03
ふんふんと鼻歌を歩きながら廊下を箒に乗ってゆらゆら進んでいると、すれ違ったひとつ上の先輩から「何かいいことでもあったの?」と声を掛けられた。にっこり笑って大きく頷く。
「今日は妹から手紙が来る日なんです!」
月にたった一度、妹からの手紙が届けられる日。それが今日なのだ。
二つ年下の、私の可愛い妹。しかし私は今こうして全寮制の学校に通っていて、自宅で家庭教師たちから勉強を教わっている妹とは滅多に会えない。それはこのイーストン魔法学校に入学する上での私の一番の懸念だった。まあ入学したし、この一年半楽しく過ごしてるけどさ。
それでも、大事な妹に会えない日々は寂しくて寂しくて定期的に頭がおかしくなりそうになる。そんな私を支えてくれているのが、月に一度送られてくる妹からの手紙だ。
妹は筆まめなのでいつも五十ページほどの小冊子にびっしり私宛ての文章を書いて送ってきてくれるのだ。私はそこまで長い文章を書けないから週に一度レター用紙何枚か分の手紙を書いて送り、妹はその返事も含めて一ヶ月に一度手紙を出してくれる。それがこの一年半の私たちの主なコミュニケーション。
会えないのはやっぱり悲しくて寂しいけど、妹が私を思って送ってくれた手紙があれば、その悲しさも寂しさも乗り越えられる。あの子からの手紙はどれだけ難解で強固な魔法よりも素晴らしくて素敵なものだ。きっとそのうち治癒効果も証明されるだろうな。ああでも、そうしたらあの子の手紙が奪い合いになってしまうかも。それは困る……。
ニコニコしたりニヤニヤしたり顔を顰めたり忙しい私を見て笑った先輩は、「元気ならそれで良し!」と手短に総括して去っていった。うんうん。私もそう思います。
アドラのいたずら爆弾として名を馳せる私は同寮の諸先輩方からそれなりに可愛がってもらっている。オルカやレアンと比べるとアドラにはノリが良くていたずら好きの人が多いから、編入してから受け入れてもらうのも早かった。相性がね、いいんだよね。
私が妹を大好きなのも寮内では知られた話なので、妹関連でわくわくどきどきしていてもさっきみたいに軽く受け入れてもらえる。変な風に絡んでくる厄介な先輩や同輩もいるにはいるけど、トータルで見れば結構良い環境。友達も沢山できたしね。
再びふんふんと鼻歌を歌いながら、箒に乗ったまま廊下を進む。妹からの手紙は大体夜に来る。「ギリギリまで推敲しているんです」とのことだ。
授業は全部終わったけど、まだ夕方とも言い難い時間。今日も今日とてレインくんは校長先生のおつかいに出掛けてしまったし、マックスくんは後輩に相談を持ちかけられたとかで足早に教室を出ていってしまったし、他の友達もみんな用事があるみたいだし……。
妹からの手紙が来るまでどうやって時間を潰そうかな。読みたい本はない。お腹も空いてない。やりたいこともない。うーん、暇だ。
こうして箒で浮いていれば誰かに会えるか、それともなにか楽しいことに出会えるんじゃないかと思ってたけど、全然だ。「廊下を箒で移動するな!」と怒ってくる先生もいない。レアンの生徒に絡まれることもないし、本当に暇だなあ。なんか面白いこと、ないかな。
ふわりと欠伸をしながらゆらゆらと曲がり角を曲がる。……あ。
「校長先生だーッ!」
「うん? おお、レインくんの」
「友達でーっす! こんにちは!」
「こんにちは」
「あの、今暇してたんですけど、なんかお手伝いすることありますか!」
廊下の端の方で天井を見上げていた校長先生にびゅーんっと箒で近寄って元気に声をかければ、すぐに気付いてくれた。校長先生にまで私とレインくんが仲良しのお友達であることは知られているんだなあとなんだかむず痒い気持ちになりながら、早速お手伝いを申し出る。
校長先生はレインくんにおつかいやお手伝いをよく頼んでいるけど、私もたまにそのおこぼれに預かることがあるのだ。私は部活もやってないし、勉強も魔法史を除いてそこまで焦る様な状態じゃないし、課題も後に残すタイプじゃないし、こうやって暇になるとレインくんに引っ付いていって色々お手伝いをさせてもらったりする。
レインくんにお手伝いを任せた張本人である校長先生は、私がレインくんがいなくて暇をしていることにすぐ気付いたらしく、うんうんと頷いてローブから三通の封筒を取り出した。
「赤の封筒はルッチ先生、青の封筒はレインくん、黄色の封筒はライオにお願いできるかの?」
「はい、できます! ルッチ先生、レインくん、ライオ様……ライオ様⁉︎ 魔法局ですか⁉︎」
「うむ。外出許可はワシの名前で出しておく。それに今から向かえばレインくんに会えるかもしれんのお……」
「れ、レインくんに……⁉︎」
「オーター宛の届け物を頼んだのじゃが……いや今からじゃ間に合わんか……」
「間に合わせますッ! 行ってきまーっす!」
「行ってらっしゃい」
のほほんと笑って手を振る校長先生に見送られながら、びゅーんっと箒を加速させてすぐそばの窓から飛び出す。地元では「スピード狂」の称号を欲しいままにしていた私の速さを侮ることなかれ──!