07

 無事、夏休みに入った。神覚者候補選抜試験は無事に切り抜けられたし、成績は概ね良好である。魔法史もまあ、レインくんのスパルタ指導とマックスくんの差し入れてくれた夜食、そして酒カス先輩が可愛い後輩を思って留年王として提供してくれた過去のテストの記憶のおかげでなんとか持ち堪えた。
 学期末最後のホームルームを終えてからレインくん共々校長先生に呼び出され、ゲッカ草を取りに行く時の諸注意だとか先方の住所だとかを聞かされたのが、今から約数十分前のこと。八月の第三週に咲くというので、出発は余裕を持って目的の一週間の二日前にしようということになった。一週間の間はぽんぽん咲いてくれるらしいから、その初日に摘んでしまえば、そもそも目的地に到着できないなどといった余程のミスをしない限りは残りの数日でリカバリーがきくはず。
 レインくんも「二週間も会えないの寂しい」って私がぐずぐずしてたら「魔法局インターンの時に会えたら会いに行く」って言ってくれたし、このあと久々に妹にも会えるしで、結構舞い上がっている。良い夏休みになりそうだ。
 それはそれとして、今現在結構困っていることがある。校長先生に渡されたたくさんの荷物だ。なんでも、絶対に割れない保存ケースとか、猛毒にも負けない採取セットとか、絶対に手が爛れない手袋とか。採取後は好きにしていいって言われたけど、そのメリットが霞むぐらいすごいかさばるんだな、これが。
 箒に括り付けた荷物は軽量化の魔法を使ってもずっしり重くて、いつもの八割ほどしかスピードが出せていないのだ。おかげさまで帰宅にもかなり遅れが出ている。
 学校から家までそこまで距離はない。理性が働いて実行には移さないが、帰ろうと思えば放課後に放棄を飛ばして帰って、寮の門限前にまた戻ってこれる。その程度の距離だ。
 夏休みに突入したこともあってか心做しか人通りの多い街の上空をいつもよりもまったりと進み、魔法局の上も通過して、さらにほんの少し進めば祖母の代から続く病院が見えてくる。我が家はそのすぐ裏だ。
 うちの病院は、父に代替わりしてからというものの魔法局との繋がりがより強固なものになり、最早魔法局直属と言っても過言では無いほどになった。というよりも神覚者であった母の影響が多いのだろう。私も幼い頃からライオ様によくしてもらっているし、他の神覚者様たちともそれなりに親しくさせていただいている。
 そのコネ……って言っちゃダメかもだけど、繋がりはレインくんにも結構役立ててもらえるんじゃないかと思う。私は恐らくというか確実に病院を継ぐし、レインくんは神覚者になる。父上もレインくんのことを気に入っているから、そうなればうちの病院はある意味でレインくんの後ろ盾だ。ヤンヤヤンヤと粗探しをして文句をつける魔法局の偉い人たちだって、いざという時に自分たちの命を繋ぐ医者たちを敵に回したくはないだろう。
 近い将来の展望を描きニヤニヤしているうちに、ようやく病院が見えてきた。そしてその上の方で箒に乗っている女の子も。うん? なんであんなところに人が……。白衣を着ていないから医者ではないだろうと観察しながら、ジッと目を細めて箒を飛ばす。キョロキョロしてる。誰かを探してるのか……。
「うん⁉︎」
「……あ! 姉上!」
 近付くにつれ鮮明になっていくその姿はよく知ったものだった。ピンと伸びた背筋とキリリとした顔立ち。意志の強そうな瞳やムッと真一文字に結ばれた唇といい、どこからどう見ても愛しい愛しい我が妹である。
 ギョッとして急加速すれば、妹もビュンッと近付いてきてその勢いのままに抱き着かれた。慌てながらもその背に腕を回して、「どうしたの?」と声を掛けた。
「もしかして父上と喧嘩でもした?」
「いいえ? 父上とは仲良しです。どうして?」
「だって、こんなとこにいるから」
「もう、そんなことですか? あのですね、姉上に会いに来たのです。私は一分でも一秒でも早く姉上に早くお会いしたかったんです」
「あらあらあらあら……嬉しいー! もうっ、可愛いんだからー! 姉上もあなたのこと大好き!」
「……大好きとは言ってません」
 サッと私から離れると今更ながらに頬を染めてわざとらしく顔を顰めぷいと他所を向いた妹に、顔のニヤけが止まらなくなってしまう。なんて可愛いんだろう。もしかしなくてもこの子は天使の生まれ変わりかなにか?
 ああ、会えなかった時間も私たちの愛を育んでいたんだ──。
 再びぎゅっと妹を抱き締めれば、控えめながらに抱き締め返された。照れてるところも可愛い!
「また背が伸びた? もうすっかり私より大きくなったね」
「はい、少しだけですが伸びました。姉上はなんだか小さくなられましたね」
「これでも私も少し身長は伸びたんだけどね」
「まあ、そんなことはどうでも良いのです。早く帰りましょう。時間は有限。一ヶ月しか共にいられないんですから」
「うんうん。またすぐに学校だからねえ……あ、そうだ。私、途中で一週間ほど留守にするんだよね」
「……は?」
「いやー、校長先生に面白い頼まれごとをしちゃったんだ。ゲッカ草、聞いたことはあるでしょ? アレをね、取りに行けることになったの!」
 嬉しくなってきてうふふと小さく笑えば、妹は信じられないものを見る目で私を見てきた。わあ、すごい眼力。
「な、夏休みですよ?」
「うん。これを逃せば百年後。いやー、ちょうど夏休みとぶつかるなんて運がいいよね、本当に」
「……ゲッカ草ということは大陸の南西ですよね。あの辺りは治安が悪いですし、気性の荒い魔法生物が多くいます。姉上には危険です」
「平気平気。こう見えて姉上強いし、レインくんもいるからね」
「…………レイン・エイムズですか」
「うん。何度か手紙にも書いたでしょ? レインくんはいつか神覚者になる人。魔法生物なんて敵じゃないよ」
「……チッ」
「今舌打ちした?」
「しておりません。……姉上の馬鹿」
「えっ? なに? 怒ってるの?」
「怒ってません」
「怒ってるじゃん」
「怒ってません!」
「ええ……」
 うーん、気難しい。そんなところも可愛いけどね。

ふたつおりのひとひら