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「あーっ、また負けた! うわーん、校長先生強すぎるよお」
「年の功かのお」
 フォッフォッフォッと顎髭を撫でつけながら笑った校長先生は、バラバラに崩れたジェンガを手に取ると順番に並べ始めた。またやる気か……⁉︎
 もちろん私としても勝つまでやりたい気持ちはあるが、魔法禁止ジェンガを初めて早数時間。そろそろ疲れてきたので一度休みたい。そう告げる代わりに片手を上げて休憩を要求すると、校長先生は分かりやすく不満気な表情を浮かべた。
「まだいいじゃろー」
「えー、もう疲れたよー。一回休憩しよ。クッキー食べよ」
 ベッドサイドに置かれていたクッキー缶を掲げると校長先生も「ふむ」と頷いてくれた。やった、ようやくおやつ休憩だ。
 先日のイノセント・ゼロとその一味の襲撃事件を受け、私と校長先生はウチの病院の一室に軟禁される運びとなった。理由は簡単で、私たちがそれぞれ勝手に動こうとするからである。校長先生はあれこれと仕事を始めようとし、私は私で実家の病院なので顔見知りの患者さんに声を掛けられては世話を焼いていたら、父上にめちゃくちゃ怒られましてね。「オレが良いと言うまでこの部屋で大人しくしていなさい」と部屋に押し込められたわけ。
 最初に搬送されたのはひいおばあ様の医院だったんだけど、お互いバイタルが安定してからは、そっちは長期入院には向かないということでウチの病院に送られ、今はこうして連日連夜二人で魔法禁止ジェンガをしている。魔法局の皆さんとしても「更なる襲撃の可能性が排除できない以上は二人まとめて護衛できる方が有難い」らしくて、この軟禁を父上が注意されることはなかった。それどころか差し入れがよこされる始末。クッキー缶は美味しいからいいけどさあ。
 ライオ様を筆頭とした神覚者様たちがこぞってクッキー缶をくれるせいで、ベッドサイドにはクッキー缶が山積みだ。退院までに食べれる気がしないし、校長先生とは「クッキーって食べすぎると口がパサパサするね」と毎日話している。
 軟禁生活がスタートしてしまった以上は学校にも通えず、それに校長先生と同室に軟禁されているからレインくんともそう頻繁には会えない。校長先生は気を使ってたまに病室から抜け出してくれるんだけど、いざレインくんを呼ぼうと思うと先輩が顔を出してくれたり、痴女があれこれと愚痴りに来たり、カルド様がお屋敷再建プロジェクトの進行具合を教えに来てくれたり……。とにかくレインくんと二人きりの時間が取れず、私は少しイライラしていた。
 しかしそのイライラも、魔法禁止ジェンガで校長先生に負け続ける悔しさに最近では覆い隠されつつある。もうね、本当に勝てないんですよ。「百年前からやってるからの」と校長先生はほけほけ笑うけど、それでは到底納得できない。どうせならどんな相手にだって勝ちたい。勝ちたいんだよ……! 私は元々魔法禁止ジェンガは寮内でもビリ争いをしてるレベルで弱いけど……!
 でも最近はちょっと良い勝負もできるようになってきたんだよ。あと百戦ぐらいすれば一回は勝てるかもしれないと自己分析している。そのためにも適度な休憩と糖分補給は欠かせないのだ。
 校長先生によって途中まで組み上げられていた魔法禁止ジェンガを押し退けてクッキー缶を開け、「どれにしよっかなー」と歌う。このクッキー缶は神覚者が一人、レナトスさんがくれたもので、見た目がカラフルなのに全部美味しそう。
「ワシこのチョコのやつ」
「じゃあ私はこっちのクッキーにしよーっと! ……ん? うん? ……これリンゴ味だ!」
 わあと歓声をあげると、校長先生はチョコのクッキーを食べながらにっこり笑って「よかったのう」と言った。私もにっこり笑いながら「はい!」と元気に返事をする。私、リンゴ味のクッキー大好きー!
 にこにこ笑いながらクッキーを貪っていると、突然ドアがガラッと開かれて怖い顔をした父上が「あまり食べすぎると夕飯が入らなくなるから、適切な量だけ食べなさい」と言って、そのまま扉を閉めていなくなった。え?
「なに、今の……幻……?」
「ワシにも見えた。いやあ、年々メリアドールに似てくるのお……」
「幻じゃないんだ……っていうかやっぱり? だよねえ、なんかババ上に似てきてますよねえ……」
 特にあの、突然入ってきて一言言って突然出ていく感じ、ババ上っぽさが強かった。メリアドール医院で寝込んでた時も全く同じことされたからね。
 学生時代もそうだったと語って聞かせてくれる校長先生に「こわーい」と相槌を打ちながら、我が家の未来を憂う。父上までババ上化してしまったら……怖いな。
 はあとため息をついて、クッキーをもう一枚摘む。あんなことを言われた以上食べすぎることは出来ないが、まだまだお腹は空いている。もうちょっと食べよう。
 そんなこんなでもうちょっと、もうちょっとと何枚もクッキーを食べていると、そんな私を見ていた校長先生がふと笑った。次なるクッキーに手を伸ばしながら首を傾げる。
「どうかしました?」
「いいや、なんでも。美味しいか?」
「はい、すっごく。校長先生も、あーん」
 私イチオシのリンゴ味のクッキーを差し出す。美味しいでしょ? ともう一度首を傾げながら聞けば、校長先生は目を細めて笑いながら頷いた。美味しいって! さすがレナトス様、アレでなかなか常識人なだけあってクッキー選びもお上手。
 そのまましばらく、口元にクッキーを差し出せば差し出すだけ食べてくれる校長先生に楽しくなって何枚かクッキーを運び続けていたのだが、数分して笑ったまま口の前に手を掲げて止められた。食べさせすぎちゃったみたい。慌ててジュースの入ったコップを差し出す。喉に詰まらせたら大変だ。
「ありがとう」
「いえいえ。ジュース、甘くないですか」
「うむ、平気じゃよ。でもあれじゃな、これは海で飲みたい味のジュースじゃな」
「ココナッツジュースですからねえ」
「……海、行く?」
「えっ! 行く! 行きたいです!」
 そんなこんなで海に行くことになりました。わーい!

ふたつおりのひとひら