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「えー、みんなすご……今年は頭使うからなのか、みんなあんまり怪我とかしてないねえ」
 モニターを眺めながら、追加で買ってきたジュースをちゅーちゅー吸い上げる。いやー、今年は皆さんだいぶ控えにやりおる。おかげさまで仮説保健室に控える私たち二人はめちゃくちゃ暇だ。
 何本目かの酒を空けてほろ酔い状態の先輩はフンと鼻を鳴らしながら上機嫌そうに髪をかきあげた。
「難易度で言えば去年の方が上だぜ。今年は頭を使うが、去年は腕を使わせようとしてた。ま、だからこそお前が一位で通過できたんだろうがな」
「え? 今私のこと馬鹿にしてた?」
「さあ?」
「去年のアレはね、レインくんを隠し玉としておいて最終的に有利に進んでもらおうっていう作戦だからね。別に私がテンション上がっちゃったわけじゃないからね」
 レインくんは去年の時点で校内で圧倒的な強さを誇っていたし、私も私でかなり強い方だった。だからそういうある意味舐めた作戦も決行できたの。まあね、確かにね、ちょっと力の調整ミスって一次予選の時点で通過予定人数を割らせちゃったけど……。
 そう考えると、今年のこの試験内容は去年の諸々を反省しての、つまりは私のやらかしのせいとも言えるのかもしれない。そうだとしたらみんなには申し訳なく感じなくもないな。だって本当ならもうちょっと簡単に「死霊を倒そう!」みたいな内容だったかもしれないってことでしょ? それがこんな、「風船を頑張って割ろう!」みたいな試験になっちゃって……。
 私がほんの少しの申し訳なさを感じていると、隣で試合を見ていた先輩が僅かに身を乗り出した。スッと目を細めて瞬きをするその横顔を何秒か見つめてから私も壁に投影された映像を見る。映像はゴールをした生徒たちを順番に映し出しているところだった。何人か怪我をしている。
「怪我人出てるね。私たちもそろそろ表に行った方が」
「それはそうだけど、そうじゃねえ。マックスがカルパッチョ・ローヤンと接触してた」
「カルパッチョ・ローヤン……あ、オルカの?」
「そ。最古の十三杖に選ばれたっつー一年のガキな。詳細は省くが奴にこちらの攻撃は通じないと考えていい。お前とレインならサーズまで解放すれば何とかなるだろうが、あたしとマックスじゃキツい相手だ」
「……つまり割って入ってボコボコにしろってこと?」
「なわけねえだろ。すぐに手当てしてやれるように表に出てろってこと」
「それならそうとはっきり言ってよ。早く行こ!」
「なんであたしが悪いみたいになってんだよ……」
 ぼやく先輩を無視して、机の上に置いていた救急箱を手に取って慌てて立ち上がる。先輩の口ぶりからして、マックスくんが大怪我する可能性があるってことでしょ。大事な友達が怪我をするとこなんて見ていられない。それに怪我の治療は私に任せられたことだから、変に手出しをしたと思われてマックスくんのプライドを傷付けるようなことにもならないはずだ。
 入場通路を駆け抜けて会場に踏み込むと、すぐに妹の「姉上ーッ」という黄色い悲鳴が聞こえてきた。うーん、あの子は今日も楽しそうでなにより。「一緒に観戦したいです」と言われた時は断るのに胸が傷んだけど、あんなに元気そうなら良かった。レモンちゃんとかと観戦してるんだろう。
 悲鳴が聞こえてきた方に軽く手を上げ、直後に再び聞こえてきた黄色い悲鳴は一旦無視させていただく。あとで構ってあげるからね。
 たたたーっと輪の中心に駆け寄ると、マッシュくんが誰かと向かい合って何かを話しており、その誰かの足元では傷だらけのマックスくんが倒れていた。ギャーッと悲鳴を上げて慌ててマックスくんの近くにずさーっとスライディングする。そのままの勢いでマックスくんを抱き起こした。
「わーん、マックスくん死んじゃ嫌だよお。死なないでえ」
「はは……生きてるよ……」
「生きてたあ!」
 わーいわーいと声を上げて喜ぶ私を眩しそうに見上げたマックスくんは「ひとまず離してもらってもいいかな?」と言った。首を傾げながらも胸に抱えるように抱き起こしていたマックスくんを地面に寝かせ、傷の具合を見ていく。うーん、全部痛そう……。でも治せる範疇だ。
「マックスくん、魔力使って治す感じで」
「姉上後ろ!」
「屈め!」
「ぐええっ」
 治療方針の相談をしようとしたところで、方々から声が飛んできたかと思えばマックスくんに胸ぐらを掴んで引き倒された。首が、首が締まった!
 今度はマックスくんの胸に顔を押し付けるような形になり、変な体勢になったせいで体の痛みを感じてもがくと「ごめんね、でも危ないからしばらくこのままで」とマックスくんが呟いた。危ないってなに? 何が起きてるの? 確かに背後で魔法が使われているような気配は感じるけど……。
「おいクソガキ、自分に背中向けてる救護班を狙うだなんてみっともねえ真似はするな。ああ、お前はもう顔は上げていいぞ。さっさとマックス連れて後ろ戻ってな」
「ええ、なになに? 私狙われてたの?」
「そうだよ間抜け。お前は鍛え直しだな。ほら、戻るぞ」
「間抜けってそんなあ……私だってマーガレット・マカロンに攻撃されたら気付いてたし! あっ、フィンくんもドットくんも怪我してるねえ、可哀想に……お姉さんが治してあげます。次も頑張ってね、応援してる!」
「煽るな。そしてガキを誑かすな。マックス、立てるか? 立てなきゃおぶるよ」
「いや、立てるよ。肩だけ借りても?」
「ああ」
 私を押し退けてマックスくんに肩を貸し歩いていく先輩たちの後を慌てて追うと、ドットくんが「甘くて良い匂いがしたッ……!」と叫んではフィンくんに「ええ……」とドン引きされているのが聞こえてきた。気になったのでくんくんと自分の肩の辺りの匂いを嗅いでみる。あー、なるほどね。ポップコーンの匂いだ。
 おかわりまでしたから匂いが残ってしまっていたみたいだ。お恥ずかしい。振り返って誤魔化すみたいに手を振れば、一瞬でデレっとしたドットくんが満面の笑みで手を振り返してくれた。見るからに元気そう。この分ならこの後の試験も頑張れそうだね。
 観客席で妹が誰かと揉めてる声が聞こえてきたので、ついでにそちらにも手を振っておく。妹は本日三度目の黄色い悲鳴をあげるとレモンちゃんに寄りかかって気絶したようだった。あらら。あの子も保健室に来てもらった方がいいかな?
「おい! よそ見してねえで早く来い馬鹿!」
「はいはーい。今行きまーす」
 ……まあ、あの子ならそのうち自分から顔を出してくれるでしょう。
 私たちの介入でおかしな方向へと向かった空気を仕切り直すようにして司会の子が声を張り上げているのを背に、先輩とマックスくんの後ろに続いて選手入場通路を逆に進んだ。

ふたつおりのひとひら