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 学校、楽しいー! 二学期になってコイン目当てで襲いかかられることは増えたけど、それはそれとして楽しいー!
 私も決して鬼ではないので「コイン寄越せ!」と決闘を申し込まれた時点で「今年はそんなに持ってないよ」と教えてあげているのだが、みんな一枚二枚のコインでも欲しいみたいで果敢に襲いかかってきてくれる。最近はレインくんも忙しくしててあんまりそっちの相手はしてもらえてないから嬉しいねえ。まあみんなそんなに強くないんですけども。
 でも! なんとなんと!
「いえーい、私の勝ちー! これで二勝二敗二引き分け! ぴーすぴーす!」
「アンタってほんとムカつく喜び方するわよね」
「へーんだ、そんなこと言われたって勝ちは譲りませーん。はい、じゃあこれ今日のエビフライクッキー。おばけ模様だよ」
「しかも変なところで器用。これ全部チョコペンで描いたわけ?」
「うん!」
 なんとー、マーガレット・マカロンと週四で手合わせできることになりましたー!
 よく分かんないんだけど、先輩経由で「相手してやって」と言われたのだ。なんかね、マーガレット・マカロンは今年の神覚者選抜試験に出るつもりらしいよ。でも一学期全然学校に来てなかったからコインが足りないかもしれないらしくて、私との決闘という名目でコインを集めようとしている……のかも。理由の部分は完全に私の予想です。
 あとは修行かな? 私、これでも校内で指折りの実力者ってやつだからねえ!
 まあぶっちゃけちゃうと、どんな理由があろうとどんな目的を隠していようと私としてはマーガレット・マカロンとの──強者との戦闘は血が沸き肉が踊るような楽しいものだ。それに、レインくんが忙しくて相手をしてくれずアベルくんやアビスくんが一学期の諸々の件で実質的な謹慎処分を食らっている以上、色んな意味で私に相応しい相手はマーガレット・マカロンぐらい。
 ランスくんとの修行も楽しいっちゃ楽しいし、私も色々と学ばせてはもらっているが、マーガレット・マカロンとの本気の殺し合いには到底及ばない。それを言ってしまえば、ギリギリのラインを攻めるような命の取り合いを行えるのはマーガレット・マカロンだけだからね。あとはみんな、私も相手も変に遠慮しちゃう。
 そんなこんなで今日も今日とて午後の空きコマを利用して手合わせを行い、前述の通り今日は私が勝った。それに、週二で手合わせをすると決めた時に校長先生に言われた通り校舎は一切壊してない。校庭はちょっとボロボロになったけど、普通に許容範囲内だろう。諸行無常ってやつよ。
 体についた土埃を払いながらすぐ側のベンチに腰掛けると、数秒置いてからマーガレット・マカロンが呆れ顔のまま隣に座った。そんなマーガレットにニヤリと笑いかけながら、元々ベンチに置いていたタッパーの中身を見せつける。本日のおやつ、エビフライクッキーだ。
「実はね、それぞれ表情が違います。力作です」
「前々から思ってたんだけど、アンタ相当暇よね」
「そりゃ正直暇ですよ。だってほら、私たち三年になって結構カリキュラムに余裕できてきてるじゃん? 私は進路確定してるからみんなみたいにインターンとか行く必要ないし、就活とは無縁ですし」
 時折父に呼ばれて病院に顔を出したり、ひいおばあ様に頼まれておつかいをしたり、それこそお屋敷再建プロジェクトの諸々で学校を留守にしたりもしている。私は有能なので引っ張りだこなのだ。現状、忙しくないとは決して言えない。
 でもそれはあくまでも学外での話。学内の話となると、去年までのような「課題に追われて忙しい」という感覚は長らく味わっていなかった。妹とランスくんが「姉上、修行をつけていただけませんか。シスコンお前は退け」「先輩、先週の立ち回りのミスを修正したいから今日は外の演習場で……おいシスコン、今日は元々オレが頼んでいたんだ。お前こそ退け」「何を言うか貴様、このお方は私の姉上だぞ。何故私が退かねばならないんだ」「オレが元々約束していたからだと言っただろうが。性根だけでなく脳みそまで腐りやがったか?」「ぶん殴る」「やれるもんならやってみろ」と揉めるのを仲裁するのはほぼ毎日だけど、それは忙しさとはまた別の問題だ。
 唯一苦手で進級が危ぶまれていた魔法史も、三年生になるとかなり授業が緩くなってこのままなら頑張れば卒業できそうな感じ。今年は妹も勉強を手伝ってくれてるし、忙しいかと言われるとそんなになんだよね。
 今思えば去年のあの「課題やらなきゃ!」という忙しさも良いものだったのかもなあと呑気に考えていると、タッパーから取り出したエビフライクッキーを食べていたマーガレット・マカロンが「甘すぎない?」と顔を顰めた。そうかな?
「私はそれぐらいが好き」
「そりゃアンタは甘いもの好きだからでしょ。人に贈るものなら先週ぐらいの甘さが無難ね。これは人を選ぶわ」
「えー、そうかな。いや、そうかも……レインくん甘いのそんなに好きじゃないしなあ……だけどあの子はりんごが好きだって噂も聞いたし……まあ、はい。貴重な意見ありがとうございます。これはアドバイスのお礼のコインです」
「どうも……って、金? アンタまだ金のコイン持ってたの?」
「ああ、これね」
 訝しげな顔をしたマーガレット・マカロンに肩を竦めてみせる。話すと長くなるんだよ、これが。
「私、最終試験の開催場所になるお屋敷燃やしちゃって再建命じられたじゃん? あの再建プロジェクトの進行中にさ、色々あって……参加者のマーガレット・マカロンには詳しいことは言えないんだけど、予期せぬ事態ってやつが起きましてねえ。それを解決したら、ライオ様がくれたの」
 正確に言うと、地下迷宮に突如現れたトロールを退治したら貰えた。流石の神覚者様と言えど、我が校の中で評価の形として配布されるコインを生徒に渡すなんてことは出来ないはずなんだけど、ライオ様は何をどうやったのか上機嫌に私を褒めながら懐から出したコインをくれたのだ。一緒にいたカルド様は「ええ……」って顔してた。ライオ様は昔っから私に甘いからなあ。
 しかし、コインを貰っても今年の試験に出るつもりのない私としては何もプラスにならない。見た感じ本物のコインではあるけど貰った経緯が経緯だし、どうしようかなと悩んでいたら閃いちゃったわけ。「そうだ、マーガレット・マカロンにあげればいいんじゃん!」ってね。
 そんなことを説明されて微妙な顔をしたマーガレット・マカロンは、それでも大人しくコインを受け取ってくれた。選抜試験に出るつもりならこれを持ってて損することは無いからね。
「アタシは良いけど、そういうのあまり人に言わないようにしなさいよ。レアンの生徒に聞かれてみなさい。贔屓だ何だってうるさく言われるわ」
「えっ、言わない方が良かった? さっきワースくんに会ったから世間話の体で話しちゃった……」
「ワース・マドル? それなら平気じゃない。だってオーターちゃんの弟でしょう」
「オーターちゃん⁉︎」
 オーター様をちゃん付け⁉︎
 ただならぬ仲であることが分かっている先輩でさえ、メガネに絡めたあだ名で呼ぶことはあれどちゃん付けなんてしないぞ。なに? マーガレット・マカロンとオーター様はどんな関係なの? ……もしかして、先輩とマーガレット・マカロンは恋のライバル……⁉︎
 露骨に驚く私を見たマーガレット・マカロンは「違うわよ」と私が何か言う前に否定した。
「アンタとライオさんみたいなものよ」
「えっ……マーガレット・マカロンのお母さんがオーター様の師匠で、師匠が殉職したあともオーター様はマーガレット・マカロンの家によく顔を出したり学校まで様子を見に来たりしてマーガレット・マカロンを可愛がってくれてて、週一でお菓子買ってくれたり、月に一回は家に招いてくれたりしてるってこと……? 家族の都合がつかない時は三者面談に来てくれたり……?」
「アンタそこまでしてもらってんの……?」
「うん、してもらってる」
「相当よ、それ……」
「相当なんだ……」
 いや、私も「ライオ様って本当に私に甘いなあ」とは思ってたけど、これって「相当」って言われるレベルなんだ。確かにこの前、三者面談に同席するために学校まで来てくれたライオ様を見て先輩もマックスくんも何か言いたそうにしてたけど、あの時はレインくんの三者面談にもライオ様が同席してたし、まあ許容範囲内なのかなって思ってた。違ったのか。
 ……あれ、元々何の話してたっけ?

ふたつおりのひとひら