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 文化祭二日目。多数の人が行き交う廊下の端っこで私は──マーガレット・マカロンと向かい合って睨み合っていた。
 先程からチラチラと通行人の目線を感じているが、それを全て無視して腕を組み、マーガレット・マカロンを睨み上げる。奴の方が私よりもかなり背が高いので首が痛くなりそうだった。……にしてもこのメイド服はどうしてこんなに袖がひらひらなんだ! 腕が組みにくいったらありゃしない!
「つまり?」
「アンタね、何度同じことを説明させたら気が済むワケ? つまり、この『二人一組幽霊探索ツアー』にアタシと参加してって頼んでるの」
「そう、そして私は『嫌だ』って何回も言ってるの。嫌! 絶対に嫌! とにかく嫌ッ!」
 二人一組幽霊探索ツアー? 冗談じゃない! そんな恐ろしいものに参加できるか!
 首を横に振って叫べば、マーガレット・マカロンは呆れたっぷりに私を見下ろしながら「ワガママな子ね」とため息をついた。はあ⁉︎ なんで私が悪いみたいな言われ方されなくちゃならないんですかねえ!
 込み上げる怒りのままに「キーッ!」と歯を剥き出しにして威嚇をする。そのまま地団駄を踏んで暴れていると、背後から「ちょっと、私がいるのにそんな下品なことしないでくれる?」と嫌そうな声が聞こえてきた。思わず振り返ってその声の主のことも睨みつける。そんな他人事みたいに……!
「ちゃんと分かってるの⁉︎ ここで私がマーガレット・マカロンと探索ツアーに参加しちゃったら、痴女は一人で文化祭を回らなきゃいけないんだよ⁉︎」
「別に構わないわ。そうなったら適当にそこら辺のガキを捕まえて道案内させるから」
「人の学校で男漁りするなッ!」
「男漁りじゃなくて、恋人探しね」
「そっちの方が邪悪!」
 叫ぶ私を大袈裟に肩を竦めてみせるだけで躱した痴女は、口を付けていた紙コップを見下ろすと「保冷がイマイチね」と呟いた。なんで一人だけ優雅に飲み物とか飲んでるんだよ。そもそもそれはいつどこで買ったんだ。合流した時には持ってなかったし、そのあともすぐにマーガレット・マカロンに捕まったから、買いに行く暇なんてなかったでしょ。
 急浮上してきた疑問に、怒りすら忘れて首を傾げる。マーガレット・マカロンはそれを好機と見たのか畳み掛けてきた。
「アタシだって何もアンタを怖がらせようと誘ってるわけじゃないわ。なんでもこのツアー、学生時代のオーターちゃんとアンタの言う『先輩』も揃って参加して、結構苦戦したらしいのよ」
「別に怖くなんてありませんけど? おばけが苦手とか、そんなことありませんけど? ……って、先輩とオーター様が?」
「ええ、そうなんですって。どう苦戦したのかは分からないけど、オーターちゃんに軽く聞いてみたら嫌そうな顔されたから、苦戦したのは事実だと思うのよね」
「ふーん……」
 マーガレット・マカロンが差し出してきた一枚の紙を受け取る。探索ツアーの宣伝ビラらしい。思わずゾッとするようなおどろおどろしいイラストと一緒に、『あの神覚者にも攻略不可能⁉︎』と書かれている。こうやって書いてあるってことは、確かにオーター様と先輩も苦戦したのかも……いや、待てよ。
「この書き方だと、レインくんも当てはまるよね?」
「は? 突然何?」
「だってそうじゃん。レインくんはこの大陸中の人たちの期待の星だし、最年少とかって散々話題になってた。イーストン出身の神覚者って言ったら、今ならオーター様よりも先にレインくんが思い浮かぶ人が多いと思う」
「それはそうかもしれないけど、だからなんなの?」
「わかんない? あのね、これは──レインくんの名誉毀損に繋がるかもしれないってこと!」
「聞いても分からなかったわ」
 やれやれとため息をついたマーガレット・マカロンを無視して、宣伝ビラごと強く拳を握る。許せない……! レインくんが忙しくて文化祭に参加できるか分からないのを良いことに、レインくんのネームバリューを利用しようとするなんて! その企み、私が打ち砕いてやる!
 メラメラと燃え上がる闘争心に突き動かされるようにして、マーガレット・マカロンの腕を掴んで歩き出した。廊下を行き交う人々が私の剣幕に押されたかのようにして勝手に道を空けていく。
「ちょっと、私は?」
「痴女が自分で男漁りするって言ったんじゃん! こっちが終わったら妹たちの教室集合ね!」
「それがどこなのかを言いなさいよ。……え? 探せってこと?」

 +

 最終チェックポイントだった教室を出て、マーガレット・マカロンと視線を交える。
「なんか……思ってたのと違った」
「ホントにね。オーターちゃんったら、これのどこに苦戦したのかしら……」
 本気で疑問を抱いているらしいマーガレット・マカロンに「苦戦するポイントなかったよね」と返してから、いつの間にかロングスカートの裾についていた埃を払う。苦戦の余地はなかったが、埃は沢山あった。幽霊を探すというコンセプトに則って、いかにも魑魅魍魎の類がいそうな感じのところばかり回らされたから、多分そのせい。
 基本的に大鎌を振り回す物理攻撃ばかりの私と全体的にひらひらしていてロングスカートのメイド服とは相性が良くないようだ。でも、お屋敷再建プロジェクトの方にかまけていたせいで文化祭準備にはあまり協力できず、衣装を決めるのも最後の方になったせいで、私に残されていたのはこれかミニスカメイド服かの二択だったんだよ。ミニスカの方はレインくんが一目見るなり「ダメだ」って言ったから実質一択になってたけど。
 メイド服にさしたる拘りはないので、私は大人しくレインくんの選択に乗っかった。その結果がこのクラシックなひらひらメイド服である。これは余談だけど、レインくんって、女の子っぽいシルエットのひらひらしたお洋服が好みみたいなんだよねー。
 どちらともなく廊下を歩き出すと、背後でピシャッと音を立てて扉が閉められた。いやあ、どうやら幽霊探索ツアーを仕切っている人たちを怯えさせてしまったようだ。私もマーガレット・マカロンもテンション上がりすぎちゃって、つい。
 そこまで破壊行為をしたつもりはないが、それこそテンションが上がりすぎてしまっていくつかの壁に穴を開け、廊下もちょっと焦げた。でもそれだけだ。それに彼らは私たちが申し込みをした時点でめちゃくちゃビビっていたから、破壊行為と怯えに関連性はない可能性が高い。破壊行為が怯えを増幅させた可能性には触れないでおく。
 まあ、幽霊探索ツアーと称しておきながらただの謎ときでおばけのおの字もなかったので、私としては特に問題なし。最後には忘れずに何度か軽く叩いて「二度と神覚者の名前や威光を利用したりしません」と誓わせたから、そこもオールクリア。それにツアークリアの報酬としてキラキラの石を貰えてしまった。歩きながら天井の明かりにかざしてみる。うーん、キラキラ。
 マーガレット・マカロンにはいらないと断られたこのキラキラの石は、なんでも持っていると願いが叶う石らしい。そういう魔法道具かというとそんなことはなく、信ぴょう性は不明である。何年も前からツアークリアの報酬はこれらしいので、一旦先輩に本当に願いが叶う石なのかどうか聞いてみようと思っているところだ。
 なにか特別な模様とか刻まれてないのかな、とキラキラの石を透かしていたのだが、マーガレット・マカロンに「前見て歩きなさい」と叱られてしまった。「はーい」と間伸びした返事をして石をポケットにしまい、少し先を歩いているマーガレット・マカロンを小走りで追い掛ける。
「ねー、この石、本物なのかな? 持ってるだけで願いが叶う石なんて聞いたことないよね」
「それもそうだし、アンタが見てもなんの魔法も掛かってないんでしょ? 信ぴょう性はゼロに近いわね」
「うーん、疑惑の冬だ」
「アンタの頭は常春なのにね」
 マーガレット・マカロン風に言ってみたのだが、無視されるどころか貶されて終わった。酷いよ。マーガレット・マカロンが「アタシは何事にも万全の状態で挑みたいの。だからアンタをペアに誘う」って熱烈なことを言ったから、私は痴女を置き去りにしてきたのに……。
 ちなみに先輩に聞いたところ、「進級したいって願いは叶わなかったけど、たらふく酒を飲みてえって願いは叶ったぜ」とのことだった。判断に迷うこと言わないで欲しいです。

ふたつおりのひとひら