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学校に不審者が進入した上に、妹が寮から消えた。嫌な予感しかしないのは気のせいではないだろう。
急がなくてはと寮を出て箒を飛ばしていると、すぐに地下への入口らしき扉は見つかった。魔法で隠されていたがレインくんの魔力の残滓は残っていた。多分、誰かが通ると勝手に閉まるし魔法で隠されるタイプの扉なんだと思う。イラッとしたのでぶち壊して突破しました。
扉を壊した先にはレアンのローブを羽織った一年生だと名乗る男の子がいたのだが、その子は既にボロボロで、私が拳を握って脅すまでもなく「またアドラかよ! 地下への通路はあっちです!」と教えてくれた。親切にしてもらったし見た感じ不審者の一味ではなさそうだったしで、軽く叱って「早く寮に帰りなさい」と言うに留めておいた。不審者の一味だったら半殺しにしてたよ。命拾いしたね。
レアンの一年生が教えてくれた地下への通路だという階段は長く、それを箒に乗って下っているうちに、煮えたぎるような怒りも一周まわって「ぶっ殺す!」という単純なものへと落ち着いてきた。なんなら、反省の意志を見せてくれば腕と足一本ずつぐらいで許してやってもいい。
それはそれとして、だ。あそこにレアンの子がいたってことは、単純に考えてレアンの生徒が不審者一味を学校に招き入れた可能性が高い。箒の上で腕を組んでうーんと唸る。レアンの生徒で、不審者一味を招き入れるような誰か……うーん。心当たりが……ある! 思いっきりある!
大事そうにお人形を抱えて、何を考えているか分からない顔をしているアベルくんを思い出して頭を抱えた。アベルくんを中心にレアンで勢力を広げているナントカとかいう組織が不審者を招き入れたと考えると、動機は分からないけれど「やりそうだな」とは思ってしまう。だってアベルくんはなんか最近すごい神覚者になりたがってたっぽいし、どういう経緯かは不明だけど人形にされて魔力を抜かれる生徒が何人もいたし……!
友人……と言えなくもない人が起こしたかもしれないシャレにならない騒動に頭を抱えているうちに階段の終わりに辿り着いていた。特に扉などはなく、そのまま地下へと出る。へー。こんな広い空間、うちの学校の地下にあったんだ。ほとんど上と変わらないや。
そんなことをしているべきではないと分かっているのに、つい辺りを見渡していると、ふと後ろから名前を呼ばれた。レインくんの声だ! 相手をきちんと確認することもせずにぎゅんとカーブしてレインくんに抱き着く。
「レインく……」
「遅かったな。怪我はしてないか」
「……」
「敵はどうやら向こうにいるようだ。早く行くぞ」
「……」
誰だコイツ。
胸に飛び込んだ私を抱き締め返してきて腰を撫でる腕の中で思案する。え、本当に誰コイツ。レインくんは私のことをそんなに簡単に抱き締め返してきたりしないし、もし抱き締め返してくれたとしても最初から腰に触ったりしないんですけど?
しかもなんか匂いも魔力も違うし……真似するならもっと上手く真似しろよ……っていうか魔力が扉を破壊した侵入者のそれと一致してるじゃん! 出方を伺いつつイラッとしていると、突然頬にキスされた。はあ⁉︎
「触るな! レインくんにも三日もキスしてもらってないのに!」
「──なんだ、こっちもバレるのか」
胸を押して突き飛ばし、距離をとるために後ろに飛ばした箒から適当なタイミングで飛び降りて大鎌へと変化させる。そのまま一足飛びに今度は距離を詰めて喉元目掛けて大鎌を振るったが、サラリと避けられて終わった。侵入者の姿がレインくんのものから、恐らく自前のものであろうそれに変わった。全然違うじゃないかよ!
更にイラついて縦真っ二つに体を割ってやろうかと振り下ろした大鎌の刃が、突如横から差し込まれたレイピアに遮られて止められた。おい! 邪魔するな! 怒りのあまり目の前の侵入者からレイピアの持ち主へと視線を移し、そしてそのまま私の喉の奥からは引き攣ったような音が漏れた。
「あなたのお相手はわたくし。セル・ウォー様は先へどうぞ」
「任せた。あ、そいつは殺してもいいからな」
「ええ。分かっています」
レイピアを持って和やかに笑うピンクの髪を持つ女のその姿に困惑と動揺のあまり一瞬体から力が抜けたのを見逃さず、喉を狙って突き上げられた刃を間一髪のところで避ける。しかしその動作の合間に侵入者は随分遠くへ行ってしまっていた。
……ああ、もう! 前髪をかき上げて深呼吸をしてから大鎌を構え直す。意味が分からないしまだ全然動揺しているけど、私は早くこの女をどうにかしてセルオだかなんだかと呼ばれていた侵入者をぶっ殺してやらなければならないのだ。
「あら、怖い顔。そんな顔で見つめないで? わたくし、悲しいわ」
「イライラするから死体は喋るな、黙ってろ」
「まあ……お母様に対して酷いことを言う子ね」
「お前は私の母親じゃないでしょ!」
私の母上はただ一人、あの方だけだ。目の前のこの女は、言葉通りに私の母親ではない。
振り上げた大鎌で胴を狙うがまたしてもレイピアで防がれた。先にレイピアをへし折った方がいいかもしれないな。その後に手足を削る。うん、これで行こう。
とにかく、ここでどうにかこの女を処理しなければならないことは確かだ。この先にいるであろう妹にだけは、絶対にこの女を会わせてはならない。何故ならば、この女は──。
「どうしてそんな酷いことばかり言うの? あの子の姉上なら、わたくしの娘のようなものじゃないの」
「黙れ!」
──とろけるような微笑みも、真っ直ぐな髪も、挙句の果てにはその柔らかな声音でさえも、あの子に似ているから嫌になる。
悲しみとも怒りとも言えないほどに難しく行き場のない感情のままに全力で振り下ろした大鎌と触れ合ったレイピアの細い刃から、ぴきりと嫌な音がしたことだけが救いだった。