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とある日のお昼過ぎぐらいの時間帯。私は痴女と二人で、以前全焼させて再建を命じられたお屋敷の地下に迷宮を作成していた。もちろんおしゃべりしながらである。
「で、あのガキったらなんて言ったと思う⁉︎ 『馬鹿と交際はできません』よ! 半殺しにしてやったわ! そうしたら停学になったけど後悔はしてない!」
「それで今日私服なんだ」
「ええ」
「痴女も私服はかっちり着込むんだね」
「だから痴女じゃないっつってんでしょお⁉︎」
バシーンッと壁を叩いた痴女のせいで砂埃が立ち、カランと軽い何かが落ちる音がした。あー、もう。せっかくいい感じになってたのに。
痴女も痴女でハッとしてすぐに手を離したが、一度衝撃を与えてしまった事実は覆せない。すぐに壁がガラガラと崩れ落ち、瓦礫の山になった。あーあ。
「やっちゃったねえ」
「最悪……また最初から……?」
「だね。やっぱりさあ、ここも魔法局のプロの人たちに手伝ってもらおうよ。素人の私たちじゃお屋敷建設はなんとかなっても地下迷宮作成は無理がある気がする」
「でもカルドさんが上はともかくこっちには局員を動かせないって言ってたでしょ。ほら、私たち嫌われてるもの」
「まあ大切なお屋敷を全焼させてるからね、事故だけど」
「そう、事故だけどね。とにかく私たちでやるしかないわよ。やっぱり緊急脱出用に壁を脆くするのはやめて、逆に強固にするべきじゃないかしら。それだったら私たちでもすぐに作れるわ」
「それこそカルド様と話し合ってダメだねってことになったじゃん。さすがに選抜試験を受ける人たちがここで餓死していくのを見てるのは申し訳ないし……」
「そんなのこの地下迷宮をクリア出来ない無能が悪いのよ。この程度クリア出来なきゃ神覚者になんてなれないわ」
「確かにそうだけどさあ」
崩れた瓦礫の材質を魔法を使って変化させていく痴女を横目に、私はその瓦礫を組み直して壁を作っていく。これを沢山作って迷路にするわけですよ。まあお察しの通り大苦戦中なんですけどね。
地上にあるお屋敷の再建はかなり進んでいる。カルド様が魔法局で建物の設計や建設を担当しているプロの人たちを招集してくれたからだ。それに前述の通りそっちは私たちでもやり方さえ教えてもらえればなんとかなった。結構色んな魔法を組み込んだりする手間はあったけど、マニュアルがあるし、実際私たちは元のお屋敷に入ってるわけだからね。肌で感じた空気を再現できるように魔法を組めば良いだけのこと。特に私はそういうの得意。
問題はこの地下迷宮だ。ほぼほぼ徹夜状態で考えたものだから所々意味が分からないし、それで一度承認を受けてしまっている以上、この意味の分からない設計図を再現しなければならない。しかも魔法局の偉い人たちが地下迷宮に関しては手伝うな、みたいなことをプロの人たちに言ってるんだってさ。いじめだよこれは。いたいけな女の子二人をいじめるのはやめて欲しいよね。
でも一応いじめられる原因は分かっているのだ。さっき痴女が話してた『馬鹿と交際はできません』発言の後輩くんは魔法局の高官の一人息子で、私は魔法局長の息子と揉めたことがあって、更にはお互い揃って神覚者選抜最終試験で前代未聞のお屋敷全焼などという不祥事を起こしている。あとは多分あれだね。私たちが可愛いからだね。
そして何より、あの人たちはこの地下迷宮作成の話をどうにか白紙にしたいのだと思う。
私たちは地下迷宮の設計図を書くにあたって、魔法局長よりも強い権限を持つ神覚者様たちに先に話を通して「まあいいんじゃない?」というお声をいただき、更には神覚者様たちのなかでも年長で強い発言力を持つライオ様が「懐かしいな! お前たちのお母上とお父上はかねがね『今の神覚者選抜最終試験は生ぬるい、もっと厳しくするべきだ』と仰っていた!」と謎に大喜びの大興奮で後押ししてくれた。さすがの魔法局長もあの勢いのライオ様を前にして「地下迷宮とか何言ってんだくたばれ馬鹿共が」なんて言えなかったのだろう。発案者にはカルド様もいたし尚更。
でもその場ではライオ様の勢いに負けて承認してしまったんだとしても、後々気付いたはずだ。「いやこれヤベーだろ」と──。
正直発案者である私たち三人も「え、許可しちゃうんだ」「……どうする?」「作るしかない……」みたいな空気になった。よく寝てよく食べたら冷静になっちゃったわけです。下手したら死人が出るものを試験会場に設置するのは流石に度を超えてます。
しかし、一度承認されたものをひっくり返すことは、承認されることの数倍も難しく重いことだ。更にお屋敷の再建や地下拡張に関しては、先の最終試験が全国中継され全焼の瞬間も見られていたことで国民に「再建しますから安心してくださいね、ついでに来年からは難易度も上がりますからね」と発表せざるを得なくなってしまった。これは明らかに私たちの起こした不祥事によるものです。申し訳ございませんでした。
とにかく、こうなってしまうと魔法局長も私たちも最早この設計図通りに地下迷宮を作るしかない。でもそんな危険なものを作って死人が出れば魔法局全体の信頼問題に発展する。だけど手を抜けば「どこが『難易度が上がる』だホラ吹きやがって」と、それもまた魔法局の信頼問題に発展しかねない……。
そこで私たちは考えた。最後の最後にすごいトラップをしかけて難しく見せれば、他が簡単でもみんな騙されてくれるのではないか。そう、例えば迷宮をさまよって無事にゴールに辿り着き、そのゴールに神覚者様が待ち構えていたら? すごく盛り上がるよね。もう見てるみんなが「うおおおお」ってなる。
それにもし受験者が迷宮内で迷ったとしても、神覚者様がゴールに控えていてくださればすぐに救助をしていただける。神覚者様たちとしても未来の同僚をその目で見極め、実際に一戦してみることにはそれなりの価値があるはずだ。カルド様も「仲良くなるきっかけになるかも」と仰っていた。神覚者様たちだって同僚みんなで飲み会とかやりたいんだよ! 多分!
魔法局長もまだ地下迷宮には反対しているようだが、一応「それなら……」と納得してくれて、そんなこんなでその方向で地下迷宮を作ることになった。今年のラスボス枠はライオ様かレインくんが担当することになりそうだ。地下迷宮をめちゃくちゃ楽しみにしているライオ様と、去年の合格者だし受験者たちとも歳が近いレインくん。納得の人選である。
カルド様はというと、目の前でお屋敷を全焼させてしまったトラウマがあるようで「まあ十年後ぐらいにやろうかな」とさりげなく自分を候補から外していた。再建チームのボスの特権だね。そういうのも人間らしくていいと思います。
杖をあちこちに向けて魔法を唱え続けているうちに、壁はどんどん組み上げられていく。痴女は歩くのが早いし魔法を使うのも早いので、その痴女のスピードに合わせて壁を組んでいると私は早口で詠唱しながら早歩きもすることになってすごく疲れた。しかもこれで壁を組むのは本日二度目である。さっきよりも固めに、それも隙間を潰すようにして組んでいるせいで魔力の消費が激しくて余計に疲れる。
何十メートル分か壁を作り終えた後、とうとう休憩を取りたくなってしまった。私よりも何歩も先を歩きながら杖を振り回している痴女の背中に「ねえ」と声をかける。
「そろそろ休もうよ」
「はあ? さっきも休んでたでしょ、この軟弱者……」
振り返った痴女が顔を顰めながら私を罵倒し、こちらに向かって一歩踏み出す。その瞬間、私たちのちょうど間の辺りにゴトンと音を立てて何かが落ちてきた。痴女は思わずと言った様子でそちらを見て、私は咄嗟に杖を構えて天井を見る。……ただの岩肌の露出した天井に見える、けど。
「何が落ちた?」
「……大きい魔法石に見えるわ」
「魔法石ィ? なんでこんなとこに……いやデカッ! 何これデカッ!」
「大きいって言ったでしょ。こんな大きさの魔法石、この辺りじゃもう取り尽くされてるでしょうし、相当貴重なものよ。それに見て、ここの模様が波打ちながらも歪なひし形を形成してる」
「うん? ……ほんとだ。前に授業でやったなー。なんか、この模様の魔法石を組み込んだ魔法道具はすごく効力を増す、みたいな」
「そう、それね」
「……魔法局に届けるべき?」
「……ええ、多分」
「カルド様に報告して指示を仰ぐんじゃダメかな……」
「あの人、さっき魔法局からの呼び出しがかかって帰っちゃったじゃない。だから私たちが二人でこんなことしてたんでしょ」
「そ、そうだった……! 最悪のタイミングだ……!」
床に転がる掌ぐらいの大きさをした魔法石を見下ろし、次に痴女と顔を見合せた。お互い「めんどくさ」とばかりの顔をしていることだろう。……ここから魔法局まで結構遠いんだよなあ。