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放課後、部屋で仮眠中。寝返りを打ったら、体の下からぷぎゅっと可愛らしい音がした。うーん……。
「姉上、家畜が潰れています」
「んー……あとごふん」
「ぷ、ぷぎ……」
「姉上の眠りを妨げるのは私としても心苦しいのですが、あと五分経つと家畜は圧死しますね」
「あっしね……はいはい……圧死ィ⁉︎」
何を言うのかと飛び起きれば、ちょうど私が寝ていたその場所でミニブタがピクピク震えていた。う、うわー!
ベッドに転がってか細く「ぷぎゅ……」と鳴くミニブタを慌てて抱え上げて、その体を検分する。角……はまっすぐ、骨折……はしてない、臓器……も無事! ちょっとくたびれてるだけだ!
自分を潰した張本人に甲斐甲斐しく擦り寄ってくるミニブタに頬をくっ付けた。
「ごめんねえ、痛かったねえ」
「ぷぎゅ」
「うんうん、次は踏まないようにするからね……!」
「……その家畜と一緒に寝なければ良いだけですよね」
「でもベッドに入ってきちゃうから」
「チッ」
「なんで舌打ち?」
びっくりして妹を見たが、しかめっ面で「なんでもありません」と言った後にもうひとつ舌打ちをされて終わった。今の舌打ち私にした? それともミニブタに? しかもなぜ私の部屋にいるの。私が仮眠に入った時にはいなかったよね……?
……まあ妹が何故部屋にいるかは置いておこう。あのね、妹はちょっと言動がキツいけど私のことが大好きな良い子なの。でもやっぱり言動がキツいし、すぐに人を敵視する。これまではその敵対心が向くのは人だけかと思っていたけど、どうやら生き物なら全部ダメだったらしい。ミニブタはすっかり妹の敵だ。
先月に行われた神覚者選抜最終試験。私がその試験で色々あって拾ったのがこのミニブタである。元はすごく大きくて鋭い角が生えたイノシシだったんだけど、大鎌でぶん殴ったら図体も角も物理的に丸くて小さくなった上にブタっぽい見た目になったからミニブタとして扱っている。
試験中は「誰かのペットだろう、殴った上に小さくしちゃったから飼い主さんに謝らなきゃ」と思って連れていたのだが、試験後に受験者一同に尋ねてもミニブタの飼い主は現れなかった。それどころか会場にいた神覚者様ことカルド様には「屋敷で暮らしていた魔法生物ではないか」と言われてしまい、その屋敷も不幸な事故により全焼してしまっていたため、流れで私が引き取ることになったのだ。
と言ってもその時私はとある人物から襲撃を受けたことが原因で重傷を負っており、試験が終わってすぐに倒れて一週間ほどベッドから起き上がることも出来なかった。その間は父上と妹がミニブタの面倒を見ていてくれたのだが、何かあったのか何もなかったのか、その一週間で妹はすっかりミニブタを敵視するようになっていたのである。ほんと、何があったんだろうね。
妹がそんな調子なのでミニブタは我が家のペットではなく私のペットという扱いになり、こうして学校にも連れてこられた。今年も同室になった先輩には「食ったら不味そうだな」と独特な可愛がり方をされ、レインくんとマックスくんにも「賢いブタ」としてそれなりに愛されて、ウサちゃんルームで暮らすウサちゃんたちからも「新入り」として舐められている。いい感じだ。
それでもやっぱり妹とは仲良くなれず、妹はすぐにミニブタを睨むし、ミニブタは妹に怯えてばかり。「家畜」と呼ぶのがいけないんじゃないかなと思っているが、良い名前も思い浮かばず、いつの間にか「ミニブタ」が名前のようになってしまった。これは私も悪かったかも。
でもさ、仕方ない側面もあるのよ。私が寝込んでいる一週間で父上が結構ミニブタを気に入ってしまって、ミニブタミニブタと可愛がっていたの。それでミニブタ自身が「ミニブタ」を自分の名前だと認識してしまったの。
そんな経緯があって仮称から公称へと呼び名が変化したミニブタは、今日も今日とて妹の鋭い睨みに耐え兼ねて私の腕の中で悲痛な声を上げながら泣いている。
「泣いちゃったよ。可哀想。睨まないであげて」
「姉上は私ではなく家畜を庇うんですか⁉︎」
「いやだって泣いてるから」
「なら私も泣きます!」
「ええ……」
ならって何、ならって。
やっぱり私も父上もこの子を甘やかしすぎてしまったんじゃないだろうか。可愛い妹、可愛い娘と目に入れても痛くないぐらい可愛がってきたつもりだ。でもだからってペットにまで嫉妬するようになっちゃったらさすがにね。
これまでレインくんにやきもちを焼いていたのは「可愛いね」で済んでいたけど、ペットにまでやきもちを焼くのはこの子の今後の生活に差し障る可能性が高い。姉としてここでどうにかしてあげるべきだろう。
ひとつ咳払いをしてベッドの上で正座をし、部屋中央のソファーで足を組んで不満げにしている妹を真っ直ぐ見つめる。腕から逃がしたミニブタは枕の下に隠れた。相当怖いらしい。すごい怯えようだ。
「姉上はあなたに話さなければならないことがあります」
「……なんですか」
「ちゃんと座りなさい」
「…………はい」
聞き分けは良い子なのでしっかりと背を正して座り直してくれた。よし。
「あのね、あなたもそろそろ家族離れをしなければなりません。いつまでも家族三人だけで暮らしていくわけにはいかないの。まずはクラスの子と仲良くするとか、友達を作るとか……フィンくんやレモンちゃんとは仲良くやってるの?」
「……有象無象の中では、まあマシな連中だと思います」
「そのクラスメイトを有象無象と呼ぶところからまず直さなきゃダメ。友達でしょ?」
「いいえ、違いますけど」
「いいえ⁉︎ 違うの⁉︎」
「違います。姉上、昔からお伝えしておりますけど、私にそういうものは必要ありません。枷になるだけです」
「枷……⁉︎」
友達をなんだと思ってるんだこの子は。友達って、友情ってそういうものじゃないでしょう。色んな人と友達になって楽しくやってる私はこの子にはどう見えているんだ。
「愚かしいと同時に姉上らしいと思っております」
「愚かしい……⁉︎ 待って、頭痛くなってきた。この話はちょっとここでやめよう。今度父上も交えて話そうね」
「はい」
聞き分けは良い子なんだ。姉上にも父上にも優しくて思いやりの心を持った子でもあるんだよ。ちょっと世間とズレてるだけで……。