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「ねえレインくん、これ見て。サラマンダーのしっぽ夏バージョンだって。美味しいかな?」
「レインならいねえぞ。あとそれは絶対にまずいからやめた方がいい」
「あっ、そうだった。レインくんいないんだった……本当に美味しくないかな? 先輩も一緒に食べない?」
「ぜってー嫌。ポップコーン買ってやるからそれで我慢しろ。な?」
「はあい……」
 レインくんいないの悲しいな……一緒に観戦したかったな……。肩を落としていると、先輩が隣の屋台で買ったポップコーンをボックスごとくれた。キャラメルのいい匂いがして少しだけ気分が上がる。
「美味しそう! 先輩ありがと!」
「どういたしまして。ああ、カルドさんも食べます? 買いましょうか」
「いや、僕はいいよ。年下の女の子に奢ってもらうのは申し訳ないしね。逆にこれをどうぞ」
「なんです……クッキー?」
「クッキー! えーこれいつものとこのだ!」
「君たちそこのクッキー好きだろう? 手土産だよ」
「これはどうも、ありがとうございます。こいつと一緒に食べますね」
「カルド様ありがとー!」
「どういたしまして」
 クッキークッキーと適当な歌を歌って踊っていると、先輩に頭を叩かれてカルド様には笑われた。カルド様はね、長く続いたお屋敷再建プロジェクトのあれそれでもうすっかり私の扱いに慣れてるからね。クッキーも餌付けみたいなものよ。
 お礼にポップコーンを摘んで差し出せば、カルド様は軽く身をかがめて口を開けてくれたのでぽいっと放り込む。これもまた餌付けね。
「美味しいですか?」
「もう少し甘くてもいいかな」
「なるほどお」
 ふむふむと頷いて私もポップコーンを食べる。うん。ちょうどいいや。カルド様の求める甘さにしてしまったら多分カルド様以外は誰も食べられなくなる。
 とはいえそこまではっきり言ったらカルド様もしょんぼりしてしまうので、特に何も言わずにポップコーンをぱくぱく食べていると先輩が「そろそろ行くか」と声を掛けてきた。
「もうそんな時間?」
「開会まではまだ余裕があるが、遅れるわけにも行かねえだろ。それにカルドさんも最初から上で見られるつもりなら急がれた方がいい。あの陰気なメガネも来ているようですから、数秒遅れただけであれこれ言われてしまいますよ」
「オーターがここに? 聞いてないけどな……まあ、そういうことなら僕はもう上に行こうかな。二人も今日はよろしく」
「任せてくださーい、全員ぴかっと治します!」
「どういう擬音だそれは……カルドさんもきっちりと神覚者候補を見極めてくださいね。それでは失礼します」
 頭を下げた先輩に倣ってぺこりとお辞儀をし、カルド様と別れた。先輩の言っていた通りカルド様は上──つまりは校長先生と一緒に今日の神覚者候補選抜試験を観戦するんだろうけど、私たちはそうじゃないからだ。他の生徒たちと同じく観戦席での観戦ならば途中まで一緒に行けたかもしれないが、私たちが向かうのは選手控え室の傍の仮説保健室である。
 いやー、一応私たちも普通に観戦するつもりだったんだけどね。弟子とライバルと友達の晴れ舞台なんだから、一等席を抑えようと思っていた。でも保健室の先生が急遽予定が入っちゃって……あの人はこの学校に来る前は実家の病院で働いてたからよく知った人で、謎に「若先生に任せます」なんて推薦もされちゃって……そうしたら断れないじゃん。
 まあ「一人は嫌」と嘘泣きをして、優しい校長先生に先輩にもお願いしてもらったんだけどね。私は強欲なので出来ればレインくんも一緒が良かったけど、今日は魔法局に向かわなければならない用事があったらしくて今は校内にいない。マックスくんは言わずもがなである。
 ポップコーンを食べながらくだらない話をしつつ向かった仮説保健室できょろきょろと辺りを見渡す。モニターどこだ、モニター。観戦できなきゃ意味がない。
「ねー、先輩、モニターどこー?」
「あん? ああ……これ、あれだな。時間になると勝手にそこの壁に投影されるやつ」
「見にくいやつじゃん!」
「見にくいやつだな。まあいいだろ。いざとなったらあたし達も上で見ようぜ。怪我人が運ばれてくるのは試験後であって試験中じゃねえから、試験中ならここを出ててもセーフだろ」
「先輩頭いいー! そうしよそうしよ」
 きゃっきゃっとはしゃぎながらポップコーンを一気にいくつも口の中に放り込む。そばにあった診察用の椅子に腰掛けて足を前後に揺らしていると、壁際に積まれていた丸椅子のひとつに掛けて酒瓶のコルクを抜いた先輩が「ご機嫌そうだな」と笑った。そりゃそうですよ。
「だって今回の試験、知ってる人ばっかり出るんだよ? ご機嫌にもなるよ!」
「やっぱりお前としてはランスを推してる感じか? 弟子だもんな」
「んーん、みんな応援してるよ……って言うのは建前で、ランスくんには頑張って欲しいかなー、やっぱり。でもマーガレット・マカロンにだってこんなところで負けて欲しくないし、もちろんマックスくんにも勝って欲しい。マッシュくんも頑張ってるの知ってるし……」
「優柔不断な奴め」
 そう言ってケラケラ笑った先輩は、口付けた酒瓶を傾けながら徐に視線を壁へと向けた。うん? 何かあるの? 私もポップコーンを食べながら視線をそちらへと向け、そこが選手入場通路に面した壁だということに気付く。そっか、この仮説保健室は選手控え室のすぐ側にあって道は一本しかないんだから、みんなここを通って入場するのか。
 今ちょうど入場が始まったようで、コイン獲得枚数が少ない人から多い人の順番でどんどん参加者たちが入場していってるみたいだ。ぱちんと音が鳴ったかと思えば壁に会場の様子が投影される。おっ、今の魔力は……やっぱりフィンくんだ! 映像を見る限り緊張してるみたいだけど、どうか頑張って欲しい。私ね、フィンくんは化けると思……ん?
 映像へと向けていた視線を、選手入場通路に面した方の壁へともう一度移す。今の魔力……オーター様?
 どうしてこんな所にいるんだろう。ここは選手入場通路だ。オーター様のような方がわざわざ通るような場所ではない。
 観戦したいならカルド様と同じように上に行けばいいのに……迷っちゃったのかな?
 よく分からなくて視線を戻したモニターの中ではちょうどマッシュくんが入場したところで、心無い観客たちからのブーイングも起きていた。うわあ……。良い歳して「魔法不全者である」と言うだけでこうも堂々と差別するなんて……こういうやつらに限って、いざ自分がその立場になった時に絶対に被害者面するんだよな。
 イラッとしてポップコーンボックスを机に置いて立ち上がると、先輩に「やめろよ」と言われた。むっ。
「だってムカつくじゃん。ちょっと怪我させて治すだけだよ? ちゃんと治すんだよ?」
「ちゃんと治すんでもやめろ。校内の行事とはいえ、校外の奴らも観てるんだぞ。お前分かってんのか?」
「むう……」
「お前がやらかすと院長にも病院にも迷惑がかかる。それからレインにも。嫌だろ? 大人しくしとけ。それにアイツなら実力で黙らせるだろうさ」
「……アイツってマッシュくん? 先輩ってマッシュくんと仲良かったっけ」
 怒りをおさめようとポップコーンをむしゃむしゃ食べながらそう聞けば、先輩は「別に?」と肩を竦めてみせた。
「あたしが一方的に買ってるだけだよ」
「……黒髪フェチ……?」
「ぶん殴るぞ。そんなんじゃねえよ。見所がある後輩に目をかけて期待するのは普通のことだろ? お前がランスを弟子にとったのと一緒」
「ふーん」
 私がランスくんの面倒を見ると決めたのは、彼の覚悟は信じるに値するものだと思ったからだ。この目でその覚悟の行き先を見届けたい、その思いを信じたいと思った。
 っていうことはつまり、先輩もそんなことをマッシュくんに思ったってことかな? ……なんで? マッシュくんは確かに見所があるし有言実行の男だとは思うけど、先輩がどうして目をかけるのかがよく分からない。黒髪フェチって言われた方がまだ納得できるんだけど……。
 私が首を傾げ、先輩が酒を飲んでいる間にも予選は始まっていた。えー、なになに、一次予選は……えっ! 何あの強そうなやつ! 欲しい! あの強そうな死霊、地下迷宮に配置したい!

ふたつおりのひとひら