おやつ
パソコンの画面と真剣に向き合い、キーボードでテキストを打ち込んでいく。警護課での行事関係の書類はいつも私が作っている。でも今回はちょっと量が多くて文章も上手く思い付かない。頭が回らなくなってきたので引き出しの二段目からチョコレートを取り出し、一粒頬張る。
「お前って、見ればいつもお菓子食ってるよな」
「そんな事ないですよ失礼な。疲れた時には甘いものが大事なんです」
「ハハッ、食い過ぎ注意だな」
うまのすけさんが私の引き出しを開けると、チョコレート以外のお菓子――キャンディ、クッキー、マシュマロ、ラスクなどの細々としたものが目に入った。
「人の引き出しを勝手に開けないで下さいよ!」
「もう」と唇を尖らせながら、うまのすけさんに開けられた引き出しを閉める。
「皆にも配ってるので私一人で食べてるわけじゃないんですよ。それに運動もしてますし!」
「何の言い訳だよ。別に悪いとは言ってねえだろ」
言いながらチョコレートをまた一粒口に含むとうまのすけさんは鼻で笑った。何か腹立つ。
すると外城さんがやってきて、うまのすけさんのデスクに書類の束をどっさり置いた。
「内藤、後輩をからかう暇があるなら手伝え」
「ハア!? 冗談だろ! 俺はこういうの苦手なんだよ!」
「大丈夫だ、既に出来ているフォーマットに数字を入力するだけだ。誰にでも出来る」
外城さんはそう言いつけて、自分のデスクへ戻って行った。書類の枚数は多いけど入力箇所は少ないから、確かに今日中には終わりそうだ。
うまのすけさんがパソコンに触っているところなんてあまり見たことがないし助けてあげたい。でも今の私には見ての通り余裕がない。
ファイトです、うまのすけさん!
夕方、私以上にどんよりとした顔をして延々と入力しているうまのすけさんが隣に居た。横目で見ると口はへの字に曲がってるし、眉間にはとんでもない数の皺が刻まれている。いつも以上に話し掛けづらい。私は引き出しからチョコレートを取り出して一粒摘んだ。
「うまのすけさん」
「あァ?」
すっごく不機嫌そうな声を出すうまのすけさん。構わずそれを彼の口元に持っていく。
「はい、あーん」
「…………ん」
首をこくりと下げて、はむ、とうまのすけさんがチョコレートを食べた。自分でやっておきながらすごくビックリした。普段のうまのすけさんなら「何バカな真似してんだよ」と一蹴するのに。
もぐもぐと口を動かした後、ごくりと喉が動いた。……あれ? 心なしかうまのすけさんの眉間の皺が減った気がする。
「疲れた時は甘いモノ、ですよね」
「……そうだな」
「もう一個くれ」と言われたのでまた口元へ持っていくと、流石に二度目は恥ずかしかったのか今度は手で取られてしまった。でも糖分摂取によって少し回復したみたいで良かった。面白いから、またうまのすけさんが疲れ始めた頃にあげてみよう。
もうこれでオヤツの件はバカにさせませんからね!
(20171107)
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Smotherd mate