あらすじ…コンビニに来ただけなのに、その帰りに誘拐されてしまいました。
02
「……で、あなたのお名前は?」
「俺は内藤馬乃介だ。知ってるだろう?」
「ええ、全く知りません」
知らないフリをするなんて、アンタは奥ゆかしいオンナなんだな。
そういう一歩引いた姿勢もイイと思うぜ。
……と言い出す彼の話を遮り、私は一から理解をする為に質問を重ねる。
「それよりどうして私の名前を知っているんですか?」
「昼の仕事が終わった後、アンタんちまで行って表札を見たんだ。恋人なんだから当たり前だろ?」
人の家まで来て表札を見た? それはまさか……。
というか、ちょっと待った! 今聞き捨てならないセリフが聞こえたんだけど……! 何だ! 恋人って、何だ!
「私に恋人は居ません」
そう言うと、彼はきょとんとした顔の後、大きく口を開けて笑った。
「ハッハッハ! 面白いジョークだ! だが2度目は笑わないぜ? アンタの目の前に居るじゃねえか」
「……どこですか?」
「俺だよ俺! アンタと俺は今日、晴れて恋人になった!」
どうやら彼は私を自分の恋人だと勘違いしているらしい。
しかし告白した覚えもされた覚えも私にはない。
それどころか言葉を交わしたのもたった今が初めてだ。
「いつ私達が付き合ったんですか?」
「正確には"これから"が正しいのかもしれねえな」
「いや、ですから……」
「昼も夜もあれだけ俺を熱い眼差しで見つめて来たんだ。俺の事が好きになっちまったんだろう? 安心しろよ、俺もアンタが大好きだ。だからここで一緒に暮らそう」
私は一瞬で全身に鳥肌が立つのを感じた。
わかった、この人は正真正銘のストーカー気質だ。その上、人の話も聞かない。まともに相手にすると疲れるタイプ。
「あなたは人を好きになると誘拐をするんですか?」
「俺は今まで誰かを好きになる事なんてなかった……だから名前、こうしてアンタに出会えてすごく嬉しいんだ」
頬を染めて語りだす内藤さん(でしたっけ)。
ねえ、お願いだから、少しだけでいいから私の話を聞いてください。
「それは置いといて。誘拐は犯罪ですよ」
「ああ、俺にはもう……名前、アンタしか見えない」
あ、駄目だ。
やっぱり全然話を聞いてくれない。
その上でわかった事が一つある。
それは、私には彼の誤解を解く事が非常に困難という事だ。
どうしよう、本当に心の底からどうしよう。
正直言って、この人の想像力と行動力は私の理解の範疇を超えている。
何一つ理解が出来ない。
要約すると、
@今までまともに恋をした事がない内藤さん
A私と目が合う=好き合っている=恋人同士だと誤解(ここが既に意味不明)
B誘拐(最早人類最大の謎)
「あのー、恋人同士って誘拐したり縛り付けたりするものだと思ってますか?」
「世の中にはそういうカップルも居ると聞いたが」
どんなカップルだそれは。
詳しく知りたくはないけど、多分それは勘違いしてらっしゃる。
「一般のカップルはそういうことをしませんので、まずは解いて下さい」
「でも解いたら逃げるだろ?」
そりゃ逃げますよ! 全力疾走で!
なんて答えたら、まあ解いてもらえないのは明白だ。
「いえ、そもそもカップルじゃないですし、あなたの一方的な片想いです。勘違いです。申し訳ありませんが、あなたの気持ちに応えられません」
「…………」
何だかよくわからないけど、告白を断っている形になっているのだろうか。
内藤さんは眉間にしわを寄せて考え込んでいる。その様子を見て、少し胸がチクリと痛んだ。
「……俺の片想い? んなわけねえだろ」
「いやいやいやいや!! ええーーーーッ!?」
思わず叫んでしまった。いや、叫ばずにはいられなかった。
どこまでも本気でとぼけるこの人に呆れて少しずつ笑いがこみ上げてきた。苦笑い的な意味で。
一体どれだけ思考回路が麻痺してるんだろうか。
「もう良いです、はっきり言わせてもらいます! 私はあなたが好きじゃありません!」
これだけはっきり言えば伝わるだろう。
ていうか伝わって下さいお願いします。
「……そうか、じゃあまずはお友達からってヤツだな」
「えっ」
「アンタがそう言うなら俺はアンタを絶対に振り向かせてみせる」
そう言った内藤さんの瞳はあまりにも真っ直ぐで、私は一瞬だけ胸がときめいてしまった。
話が通じたのかはわからないけど、一応『恋人』という誤解は解けたようだ。
「はあ……出来るもんならどうぞ……」
だからつい安心して、まんざらでもない返事をしてしまった。
すると内藤さんは嬉しそうに笑った。
「よし、まずは衣食住を共にするか」
「え? いや、私の話、聞いてました?」
「ああ。それで俺は、アンタを振り向かせるって言ったじゃねえか」
「あ、はい、じゃあまず家に帰してくれませんか? これって立派な誘拐で監禁で犯罪ですし」
「俺の話聞いてたか?」
「あなたがね!!?」
やっぱり駄目だ! 話がてんで通じなかった! 希望の光なんて最初から見えてなかったんだ!
どっと疲れを感じつつ、ふと壁に掛かっていた時計を見ると、コンビニへ出かけた時間よりも針が大分進んでいる事に気付いた。
「大変、もうこんな時間! 明日は仕事なんです。いい加減帰してください!」
「ここから通えよ」
「好きでも何でもない赤の他人と一緒に住むのは無理です」
「俺は好きだから問題ないぞ?」
「私の話だよ!」
何度目かわからない全力のツッコミをし、肩で息をする。
この人のボケは本物だから非常に疲れる。
すると、内藤さんは私の腕を縛っていた縄を解いた。もしかしてようやく帰してくれる気になったのだろうか。心に光が差し込んだと同時に再び目の前が真っ暗になった。
内藤さんは解いた縄を今度は足首に結び直した。
「これで寝やすいだろ? 今日は俺のベッドで寝てくれ。俺はソファで寝るから」
なんて紳士的で優しくて素敵……! と、言うとでも思ったんでしょうかこの人は。
しかし私が発言する間もなく内藤さんは矢継ぎ早に説明を始める。
「俺は明日も仕事だからそろそろ寝る。そうそう、ボディガードやってるんだぜ? って知ってるか。だからいつでもアンタを守ってやる。絶対にアンタを傷付けさせない。愛してるぜ。じゃあな、名前」
バタン、ガチャリ、とドアが閉まった。
……あれ? この人、絶対にドアのカギ締めた! 締めたよ!?
私は口をパクパクさせて閉まったドアを凝視した。
仕方なくベッドに寝転がると、ふわりと内藤さんのもとの思しき香りがする。
うう、少しだけドキドキするのが悔しい。
「そうだ、携帯……」
しまっておいたポケットに手を突っ込むが、それらしいものはない。
自分の体を手探りしても、どこにも携帯はない。……きっと内藤さんに取られたんだろうな。
大きく溜息を吐いて私は布団にくるまった。
「脱走は……明日考えよう」
この短時間で色々な事がありすぎて疲れてしまった。もう何も考えられない。炭酸ジュースだって飲んでないのに。
気分はさながら囚人の様だった。
(20120319 修正20160727)
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Smotherd mate