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「おうおうガキ共、旅のしおりは読み込んで来たんだろうな?」
「そんなの貰ってないんですけど……」
「はい、読み込んできました!」
「おー、偉いじゃねえか妹。おい姉の方! しっかりしろ!」
「え? 旅のしおり配られてたの?」
「自作しました」
「自作⁉︎」
「その心意気や良し! お前にはユニコーンの肉を腹いっぱい食わせてやろうな」
「ありがとうございます! 姉上は旅のしおり、作ってらっしゃらないのですか?」
「いや作ってないよ。普通は作らないでしょ。……え? 普通は作らないよね?」
 先輩と妹があまりにも堂々としているので不安になってきて思わず聞き返してしまったが、二人は既にユニコーンの肉の話へと移っており、何も言ってはくれなかった。待ち合わせ場所に指定されたマーチェット通りの噴水広場に到着してすぐにこれ。度は始まっていないのに、既に先行きが不安だ……。
 こんなことなら無理にでも父上を引っ張ってくるか、レインくんに泣き付いて着いてきてもらうべきだったかもしれない。昨日会った時「本当に大丈夫なのか?」と色んな意味で心配をされたけど、妹と久々にお出掛けできることに浮かれていた私は「大丈夫だよ! 多分!」と適当に答えてしまったのだ。全然大丈夫じゃなかったよ、レインくん。
「先輩はユニコーンの肉を食べたことはありますか?」
「いや、ねえな。そもそも食おうと思ったことがねえ。一応昔っからアレはペットだと思ってたからな」
「ペットなのに私が食べてしまっていいんですか?」
「いいさ。あたしはもうあの家から勘当されてるんでね。勘当された家のペットがどうなろうが他人事だ」
「それはそうですね」
 ……いざとなればレインくんに連絡をして助けを呼ぼう。この二人、合わさると危険だ。普段はボケであると自負している私がツッコミに回らざるを得なくなってしまいそうな空気をひしひしと感じている。
 今年は私が学外へ出なければならないことが多かったため、その期間妹の面倒を見るようにと先輩にお願いしていたのが変な方向に作用したようだ。二人は仲良しにはなったが、仲良しは仲良しでも私が想定していた仲良しではなかった。具体的に言えば、二人で人の家をぶち壊して「家のひとつやふたつでうるせえな。あーはいはい、建て直せばいいんだろ?」「あんな悪趣味な家の住人なだけあり、美的センスだけではなく物事の感じ方までおかしくなっているようですね。私たちに家を建て直してもらえることを感謝しなさい」とか言い出しそうな仲良し。混ぜるな危険というやつ。
 嫌に具体的な想像に頭痛がしてきて頭を抱えると、妹が心配そうに顔を覗き込んできた。「大丈夫ですか?」と聞かれたので「うん、平気平気」と答えてから「早く行こう」と先輩に声を掛ける。良い子なんだよ、本当に……。ちょっと甘やかしすぎちゃったせいで、変なタイミングでめちゃくちゃなことをしだすだけで……。

 +

「一番上のアイスが溶けかけてますよ。食べないんですか? 五段も重ねてると、一番上のアイスが溶けると大変なことになると思いますけど」
「あわわわわ」
「なんて言いました? もう少しはっきり喋ってくれますか? 声が小さいし不明瞭だし、よく聞こえません」
「あ、あ、あ……」
「あ? ……なるほど、アイスの食べすぎで頭が痛くなったんですね?」
「……」
「ねえ、アイス溶けてますよ」
「それぐらいにしてあげて!」
「でも姉上、この人のアイス溶けてます」
「うんうん、そうだね。あのね、アビスくんは女の子が苦手なんだよ。可哀想だからやめてあげようね」
「それは知ってますよ?」
「知ってるのお⁉︎」
 知っててそんなに距離を詰めてあれこれ言ってたの⁉︎
 衝撃の事実に驚く私を他所に、妹は「食べないんですか? 仕方ないな、私が食べてあげますね」と言いながらアビスくんの手から五段アイスを奪い取って食べ始めていた。アビスくんは妹を見つめたり目を逸らしてみたり、赤くなったり青くなったり忙しい。なんかごめんね。
 姉としては謝るべき場面だが、私が謝ったら謝ったでアビスくんは今度こそ倒れてしまうかもしれない。そう思って、視線でごめんねアピールをするだけにしておいた。私とアビスくんは文通友達として最近お手紙を送り合っているが、対面での会話はまだ出来ないのだ。
 そんな風に私たち三人が三者三様に今を過ごしている間に、隣のテーブルではアベルくんと先輩が談笑していた。どこでどう知り合ったのかは分からないが結構親しそうだ。
 マーチェット通りを徒歩で抜けてそこから箒で先輩の実家へと移動しようと話していた時に、アイスクリームパーラーの近くのパラソルの下にいるアベルくんとアビスくんを見掛けた。既に夏休みには入っていてここは学校じゃないけど、友達は友達。挨拶くらいはするべきかなと私が一瞬迷ったその時には、先輩はもう二人に声を掛けていた。そして流れるように椅子に座ってアベルくんと談笑を始め、残された私たちも私たちで何となくの流れで別のテーブルを三人で囲むことになった。
「アビス先輩はユニコーンを食べたことはありますか?」
「ゆ、ユニコーンを……食べる……?」
「はい。私は今から姉上と先輩とユニコーンを食べに行くんです。どんな味がするのか気になりますよね。このアイスみたいに美味しいといいんですけど」
「……人が食べることを想定していない餌を与えられているでしょうから、美味しくはないのではないでしょうか」
「一理ありますね」
 ふむと頷いた妹は、アイスのコーンまでバリバリむしゃむしゃと食べた上でアビスくんに向かって「ごちさうさまでした」と平然と言い放った。すっかり奢ってもらったつもりになっているし、アビスくんも「いえ」とか言って流されている。「ユニコーンを食べに行く」という一度では理解し難い仰天発言のおかげで何故か二人は話せるようになったみたいだけど、それでいいの?
 私がそんなことを考えているとはつゆ知らず、アビスくんと妹は剣がどうのと和やかに話を始めた。アビスくんは私とでも剣術の話ならばそれなりに流暢に会話が可能なので、妹ともその話題ならば特に震え上がったりせずに会話が出来ているようだ。まあ仲良しならそれでいいんだけどさ。
 二人の会話にたまに相槌を打ちながら、しれっと先輩に買ってもらっていたアイスを食べていると、「じゃあそういうことでいいな!」と先輩が元気に声を上げた。そちらを振り返り、視線だけで「どういう?」と問う。そんな私を見た先輩はニッと笑って「こいつらも同行させる」と宣言した。ええ?
「どういう話の流れでそうなったの」
「アベルもユニコーンが気になるってよ。それに人手は多い方がいいだろ? アビス、お前もそれでいいな?」
「……アベル様がそう望まれるなら、それで構いません」
「よし。じゃあお前ら簡単に準備してこい。予定は二泊三日、期間中の飯はあたしが準備してやるから、それ以外な」
 そう言ってシッシッと手を振った先輩は、豪快に椅子に座るといつの間にか手に持っていた酒瓶に直に口をつけた。この人は学外でも学内でも本当に変わらない。あまりにも堂々としているので、飲酒していないこちらがおかしいのではないかと錯覚しそうになる。
 私に手を振って去っていったアベルくんに手を振り返し、その後ろを歩くアビスくんにも手を振ったが右往左往しながら会釈されるだけで終わった。……まあ、無視されないだけ進歩ですよ。
 そうは思いつつ微妙な顔をしているであろう私を笑った先輩は、「面白いやつ」と私に対してかアビスくんに対してか分からないことを言った。これ悪口ですよね? 私何も面白いこととかしてないですよ。キレそう。この場に追加のアイスを検討している妹がいなかったらキレてたわ。

ふたつおりのひとひら