き!」
「どういたしまして」
 ほけほけと笑う校長先生と並んで編入試験を見ていたのだが、飴を貰ってしまった。しかも美味しいやつ。校長先生ってば分かってる!
 からころと飴を舐めているうちに試験は進み、何人かの受験者は早くも迷路を抜けてきている。ルッチ先生も突然迷路を始めたりと暴走してはいたが、一応そこは理性が働いたらしい。受験生がゴールできる程度の難易度にしてくれていたようで助かった。
 何番目かにゴールしてきた妹が少し悔しそうに先にゴールした面々を睨んでいるのを見て微笑ましい気持ちになりながら、私の視線は自然と迷路内に向かっていた。あの男の子はまだゴールしておらず、迷路内にいるようだ。そのそばには、さっきルッチ先生がこっそり声を掛けていた女の子もいる。ふーむむ。
 ルッチ先生、疲れてるんだろうな。あの女の子に妨害を頼む場面を私に見られちゃってるのに、あんなに堂々としてる。しかも校長先生が見てることにも気付いてなさそうだ。やばいよー、早く気付いてなんとかしないと懲戒免職とかになっちゃうかもよー。
 ルッチ先生は気難しい人だけど、授業は分かりやすいし無茶ぶりもしてこないからいなくなるのは惜しい。気付け気付け! 校長先生見てるよ!
 しかしそんな必死の呼び掛けも虚しく、分かりやすくニヤァと笑っていた。「しめしめ……」と思ってそうな顔だ。ルッチせんせーい!
 しげしげと眼下を見下ろしながら顎髭を撫でている校長先生は何を考えているのか分からない。でも真剣な顔をしているのは確かだ。……ルッチ先生的には良くない方向に向かいそうだなあ。
 まあ決めるのは校長先生だし、私に口出しできるようなことじゃない。小さくなった飴を噛み砕き、改めて試験の模様に注目することにする。えーっと、さっきの男の子は……ん⁉︎
「す、すご! えーっ、すごい! なにあれ……!」
「相当鍛えておるな、あれは」
「ですよね! あの壁を自分の体だけで突っ切るとは……!」
 編入試験用ということもあって手加減をされていることもあるし、あの程度の壁なら私でもレインくんでも簡単に打ち破れる。でもそれは魔法を使ってのことだ。己の肉体だけ、筋肉だけでは到底あんなことは出来ない。
 とんでもない子がいたものだ。世界って広いなあ。
 怪我をしてしまったらしい女の子をおんぶして迷路を文字通り突破してきた男の子に帰れコールが怒り、ルッチ先生もあれこれと怒鳴っている。さすがイーストン、編入も決まっていないのに治安が悪いぜ。しばき倒しがいのある編入生が沢山入ってきそうだ。
「君はあの少年をどう見る」
「うーん……見所はありますが、今はまだなんとも。それを見抜くのは校長先生の仕事でしょう? ルッチ先生はあの通りですから……最終面接、しっかりお願いしますね」
「うむ。治療の方は頼むぞ」
「お任せください。いただいた飴の分ぐらいは働きますよ」
「ではこれを」
「やったー、飴二個目だ! 校長先生ありがとー!」
「どういたしまして」

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 先に降り立ってルッチ先生と話をし、早速最終面接のために例の黒髪の男の子と消えていった校長先生。私はそれに続いて降下すると、ざわめく受験生たちの斜め上で手を叩いた。
「はい、騒がない!」
 受験生たちを見渡し、ほとんど全員と目が合うこと、ルッチ先生が座り込んでブツブツ言ってることを確認してから、敢えて視線を集めるようにゆっくりと名前と所属寮を名乗る。私はこの前の神覚者選抜最終試験で変に目立って注目されちゃったからね。結構有名人になっちゃったのだ。
 まあおかげさまでこうして受験生たちは私に注目した上で静かになってくれたし、無事神覚者になって日々忙しくしているレインくんも魔法局の女性職員さんに逆ナンされたりしていないらしいし、結構いいことの方が多いかな、今のところは。レインくんは優しいし強いしかっこいいしでモテモテになっちゃうかと心配していたけど、公衆の面前で私にあんなこと言ってくれちゃったから……ふふ。
 あの時のことを思い出して顔がニヤけそうになるのを必死で堪えながら、ごほんと咳払いをしてもう一度受験生たちを見渡した。さっき怪我をしていた女の子……ルッチ先生に色々と取引を持ちかけられていたっぽい女の子は、どうやらそこまで傷が深くなさそうだ。後ろの方で妹がその子と何か話しながら止血をしている。うんうん、処置も問題なし。あの子も医者の娘なだけある。
 一旦そちらは妹に任せることにして、再び口を開く。先輩らしいとこ見せなきゃね。立場を分からせるには最初が大事だ。
「まず、試験突破おめでとう。でも気を抜かないことだ。君たちの最終面接を担当するのは、かのご高名なウォールバーグ校長先生だからね。それに今は休憩時間のようなものとは言え、この場には私がいることを忘れないでね」
 言外に暴れるなよと釘を指し、ごくりと唾を飲んで緊張した面持ちを浮かべる受験者諸君を眺める。こういう降って湧いた隙間時間は中弛みの原因になりがちだけど、今の様子を見る限りそこまで心配しなくても良さそうだ。最終面接まで行って落ちる子なんてほとんどいないし、後は放っておこう。
 ふいと箒を動かし、妹たちの方へと向かう。その動きが気配で分かったのか顔を上げた妹は露骨にホッとした顔をして、「姉上」と私を呼んだ。そうですよー、あなたの姉上ですよー。
「お仕事お疲れ様です」
「ありがと。そっちこそお疲れ様。いい感じだったね」
「どれも一番にはなれませんでしたけどね……それでこの娘の怪我ですが、私の方で応急処置はしました。血は出ていますが見た目ほど傷も深くありませんし、姉上なら痕を残さずに治せる程度のものかと思います。おい、腕を出せ」
「あっ、はい」
「ありがとう、ちょっと触るねー。……うん、これならすぐ治せるよ。医務室に行く必要もないし痕も残らない」
 綺麗に巻かれていた包帯を解き、ガーゼの下の傷跡を見る。傷の付き方が綺麗だし、消毒もされてる。うむうむ、百点満点。傷口の少し上に杖をかざし呪文を唱えると、杖先が淡く光って傷が修復されていく。すぐに元の綺麗な腕に戻った。私も百点満点。
 傷の消えた腕を物珍しそうに見てみたり触ってみたりしている女の子と、何故だか自慢げに胸を張っている妹へと視線を向けながら、こっそりルッチ先生を探した。あ、まだそこに座ってるのね。なんか暗いオーラが漂ってるよ。大丈夫かな?
 声を掛けた方がいいかと一瞬迷ったものの、女の子の「あの!」という声で意識を引き戻された。もしかして他にも怪我をしたのかと慌てて女の子の方を見たが、そういうわけではなさそうだ。ちょっと顔が赤い気もするけど、見た感じ他に怪我はなさそう。
「どうかした?」
「腕の怪我、治してくれてありがとうございます! 私、レモン・アーヴィンといいます。最終面接……さっきの彼は、大丈夫なんでしょうか……?」
「いえいえ、私は私の成すべきことを成したまでだよ。最終面接ね、心配しなくても大丈夫じゃないかな。要はただの面接だよ。さっきの子は友達?」
「いえ、フィアンセです」
「フィ、フィアンセ⁉︎」
「さっきプロポーズされました」
「さっきプロポーズ⁉︎」
 驚く私を気にもせず、レモンちゃんと言うらしい女の子は赤く染まった頬に手を当てて照れ照れしている。わ、分からない……! 最近の子、分からないよ!
 救いを求めるように妹の方を見たが、妹は目が合うなり頷いてふふんと笑ってみせた。
「ご心配ならずとも私は必ず最終面接も合格してみせます。春からはようやく一緒の学校に通えますね、姉上。私はこの日を待ち望んでいました。そう、姉上と同じ学校に通い、姉上に寄り付くゴミ虫を……レイン・エイムズをぶっ殺す日を……!」
「ゴミ虫⁉︎ ちょっ、えっ、レインくんのことそんな風に呼ぶのやめて!」
 最近の子、本当に分からないよ……! 助けてレインくん!
 ──編入初日にレインくんにビビッと運命を感じたことがきっかけで押せ押せで迫りまくって今の関係に至った私が言うなと言われればそれまでではあるが、でも私とレインくんは今はちゃんと仲良しだから全然問題ないって言うか……。

ふたつおりのひとひら