昼休み
昼休みが終わってデスクに戻ると、隣の苗字は未だに突っ伏して寝ていた。ったく、午後の仕事が始まるってのにまだオネンネ中かよ。このまま普通に起こすのもつまらねえし、なんかしてやりてえな。
ふと持っていた缶コーヒーに目をやり、俺は苗字の頭にそれを乗せた。
「意外と安定してんな、コイツの頭」
やっぱ缶コーヒー程度の重さじゃ起きねえか。他にも何か乗せられそうなものはねえかな。そう思ってデスクの引き出しを開けるといい物を見つけた。
手のひらサイズのスタンプ台をそっと缶コーヒーの上に乗せる。平らだからまだ乗せられそうだが……お、ボトルガムがあった。……これでも起きねえのかよ。
「オイそれ貸せ」
「良いけど、内藤ってタバコ吸うっけ?」
「いいから」
傍に居た同僚に声をかけ、タバコを借りる。もちろん吸う為に借りたわけじゃなく、そのままボトルガムの上に追加する。
これで缶コーヒー、スタンプ台、ボトルガム、タバコと大分積み上がったわけだが、それでも起きる気配がない。どんだけ寝入ってんだコイツ。流石にそろそろ起きとけよ。
「何してんだ? お前ら」
「すごいな、苗字のバランス」
「これも乗せてみようぜ!」
俺と同僚が苗字の頭に物を乗せて楽しんでいる事に気付いた仲間達が次々と寄ってくる。
あれもこれもと手渡され、苗字の頭には更に電卓や真四角のふせん、瓶詰めの胃薬、クリップケース、目薬、芳香剤、スマートフォンなどが追加されていった。
まるで後がないジェンガのような、けれどどこか安定感を持つメチャクチャなタワーが苗字の頭の上に完成した。何か一つ乗せるごとに周りから歓声が上がり、俺達はもう止まらなくなっていた。
「やべえ、面白くなってきた。もっと乗せるモンねえか?」
「おい内藤、写メ撮ろうぜ写メ」
「ギネスに乗るぞこれは」
しかし流石に頭が重くなってきたのか、または騒がしさに気付いたのか、もしくは十分睡眠が取れたのか、苗字はパチリと目を開けて頭を動かした。遂に上に乗っていたあれやこれやがバラバラと落ち、苗字のデスクに散乱する。
「ふあっ! なな、何ですか!? なにこれェ!」
「苗字お前……」
苗字は自分の周辺をぐるりと囲んでいる同僚を見て驚きの声を上げた。あーあ、と残念そうな声を上げる愉快な仲間達。俺もその内の一人である。
「何で皆こんなに集まって……ハッ、もう昼休み過ぎてるじゃないですか! 随分と寝ちゃってたんですね、すみません!」
「いや起きんなよ!」
「なっ、なんでですかぁ!!?」
わけもわからず理不尽な怒りを俺から受けた苗字は全力で俺達に訴える。写メを撮っていた同僚がそれを見せると、自分がどんな状況になっていたかを知らされた苗字は「ぎゃあああ何してんですか!」と黄緑色の悲鳴を上げた。
「内藤が始めたんだぜ」
「そうそう、俺達は止めたんだけどさ」
「裏切りかよお前ら!」
「んなぁーっ! うまのすけさん!!」
事の発端は俺だと聞かされ、ポカポカ殴りかかってくるが片手で全部ガードする。昼休み過ぎまで寝ていたお前が悪い。ちょっとしたペナルティだ。だがしかしリーダーの外城まで混ざるとはな。とんでもねえ会社だここは。
昼下がりのオフィスでの、そんな平和な一幕。
(20171107)
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Smotherd mate