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「レインくん、あーん」
「あ」
「美味しい?」
「美味い」
「よかったあ。それね、私が作ったんだよ! ……何その顔! 露骨に嫌そうな顔になるのやめて⁉︎ 美味しかったんだよね⁉︎」
「まあ……」
そのプチシュークリームはマッシュくんと作ったんだから美味しくないわけないでしょ! あの子はね、シュークリームを作らせたら天才なんだから! まあ元はパンケーキ作るつもりだったのにシュークリームになっちゃった時は怖くて泣いたけど……!
何回か試したけど何回やってもシュークリームになってしまうため、諦めて最初からシュークリームを作ることにした。そうして、多忙なレインくんが書類作業をしながらでも食べれるようにと思いを込めて作ったのがこのプチシュークリームってわけですよ。
それをレインくんったら、どうしてそう嫌な顔をするのかな。私の料理の腕を疑ってるの? これまで沢山お菓子とかご飯とか作って、その度に分けてあげてたのに。
ムッと口を膨らませて他所を向いた私にいつも通りの声音で「機嫌を直せ」と言ったレインくんは、お皿の上から摘んだプチシュークリームをひとつ差し出してきた。むむっ。『あーん』のひとつで機嫌が直ると思ったら大違いですからね!
「あーん……ほらー、美味しいじゃん! もー……ね、もう一個食べさせて?」
返事もなく一個二個と放り込まれていくプチシュークリームをぱくぱく食べながら、さっきの嫌そうな顔への抗議としてレインくんの腕に抱き着く。これで仕事が遅れちゃえばいいんだ。
そうして長椅子の上でお互いの太ももがくっつくぐらいの距離感で食べさせ合いっこをしていると、向かいの席から盛大なため息が聞こえてきた。それはもう深くて大きなため息だ。レインくんの肩に頭を預けながらそちらを見ると、先輩が甘いものを食べすぎたあとみたいな顔をしてこちらをじとりと見つめていた。
「どうしたの? 先輩もシュークリーム食べる?」
「いらねえ。お前らなあ、ここ、食堂。そういうことはせめて談話室でやれ。飯が不味くなるわ」
「飯って、お酒しか飲んでないじゃん」
「ものの例えだよ! なに? あたしは卒業までの一年間、こうしてお前らがくっついてんのをずっと見せられてなきゃいけねえの?」
「先輩卒業する気あるんだ」
「ぶん殴るぞ!」
「あーもう落ち着いて。ここ食堂だよ? はい、あーん」
身を乗り出し、シュークリームをぽいっと先輩の口に放り込む。これで行儀がいい先輩は大人しくシュークリームを食べだしたが、しかめっ面のままだった。これは……嫉妬かな? 先輩にもがっちがちに魔法をかけたネクタイをくれる心配性な彼氏がいるはずなのに……。
もしかして喧嘩をしちゃったり別れちゃったりしたのかもしれないから、何かを言うのはやめて微笑んでおく。いつか良いことあるよ。先輩は酒カスだけど可愛い顔してるし、酒カスだけど家庭的だし、酒カスだけど面倒見がいいからきっといい人に出会えるはず。っていうか、今の時代は誰かに恋しなくたって生きていけるんだからね。気楽に行こう。
そう思って微笑んでいたわけだが、何かを察したのか先輩が目を吊りあげて机に手を叩きつけたため、慌ててその口に追加でもうひとつプチシュークリームを放り込んだ。いっぱい作っておいてよかった。「たくさん作りましょう」って言ってくれてありがとう、マッシュくん。
ほっと胸を撫で下ろしていると、ちょうどマックスくんがやってきた。久々に四人でお昼を食べられそうという話になったけど、マックスくんはいつものように後輩に「助けてください」と呼び出されてそっちに行っちゃったから、三人でご飯を食べてたんだよね。お昼が終わる前に戻ってきてくれてよかった。四人の方が楽しいもの。
少し疲れた顔をして歩いてきたマックスくんの手の中のお盆には日替わりランチメニューのプレートが乗せられていた。今日はステーキみたいだ。美味しそう。ちょっと迷って無難にパスタにしたけど、こっちにしても良かったかも。
「お疲れ。どうだった? 可愛い子いた?」
「ただの喧嘩。普通に仲裁して終わりだよ。あと期待してるところ悪いけど全員男子だったからそういうのはないな」
「そっか……マックスくん彼女欲しがってたのに残念……あ、先輩に見合う男いた?」
「は?」
「彼女欲しがった覚えがないんだけど……先輩に見合う男は……ハハハ」
「おいレイン、お前そこの馬鹿をどうにかしろ。こっちの馬鹿には私が分からせてやる」
そう言うやいなや、先輩はマックスくんの首に腕を回して絞め技をかけ始めた。そ、そんな。ただの冗談だったのに……。
ギブギブと言いながら先輩の腕を叩いているマックスくんと、一切腕を緩めようとしない先輩をしばらく見つめてから、恐る恐るレインくんを見上げた。レインくんに本気でやられたら体格差もあって死ぬかも……。
言い訳しなくてはとじっと私を見下ろすレインくんの腕に触れる。
「悪気はなかったの……」
「だとしても人の恋路に口を出すな。ああなるぞ」
「はい、心得ました」
「次からは気を付けろ」
「気を付けます」
お互いにうんうんと頷きあって、お皿の上に二つ残っていたプチシュークリームをひとつずつ食べる。「美味しいね」と笑って言えば、レインくんもわずかに顔を綻ばせて「ああ」と言ってくれた。うふふ。レインくんと一緒に食べているからもっともっと美味しく感じるんだろうな。
ちなみにマックスくんは先輩に絞め落とされて気絶し、頼んでいたステーキの半分を先輩に食べられていた。可哀想。クッキーあげるね……。