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「つまり? どういうこと?」
「ユニコーンをぶっ殺しに行くからついてきてくれ」
「聞き返しておいてなんだけどやっぱり意味分からなかった」
「は? 簡単なことだろ。あたしはユニコーンをぶっ殺す。お前はそれについてくる。それだけだ」
「先輩あのね、ユニコーンをぶっ殺すってところがもう分からないんだよ」
神妙な面持ちでそう告げる私を見て深々とため息をついた先輩は、苛立ちを隠そうともせずに足を組み変えて「馬鹿がよ」と言いながら私の頭を叩いた。これがお願いごとをする人の態度ですよ。ありえないですよね。
ここは私たちの寮室。ソファーに並んで座ってお互い課題をやったり昼寝をしたりしていたのだが、先輩が突如意味の分からないことを言い出した。曰く、「次の長期休暇を利用してユニコーンをぶっ殺しに行くからついてきてくれ」。何を言っているのか全くもって分からない。
叩かれた頭を撫で摩りながら、背もたれに腕を投げ出してふんぞり返っている先輩を見る。どうしてこの人はこんなに偉そうなんだろうか。
「私、次の夏休みは時間をとって家族で話し合いをする予定なんですけど」
「それはちょうどいい。お前のお父上と妹も連れてこい。人手は多い方がいいからな」
「はあ? この私が、そんな得体の知れないところに得体の知れない目的のために、父上ならともかくあの子を連れて行くわけないでしょ! 大体どこ行くつもりなの?」
「あたしの実家だ」
「じ、実家ァ⁉︎」
「そう、実家。かれこれ四年は帰ってねーんだが、そろそろババア共がうるさくてな。帰省してやるついでにユニコーンをぶっ殺してやるんだ」
「え、なに、里帰りに友達一家を連れていくの……?」
「仕方ねえだろ。ユニコーンは処女を好む。あたしは視界に入った瞬間に攻撃されるぜ?」
「破廉恥な話やめてください」
「カマトトぶってんじゃねえよ。でもその点、お前のお父上は多分処女だろ? お前の妹も、まあ……処女じゃねえかな、うん。だから一家でついてきてくれ。お前は私と一緒にユニコーンをぶっ殺す係だ」
何を言うんだこの人は……と若干熱を持った頬を手で抑えながら、先輩の言葉を整理していく。言いたいことは分かる。つまり、先輩はユニコーンに嫌われているから、嫌われていないであろう相手を囮にしてユニコーンを嫌がらせで処刑しようという話だろう。……いや、何がつまりなの? 意味が分からないままだよ。
というかだよ。
「待って待って、え? 先輩の家ってユニコーンがいるの?」
「おう。ユニコーンだらけだぜ」
「ええ……何その家……」
「ババアが……あたしの叔母だな。そいつが極度の潔癖症で、言っちまえば処女厨なんだよ。だからユニコーンを多頭飼いしてるんだ」
「なにが『だから』なの? っていうか、ユニコーンって多頭飼いできるんだ」
「できてるな、実際」
真面目くさった顔で頷いた先輩からは酒の匂いがプンプンした。いつものこととはいえ、今日も昼間っから飲んでやがる……。ユニコーンだって処女云々を抜きにして酒臭すぎて刺し貫きたくなるであろうほどの酒臭さだ。一回ユニコーンに謝った方がいいよ。
それにしてもユニコーンかあ。
私のベッドの上で腹を見せて爆睡しているミニブタも、巨大化してイノシシのような姿になれば鋭い角が生えている。でもユニコーンの角ってミニブタのあの角よりもずっと鋭利なんじゃなかったっけ。
ユニコーンは結構貴重な生き物なので、私が知っているのは骨だけになった組み分けマシーンぐらいだけど、あのユニコーンもあのユニコーンで骨だけなのに角は結構鋭い形をしてたよね。まあ角の先端に持ち手ついてるけど。
ユニコーン自体が貴重な生き物であるように、その角もまた貴重なものだ。連中は寿命が長く、その長い寿命の間でずっと自らの角を大事にする習性を持っている。稀に手に入ったユニコーンの角は杖の芯に使われたり、魔法局へと運ばれて研究員たちの研究材料にされたりしているが、まだ未解明なことも多いのが現状。正直気になる。
私はこれでも名家の娘だと自負しているが、そうだとしてもユニコーンの角はなかなか手に入らない。去年の夏にレインくんと採集したゲッカ草ほどではないにしろ、手に入るならば手に入れたい。そして色々と研究をしてみたい。
顎に手を当てて俯きながらうーんと唸る私を見て笑った先輩は、煽るようにして追加の情報を投下してきた。
「最初はマーガレット・マカロンを誘おうかとも思ったんだ。オルカの生徒ならユニコーンの角なんて喉から手が出るほど欲しいはずだからな。でもあいつの専門はそっち方面の研究じゃあねえだろ。ならオルカのほかの知り合いに……とも思ったが、後輩思いでお優しい私はその前にお前に、な?」
「うう……」
「それに妹と話してーっつーんなら、家っつー狭い空間じゃなくて外の広い空間で話した方がいいんじゃねえの? そっちの方が考え方も受け入れ方も変わるかもしれねえじゃん。プラスで、付き合ってくれんならその期間のお前の妹の護衛、あたしも請け負うぜ」
「う、うーん……」
気持ちは「行く」方に偏りつつあるが、隣に座る先輩が意地悪くにやにやしているのを見ると素直に「行きます」と言うのも躊躇われる。第一、先輩はそんな簡単そうに言うけど、色々と問題だってあるだろう。長期休暇中の妹の護衛には魔法局からも何人か腕利きの局員さんたちが寄越してもらえることになったと聞いている。その人たちになんて言って先輩の実家まで着いてきてもらうんだ? ユニコーンをぶっ殺しに行きますって言うの? そんなの正気を疑われるよ。
むむむと唸りながらそんなことで悩む私を知ってか知らずか、先輩はふっと笑ってサイドテーブルに置いていた酒瓶を手に取り口を付けた。
「まあそう気負うな。お前が今心配してることに関しては、鈍感メガネにあたしから話をつけてやる」
「オーター様への罵倒のバリエーションがわりと豊富だな……先輩にオーター様の説得とかできるの? まだライオ様に当たった方が簡単に話通りそうだけど」
「できるさ。見てろ、アイツは絶対に了承するぜ。お前は旅支度をしてお父上と妹をどうにか連れてくるだけでいい」
ふんぞり返ったままそう宣言した先輩は、この三日後に「メガネからオッケー出たぜ」といつもと変わらない調子で言ってきたし、妹に「ユニコーン狩りに行くんだけど着いてくる……?」と聞いたら「食用ユニコーンが存在していないので食べれずにいましたが、前から味が気になっていました。行きます」とかなり変な方向の熱意をぶつけられた。「夏休みなんて病院が混み合う時期にそんなものに行けるわけないだろ。大体なんだユニコーン狩りって」と言ってきた父上が恐らく一番まともだ。