オクタン







がちゃり。今日もわたしにぶち殺されたかわいいやつに会うため、プライベートルームの扉を開く。鍵もかけずに不用心だなあ。

ぱたりと後ろ手に扉を閉めて、善意で鍵をかけてあげた。

お目当てのオクタンは、ベッドで腕を枕にして仰向けになっていた。
音に気付いて気だるそうにわたしへ視線をやると、ひとつ舌打ちして、上半身を起こす。


「オクタン、今日もわたしにやられちゃったねえ?」

「は?うるせーな…なにしにきたんだよ、わざわざ嫌味を言いに来たのか?」

「そうだよ、悔しそうなオクタンの顔がかわいかったから、からかいに来ちゃった」

「おーおー、ご苦労さん。どこまでもひねくれた女だな」


がしゃり、床と義足がぶつかって音が鳴る。
ベッドに腰掛ける体制に変わってぽきぽきと首を鳴らしているオクタンに近付いて、にこにこと笑顔を貼り付けながら見下ろす。


「ねえ、どうして毎回負けるくせにわたしを探してるの?」

「ア?探してねーよ、たまたまお前がいるだけだろ」

「そうなの?わたしのこと見かけるとすぐ犬みたいに突っ込んでくるの、いつ見てもかわいいなって思ってたの」

「めでたい頭でうらやましいぜ、言いたいことはそれだけか?さっさと出ていけ」


オクタンは脚の上に片肘をついて、もう片方の手をしっしっ、と振る。
冷めた対応をする彼に、むくむくと悪戯心をくすぐられてしまう。
彼の目の前に立って、無防備なオクタンの首に両腕をまわした。ゆっくりと顔を近付けてみる。
一瞬びくりと肩を揺らしたのがかわいくて、くすくすと笑みがこぼれた。


「言いたいことはとくにないけど…したいことがあるって言ったら、追い出す?」

「………は、?」


振り払わないんだ、なんて思いながら、マスクの上からそっと口付けてみる。
今度こそ押し返されるなり、明らかな拒絶をすると思っていたから少しだけがっかりだ。


「…いいの?わたしに酷いことされちゃうよ」

「理解が追い付かないと動けなくなるもんなんだな。意味がまったくわからねえ」


まあ、そりゃあそうか。
今までたいした関わりもなかったし、会話らしい会話なんてたぶん、片手で数えられるくらいしかしてなかったっけ。


ずる、とマスクを下にずらすと、ごくり。
出っ張った喉仏がゆっくりと上下した。

本当にちょっぴりからかうだけのつもりだったけど、まさかここまで無抵抗なんてなぁ。と呑気なことを考える。まあ、どうせならもうちょっと意地悪してもいいよね。
彼の頬をするりと撫でて、もう一度首に腕を絡めなおした。


「…どういうつもりだよ、」




掠れた声だった。

あ、今の声、いいね。

きっと混乱しているのであろう彼に気を良くして、別に理由なんてないんだけどな。と思いながらもその言葉を口に出すのはやめて、かわりにオクタンの唇に噛み付いた。