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「修行をつけてくれ……ませんか」
「だ、誰え……?」
放課後、教室のドアを開けたら水色の髪の知らない男の人が立っていて、その知らない人に意味の分からない声掛けをされた。ローブからして同じ寮だということは分かる。それ以外は全て不明。マジで誰? そして何?
「一年のランス・クラウン……です」
「ああ、一年生ね。で、何ですか?」
「修行をつけて欲しい……です」
「な、なぜ……? それにその下手くそな敬語は何……?」
続々と教室から出てくるクラスメイトたちの邪魔にならないようにと軽く移動をした時もランスくんは真顔だった。私はと言うと、かなりビビっている。普通に怖いよ、知らない子にこんな風に突然声掛けられたら……。
一年生ということは妹の友達だろうか。そう言えばマッシュくんやフィンくんが水色の髪の子と一緒に歩いているのを寮で何度か見かけたことがある気がする。それがこのランスくんだったのかもしれない。なんか……キャラ濃そうな顔してるし。
揃いも揃ってキャラの濃い知り合いの一年生たちを思い出していると、ランスくんはまた「修行をつけてくれませんか」と繰り返してきた。敬語が滑らかになっているのがちょっと面白い。
頬に手を当て、首を傾げる。
「どうして私? うちの寮ならレインくんとか先輩とかに声掛けた方がいいと思うけど。私、教えるの下手だよ」
「シスコンが『あの人は最強だ』と言っていた……からです。それにこの前の神覚者選抜試験にも出ていた……ので」
「うんうん、ひとまず敬語なしでいいよ」
「……礼儀を欠くと燃やされると聞いたんだが」
「しないよ⁉︎ 誰、そんな噂広めてるのは!」
人を燃やしたことなんてない。最終試験の会場になっていた歴史的なお屋敷を全焼させただけだ。それも再建の目処は立っているから問題もないはず。
本当に誰だ、そんな話をしてるのは……と怒りを覚えていると、ランスくんは腕を組んで「シスコンが言っていた」と憮然と言い放った。燃やされないと分かった途端に礼儀を欠いできた! やはり今年の一年生はキャラが濃い……!
「シスコンって誰? 一年生にそういう名前の人がいるの?」
「アイツの姉なんじゃないのか?」
「あの子か! あの子なら言うわ!」
絶対言う。言ってるところが想像出来る。あの子はね、私のことを過剰評価してる節があるからね。その癖して笑顔で「姉上程度」とか言ってくるんだから、もう姉上にはよく分からないです。
同級生にシスコンと呼ばれているらしい妹のことを思って額に手を当ててため息をついている私を他所に、ランスくんは私をじっくりと見つめながら改めて「修行をつけて欲しい」と言ってきた。見上げる位置にあるその瞳を見つめ返して「どうして?」も私も聞き返す。
「私を選んだ理由を聞かせて欲しいな」
「オレが見た限り、アンタがこの寮で二番目に強いからだ」
「それはどうも。一番はレインくんかな? レインくんに頼まなかった理由は……いや、いいや。もう分かった。レインくん、滅多に寮にいないもんね」
いたとしても、大体私が「一緒にいたい!」と駄々を捏ねて一緒に過ごしてもらっているから、そりゃ声なんて掛けられないか。しかも私が一緒にいるというのも、大体ウサちゃんルームで監督生の仕事を手伝っているとか、校長先生のおつかいを二人で済ませているとかで、一年生が見つけられるようなところにはいないことが大半だ。
たいして私は、稀に例のお屋敷再建計画関連のあれそれで寮を空けることもあるがそれは本当に稀。忙しいレインくんの代わりにマックスくんと二人で寮生の相談に乗ったり悩み事の解決を手伝ったりしていることもあって、大抵は寮にいる。最近は頻繁にレアン寮生の襲撃にあったりして変に目立ってしまってもいるし、一年生でも「強い人」と分かりやすいことだろう。
真剣な顔をしているランスくんを見つめながら、「うーん」と唸りつつ顎に手を当てる。後輩に慕われるのは満更でもない。アドラでレインくんに次ぐ実力者だと褒めてもらえて嬉しい気持ちもある。妹と仲のいい子に良いところを見せたら妹に「姉上かっこいい!」と思ってもらえるかな? という少々の下心もあります。
でもなあ。私、本当に教えるの下手だしなあ。
わりと真面目に悩んでいる私を見て何を思ったのか、ランスくんはまた口を開いた。
「オレは神覚者になってこの国の仕組みを変える」
「……続けて?」
「アンナ……妹が、次第に魔力が消えていく病に犯されている。進行すれば魔力が完全になくなるそうだ。今のところ治療の手立ては見つかっていない」
「……」
「この国では先天性だろうが後天性だろうが関係なく魔法不全者に人権はないものとされ、間引かれる。だが何よりの力を持つ神覚者になれば、その仕組みを変えられる。だからオレは神覚者になり、妹と生きる」
「……なるほどね。君の気持ちはよく分かりました」
聞いているこちらまで心が揺さぶられるような言葉と覚悟だった。顎に当てていた手を心臓の辺りまで下ろし、大きく息を吐く。勘違いではなく動悸が激しくなっていた。二年前のことを思い出しているからだろう。
二年前、私が編入試験を受けた日。レインくんも目の前の彼と同じように、「この世界の仕組みを変える」と言った。そして私はその言葉を信じたのだ。
「……私はこれで自分の目に自信を持ってる。母上譲りの審美眼とでも言うのかな。この目で『信じよう』と思った人を信じて後悔したことがない」
レインくんはあの日の言葉を実現すべく神覚者になり、革命への一歩を踏み出した。その先にあるのは私の願う世界でもある。あの子が少しでも生きやすい世界。あの子が胸を張って生きていける世界。いつか真実を知って苦しんで悲しんで泣いたとしても、笑って前を向いていける世界だ。
まっすぐな色をしているランスくんの瞳を見つめ返し、フッと笑う。
「私は君の覚悟を信じる。いいよ。修行、つけてあげる」
「……ありがとうございます」
「そんな、顔上げてよ。同じく妹を愛する者として放っておけないもん。妹さんの病気のこともさ、今度の休みにでも妹さんとうちの実家の病院来てみてよ。一回詳しく調べよう」
うちの病院は物理的にもその他の面でも魔法局とどうしても距離が近くなってしまっているから、そういう「魔法局の大意に逆らう」ようの病気の患者さんは来院してくれないことの方が多い。だからそんな病気が流行っていることはなんとなく聞き及んでいたけど、こうして実際に当事者家族から話を聞いたのははじめて。
父上も私も、魔法不全者とそれ以外の違いや、後天的に魔法不全に至るような病気に興味こそあれど、差別をするつもりは一切ないのだ。治せる病は治したいし、治せない病だってどうにか治したい。何より我が病院は如何なる政治思想にも与するつもりはないしね!
少し驚いたような顔で何度か瞬きをしたランスくんは、しばらくしてからもう一度「ありがとうございます」と言って頭を下げた。その両肩を掴んで揺さぶりながら、敢えて明るい声で「これから大変だからねー!」と宣言する。
「私、本ッ当に人に物を教えるのが下手だから覚悟しておいて! でも大丈夫、傷は完璧に治します! ボコボコにして、治して、ボコボコにして、治してって何回でも出来るからね! しかも今なら軽食のおばけマフィン付き!」
「強くなれるならなんでもやる。よろしく頼む」
「まっかせといてー!」
レインくんを神覚者にさせてあげようと足掻いていた頃は私も手探り状態だったけど、今は違う。もうレインくんを神覚者にさせてあげた後だからね! 神覚者になるメゾットってやつが既に確立してるわけよ。やっぱりボコボコからの完治からのまたボコボココースが一番早い。これで行こう。
あと、あわよくば死にかけて魔力倍増コースにも突入したいね。これは私がやってみてめちゃくちゃ効果あった。マジマジのマジです。