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「えー、では文化祭のうちのクラスの出し物ですがー、何か案ある人ー」
「はーい! はいはい! 今年こそ! 今年こそ猫耳女装メイドカフェがいいと思いまーす!」
「えー、猫耳女装メイドカフェ以外で何か案ある人いませんかー」
「なんでえ⁉︎」
去年もした記憶のある会話を繰り返している。バーンッと机を叩いて立ち上がり、グッと拳を握ると声高らかに「みんなも猫耳女装メイドカフェがいいよねえ⁉︎」と叫んだのだが、クラスメイトたちは不自然に私を無視して「なんかあるかなー」「今年最後だしねー」と話し合っていた。おい! どうしちゃったんだよ! 去年のあの熱意はどこに行ったんだよ!
そう叫んでもクラスメイトたちの反応は芳しくない。それどころか「熱意って言うけど、お前がレインを猫耳女装メイドにしたくて一人で暴走してただけだからな?」「私たちを変態一味に加えないでください」とボロクソに貶される始末。酷いよ……!
えーんと泣き真似をしながら机に突っ伏すと、隣に座ったマックスくんが「まあ仕方ないね」と言って笑った。一つ前の席に座っている先輩も「これが民意だな」と愉快そうに笑っている。なんなんだよお!
「卒業前最後の文化祭だし、コイツらだって綺麗な思い出ってやつを作りたいのさ。それに今年は後夜祭としてダンスパーティーがあるだろ? 猫耳女装メイドと踊りたい奴はいないよな」
「私はレインくんが猫耳女装メイドの格好をしてても踊りますけど?」
「お前はな。そしてそれは相手がレインの場合だけ。猫耳女装メイドのマックスだったらどうだ? 踊れるか?」
「全然余裕で踊れるよ」
「だってよ、良かったなマックス」
「僕もうレアンの一年生に誘われてるんだよなあ。ごめん」
「なんで私が断られたみたいになってるの?」
別に今のはパートナーのお誘いとかじゃなかったんですけど?
謎の屈辱感に首を傾げている私を他所に、先輩は口笛を吹いてマックスくんを茶化し始めた。マックスくんが異常に後輩にモテるのは今に始まった話じゃないというのに、飽きない人だ。マックスくんについては、特にこの前の選抜試験でかっこいいところを見せ付けてくれたので人気は右肩上がりだって噂。
ちなみにレインくんに関しては私の日々のアピールのおかげか「かっこいいけど、もうねー……」と女性人気はイマイチの模様。学校でも魔法局でも暇さえあれば付きまとっていた甲斐があった。やったね。
もちろんレインくんの女性人気を下げた責任として、生涯をかけてレインくんのそばにいるつもりである。安心してね、一人にはしないよ。
ご機嫌にふふんと鼻を鳴らしていると、隣と前の二人は揃って私を見つめ、先輩の方が「そういやお前、結局文化祭は出れんのか?」と聞いてきた。うん? 首を傾げると先輩は呆れ顔になる。
「お前が自分で『再建プロジェクトの進みが悪くて文化祭に出れるか分からねえ』っつってたんだろうが」
「あー、そう言えばそうだった! 忘れてた忘れてた」
「忘れんなよ。で? 結局のところどうなんだよ」
「それがねえ、確かにちょっと進行に遅れが出てるんだよねえ。確かに文化祭出れないかもだ」
今から頑張ればなんとか間に合わせられるかもしれないが、私と痴女の監督者であるカルド様が昨今のイノセント・ゼロの諸々で忙しくしていらっしゃるから、頑張ること自体が難しいのだ。
それに私と痴女はそれぞれ母上とお父上がイノセント・ゼロの被害者であり、私に至ってはつい先日母上のストーカーに絡まれている。神覚者様たちは私たちを心配してくださっているようで、現状は「どうにもこうにも……」と言った感じ。善意だと分かっているから跳ね除けることもできないし……。
でも文化祭に出れないのはなあ。繰り返すけど、三年生の私たちにとっては今年で文化祭は最後。一昨年も去年もそれぞれめいいっぱい楽しんだけど、最後の年はもっともっと楽しみたい。それこそ、先輩やマックスくん、それにレインくんとも思い出を沢山作りたいのだ。卒業したら今みたいにほとんど毎日は会えなくなっちゃうもん。
やっぱりライオ様にお願いして、魔法局の人員をちょっとお借りするとか、プロジェクトを早めに終わらせられるようにするべきだろう。今日の午後にでも連絡しよーっと。
私がそんなことを考えている間にも、教室には「結局今年もコイツの性欲に振り回されるのかよ……」という諦めモードが漂い始めていた。むふふ。猫耳女装メイドカフェ以外には他に何も案が出ないようだ。
ふふんと鼻を鳴らして足を組めば、教室中から「お前は当日出れないかもしれないのにズルすぎる」「そもそも女装だと辱めにあうのがオレらだけで不公平」「女子も男装しろ」と非難が飛んできた。おうおう、なんとでも言ってくれ。痛くも痒くもないでーす。
「というか、お前の目的はレインに女装させることだろ? 今年はレイン忙しくて文化祭不参加かもって聞いたけど」
「んー、来れたら来るって言ってたよ。っていうか私の目的を捏造しないで? 私はね、みんなと思い出を作りたいだけだよ……」
クラスメイトの言葉にそれっぽいことを言い返せば、すぐに方々から「適当言うな」と野次が飛んできた。言ってねーよ。マジで本音ですよ。本当に思い出を作りたいんです。
しかしいくらそうアピールしても、クラスメイトたちは信じてくれない。そんな、酷いよ。よよよと泣き崩れるふりをしながら、隣に座るマックスくんにクラスメイトたちの横暴を訴える。
「マックスさん、こいつらに目に物見せてやってください」
「うーん」
「マックスさん!」
「とりあえず、文化祭で何をやるかを決めよう」
「マックスさん⁉︎」
皆さん、だんだん私の扱いが雑になってきてませんかねえ!
悲嘆に暮れる私を見て、先輩は机に肘をつき「自業自得だな」と笑っていた。この人たち酷いよお。
+
「それで、結局姉上のクラスでは何をされるんです?」
「ケモ耳コスプレカフェだよ。去年ケモ耳カフェが最優秀賞を取れたことが評価されて、更にブラッシュアップすることになったんだ」
「また破廉恥で卑猥な害獣牧場ですか⁉︎」
「去年も言ったと思うけどそういう言い方やめて? 破廉恥でも卑猥でもないからね」
「いいえ破廉恥で卑猥です!」
「は、破廉恥警察だ……」
そんな、エッチな格好をしようとしてるわけじゃないのに……。
妹の血気迫る勢いに押されながらも懸命に否定を続けていたのだが、「とにかく!」と強引に言葉を遮られてしまった。あらら。
「その破廉恥で卑猥な害獣牧場で姉上が給仕をするなんて認められません」
「認めるも認めないもそこは私の自由ってやつでは」
「いいえ、違います!」
「違うんだ?」
「はい。違うのです」
なんと、私の自由が否定されてしまった。そんなのありなんだね。
驚いている私を敢えて無視して、妹は強く拳を握る。そのままブンブン腕を振り回しながら、「とにかく許しませんからね!」と強く叫んだ。うむむ。
「でもこのままだと私、文化祭出れないかもしれないよ?」
「あ、なら大丈夫です。どうぞ害獣牧場でもなんでもやってください」
「ええ……」
なんて露骨な反応をする子なんだ。
思わずジト目になった私を見てごほんと咳払いをした妹は、髪をかきあげながら「姉上が不参加ならなんの問題もありませんから」と平然と宣った。普通こういうのって姉が妹に過保護にするものじゃないの? 妹の方が姉に対して過保護になることあるんだ。
それにしてもこの子は過保護すぎやしないだろうか。そう考えながらも、私もごほんと咳払いをした。この話題は続けても平行線を辿りそうだ。
「あなたのクラスは何をするの?」
「シュークリーム屋さんです」
「あらやだ可愛い……マッシュくん提案かな」
「そんな感じですね。私はレモンと共に味見係を任されました」
ふふんとドヤ顔で胸を張った妹に微笑ましい気持ちを覚えながら、「そう言えばこの子、料理めちゃくちゃ下手なんだよな……」と思い出す。どうやったらそう出力されるのか分からないレベルのものを作り上げるから、私も父上も矯正は諦めて食べる専門としてやらせてきたのだ。
……待てよ。その妹と一緒に味見係を任されるって、もしかしてレモンちゃんも……?
可愛い後輩のまさかの側面に驚く暇もなく、ご機嫌な妹に「まあそれはどうでもいいでしょう。久々に修行に付き合ってください」と手を引かれ、話は有耶無耶になったのだった。