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 大鎌を腕に抱いて空けた手をなんとなくぱんぱんと叩いて埃を落としたっぽいことをして、更にはきりりとした顔を作って歴戦の戦士を装ってみる。しかし周りには現在足元でひっくり返っているレアン寮生以外誰もおらず、ただただ虚空に向けてドヤ顔をする不審者になってしまった。悲しい。
 どこに誰の目があるかも分からないので早々にドヤ顔は引っ込めて、ふうと一息つきながら髪をかきあげる。苦戦する余地がないほど呆気ない勝負ではあったが、杖を向けられればそれだけで心身ともに疲弊はする。しかも今日で三件目の襲撃ともなれば尚更のこと。
 レアン寮生が活発に活動している──らしい。私はこの二週間丸々休みを取って、以前全焼させたお屋敷の見取り図を探して国中を駆け回っていた。ようやく見つけた見取り図は一部紛失しており不明な点が多々あったため、あのお屋敷に訪れたことのある人たちを訪ねてちょこっと記憶を拝借し、どうにか新・見取り図を完成させたのが昨晩のこと。元は一週間で終わらせる予定がかなり長引いてしまったため、今朝慌てて帰ってきたのだ。
 私と痴女とカルド様という素晴らしく優秀な三人が不眠不休で動いた甲斐あって新・見取り図はそれなりの出来になったと思う。ほんの少しの遊び心と連日の徹夜による判断不足で「ちょっと改築してみる?」「今よりスリリングな方がいいんじゃないかしら」「じゃあもっとギミックを足そうか」と付け足された諸々のトラップに関しても、他の神覚者様たちから「まあいいんじゃない?」と合格をもらえた。今年の神覚者選抜最終試験はこれまでとはまた違った意味で刺激的になるだろう。地下迷宮とか作って魔法生物を複数放つ予定だからね。
 そんなこんなで一旦今やるべきことを終え、あとは魔法局長を筆頭とした偉い人たちに許可を貰って施工を開始するだけとなったので、こうして学校に帰ってきたというわけだ。魔法局から「再建を何より優先させるように」と学校に要請があったのと、私も痴女もお互いの学校で相当やらかさない限りはストレートで卒業できそうな程度には成績が良かったため、「終わらせるまで帰るなよ」と圧をかけられて二週間も帰ってこれなかった。いやー、長かったね。
 それにしてもドキドキだ。久々の学校、久々の妹、そして久々のレインくんとの学校生活。レインくんとは魔法局で頻繁に顔を合わせて一緒にご飯を食べたり息抜きのお散歩に出掛けたりしていたから、会えないことへの寂しさのようなものはない。そこは以前騒いだ甲斐があったのかオーター様が筆頭となって色々と配慮してくれているようで、魔法局にいた間はもちろん、それ以前の学校生活でも私が寂しい会いたいと泣いて暴れ出す前にレインくんに会えていた。
 でもね、やっぱり学校で会うのは特別なわけですよ。レインくんは私に「これからもそばにいろ」と言ってくれたけど、二人一緒にこうして学校生活を送れるのは残り一年にも満たない期間なの。私たちは先輩とは違ってストレートで卒業するつもりだから、この一年は何より大切な一年になる。楽しまなきゃ損でしょ。
 そう思って浮かれた気持ちのまま美容院とかも行っちゃって、可愛くなってご機嫌で帰ってきたのに出迎えはレアン寮生数名。随分興奮した様子だったので、私のファンかな? 帰還を待ちわびてた感じかな? と一瞬思ったけど、息をつく間もなく始まったのは襲撃。そんなことされてみて。普通にビビるからね。
 意味が分からなかったが攻撃されたことに変わりはなく、ボコボコにした。そのまま慌てて寮に帰って先輩とマックスくんに相談して教えてもらったのが、「レアン寮生暴走」の報である。先輩とマックスくんも襲撃を受けているらしい。
 先輩が襲われた際に返り討ちにしたレアン寮生を拷問……ではなく尋問して聞き出したそうだが、彼らの目的はコインとのこと。その場にいた同級生や後輩にも話を聞いてみたが、金のコインを持っている知人が襲われただとか、自分も襲撃されたから逆にコインを奪ってやったとか色々な話が聞けた。レアン寮生もうちの寮生も治安が悪すぎる。オルカもきっとこんな感じなんだろうな。いや、あそこはマーガレット・マカロンが今はいないから、もう少し治安が良い可能性も……?
 とにかくそんな感じで名門学校とは思えないところまで治安が悪化していた学校で、私はこの半日で三回も襲撃されたというわけだ。たった半日でこれ。明日からのことを思うと憂鬱になる……とも言ってられないんだよなー。だって、そういうことを言ってるともっと舐められるじゃないですか。やっぱり初手で分からせるのが大事なんだよね!
 それにただでさえも忙しいレインくんの仕事をこれ以上増やすわけにもいかない。レアン寮生がこれ以上悪さを出来ないように、というかアドラの生徒に喧嘩を売ってこないように、「変なことするとこの私がボコボコにしてやるからな」と分からせなければならないのだ。三年生として後輩たちにいい所も見せたいし、頑張る。
 ふんふんと頷いてそう息巻いていると、ガッシャーンと音がして窓ガラスが割れ、何かが飛び込んできた。むっ! もしやまた襲撃⁉︎
 もくもくと立ち上る白煙と砂埃の中、黒いシルエットが現れた。やっぱり襲撃かも! よし、ボコボコに──。
「窓壊しちゃった……どうしよう……直すか」
「……」
「あっ……ここここんにちは」
「こんにちは……直すの早いね?」
 全然襲撃じゃなかった。マッシュくんだった。
 割れてしまったガラスは直せないようだが、歪んだ窓枠を手で元の形まで更に歪ませることで直している。そのままどこからか取り出したトンカチと釘で窓枠を固定し、見た目だけは元のように戻してしまった。どうなってるんだこの子は。
「直してません」
「いや直してたよね、見たよ」
「壊してません」
「いや壊してたよね。突っ込んできてたし、ガラスはそのままだから風吹き込んでるし……いいよ分かったよ、誰にも言わないよ」
 絶望的な顔をされてしまったので、持ちっぱなしになっていた大鎌で床をついて魔法を唱えた。大鎌に緩く巻き付いた鎖がジャラリと鳴り、地面に散らばっていたガラスがふわりと浮いて修繕されていく。マッシュくんは感心したように「おお」と声をあげながら直っていく窓を見ていた。
「怪我は? ああ、顔ちょっと血が出てる。治すよ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。先輩としてやるべきことをやってるだけだから気にしないで。それに妹とも仲良くしてくれてるんでしょ? こっちこそありがとうね」
「妹」
「レモンちゃんと同じ寮質の、ピンクの髪の、二本線の可愛い子」
「ああ、あの怖い子」
「……あの子、何か変なことしてる? 本人に悪気はないんだけど、私たちが甘やかしすぎちゃってね。ちょっと世間知らずなの」
「変なことをしているというか、ずっと姉上姉上姉上と言ってます」
「それはいつもそんな感じ。慣れてあげて」
 ちょっと引いた感じの顔で「怖……」と呟いたマッシュくんは敢えて無視して、足元に転がっていたレアン寮生を蹴っ飛ばした。なんか起きそうな感じの呻き方をしたから、ここで起きられたら迷惑だなと思って。だってほら、私も窓を直していたとバレたくない。これはマッシュくんが直した。そういうことにしておきたいじゃん? この子、魔法が使えないけどそれがバレたら大変なことになるし、偽装工作ってやつ。
 もう一度「怖…………」と呟いたマッシュくんを横目に、大鎌を箒に変えて飛び乗った。
「一応聞いておくけど、なんで外から突っ込んできたの? ドゥエロ……じゃないよね、制服だし」
「フィンくんたちとキャッチボールをしてて、ちょっとジャンプしたらこんなことに」
「そっかあ」
 ちょっとジャンプしてたらこんなことになっちゃったのかあ。いや、ここ三階だけどね? 私としてはこの子の筋肉と運動能力の方が「怖……」だよ。

ふたつおりのひとひら