予定
「外城さんは"13時から外出"と……」
ホワイトボードにキュッキュとマーカーを走らせていると、うまのすけさんがやって来た。
「皆のスケジュール管理か、大変だな」
「一日の予定は皆で共有しておかないといけませんからね。それより困るのは、ホワイトボードの位置が高いことですよ」
そう、警護課は私が来るまで男性しか居なかったからホワイトボードの位置が高い。リーダーである外城さんは一番上に名前が書かれているので、背伸びしないと手が届かない。
「椅子でも使えばいいだろ」
「使うほどではないです。それに使ったら余計情けないというか……」
「俺が持ち上げてやろうか?」
「朝っぱらから堂々とセクハラですか、溜まってるんですか?」
「溜まるかアホ!」
うまのすけさんの拳が私の頭に落ちてくる。手加減しているとはいえ少し痛い。
頭を撫でながらうまのすけさんに尋ねる。
「で、うまのすけさん。今日のご予定は?」
「特にねえな」
「"特になし"、と」
「おい書くな書くな! 意味ねえだろ!」
「ついでに"彼女募集中"と……よし!」
「『よし!』じゃねえ!」
「うわっ……これだけ見ると喪男みたいですね」
「誰のせいだと思ってんだ!」
うまのすけさんは私の手からクリーナーを奪い取ると力任せに拭って消した。
あーあ、せっかく書いたのに消されちゃった。まあ男しか居ない課でそんなアピールしたって無意味だもんね。
「自分の所に"彼氏募集中"とか書いとけよ」
「残念ですが私はうまのすけさんと違って不特定多数に好かれるより、私自身が好きになった人と恋仲になりたいので!」
「ほお、お前もそんな乙女みてえなこと考えてんだなー。もしかして、そういうヤツが居――」
「居ません」
「否定が早えよ」
私のコンマ一秒の返答に、うまのすけさんは失笑した。
「まあいい。あんまりボードに変なこと書くなよ」
「はーい」
「返事だけは一丁前だよな」
ぶつくさ言いながら自分のデスクに戻っていくうまのすけさんを尻目に、再びホワイトボードへ記入していく。
「"金麦で待っててくれる女性募集中"……と」
「言ってるそばからお前は――!」
「ぎゃあああ、追い掛けてきたー! そっか、うまのすけさんは発泡酒じゃなくて生ビール派だったんですねごめんなさーい!」
「そういう問題じゃねえ! 待てコラ苗字ー!」
ばたばたばた、と慌ただしく廊下へ逃げていく私。それを追ううまのすけさん。オフィスに残る外城さんや仲間が、苦笑しながらこちらを見ているのが視界の端に映った。
「……朝から元気だな、あいつらは」
(20170425)
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Smotherd mate