拍手お礼・03(逆検 / 馬乃介)
(パターン1.依頼人とボディガード)
私はどうやら命を狙われているらしい。
父の仕事柄、事業によく思わない者が現れたらしく、娘である私を人質にしようとしていると聞いた。私は半信半疑だった。
しかし実際に、私はそれから何度も危うい経験をした。階段で背中を押されたり、駅のホームで背中を押されたり、窓辺で背中を押されたり。
いくらなんでも背中を押されすぎと思った私は1人のボディガードを雇って貰った。私の背中を守るだけなら1人で十分、しかし四六時中側に居ることが条件。
彼は非常に頼もしく、非常に男らしかった。私がどこぞの車に乗せられそうになった時も、睡眠薬を盛られた時も、階段から足を踏み外した時も必ず守ってくれた。少しずつ彼との信頼関係が築かれつつある時に、彼は私にこう言った。
『アンタだから命を投げ売ってでも守ろうと思った』
私の心は大きく揺れ動き、その時の心はきっと果てしない嬉しさで満ちていたと思う。
気付けば私は彼と口付けを交わし、恋に落ちていた。
(パターン2.バーの店員と客)
俺は最近、仕事の終わりにこのバーへ来ることが日課になっていた。最初はバーのオヤジとチェスをする為だった。
しかし、新しく入った店員のオンナに興味がいった。俺はまずオヤジにオンナの名前を聞き、紹介をしてもらった。
女っ気のない寂しい生活を送っていた俺は何の気なしにデートに誘ってみると、オンナは快く承諾してくれた。
デートはとても楽しく、有意義な時間が過ごせた。会話もほどよく弾み、もっとコイツの話を聞きたいと思った。
自宅まで送った時に、俺はオンナの唇を奪い交際を申し込んでいた。
驚いた顔をした後、自分が何をされたのか理解し顔を真赤にして、こくりと小さく頷いたのか非常に可愛かった。
(パターン3.教師と生徒)
私は内藤先生が好き。
背が高くてスラッとして、悪そうな顔立ちにニヤリと口端を上げて笑う笑顔。
いちいち言葉にチェス用語を入れるところ。
厳しいところもあるけど、なんだかんだと生徒思いなところ。
テストの監督中に居眠りしちゃうところ。
とにかく全部好き。
けどそんな先生を好きな女子生徒は他にもいっぱいいるわけで。その子達と差を付けるには、もう告白しかないわけで。
2人きりになった時がチャンスと思い、私は先生に抱きついた。
好きです、大好きです、私は先生にとってただの生徒でいるのはイヤです、本当に先生が大好きなんです、迷惑ですよね、ごめんなさい、でもやっぱりもう我慢できません、ずっと言いたかった、ずっと見てました、先生が……好きなんです。
心臓がドキドキと脈を打つ。
先生は困っただろうか。どう思っただろうか。
でももう遅い。隠していた言葉を言ってしまった。
しばらくしても反応が無いので、諦めていた時、先生が私を抱きしめ返してくれた。
俺だってお前を好きに決まっているだろう。お前は他の生徒と違って見えた。お前が側に居るだけでドキドキした。だがそんな男は教師失格だろうが。なのに……なんでそんな事を言うんだよ。……もう、逃さねえからな。
私は夢のようで、嬉しくて、涙を零して再び先生に強く抱きついたのだった。
(パターン4.赤の他人)
それはすれ違った時だった。
見事にバッチリと目が合った。
このままただの通りすがりで終わるのはいけない気がした。
――俺はすぐに引き返し、人混みをかき分けて相手の元へ走っていった。相手はただ俺を見ていた。何かを感じ、何かを信じ、何かを思い出そうとするかのような瞳はただずっと俺を捉えていた。俺は女の手を二度と離さぬよう強く掴んだ。
――私は彼を知っている気がした。どこかで、何度も出会った気がした。『運命』という言葉がしっくりと来るような、曖昧な記憶。名前も知らない彼が向こうから走ってくるのをただ見ていた。私はそのまま彼に捕まえて欲しいと思った。
気付けばお互いに涙を流していた。
何かが流れ込んでくるような、うまく言葉に出来なくてもどかしいけれど、それはどこか温かくて優しい感情で満たされていた。
ただひとつわかるのは、名前も知らないお互いが愛し合っているということだった。
(研究成果・途中報告)
「何を見てんですかい? 天才博士さんよう」
「いや、実に面白い事が起こったんですよ。仮想世界をプログラミングし、街の繁栄に繋がる最も最適な結果を見出すためにいくつもシミュレートをしていたわけですが…」
博士と呼ばれた女性は何枚かの紙を机に並べていく。
声を掛けてきた男はスーツを着て壁に寄りかかっている。彼は、女性が勤めている会社のスポンサーで、彼女の研究に興味を持ってはたびたび見学に来ていた。男は並べられた紙を一枚一枚眺め、ハッとした顔をした。
「これは……」
そう、と切り出し、女性は説明を始める。
紙には男と女の顔写真が2人並んでいた。4枚とも、同じ様に。この2人は必ず出会い、恋に落ちた。他の人工知能は様々な人と出会い、恋に落ちたが、この2人だけは違った。シミュレート後にリセットをすると、住所、職業、年齢等がランダムで決まるようだが、そんなものは関係なしに、必ずと言っていいほど結ばれていたのだ。
「ふっ。運命ってヤツですかね」
男が何気なく言った言葉に、博士は沈黙し眉をしかめた。一科学者として、そのような非科学的なものを信じられないのだろう。
「それにしても、スゲー実験をしておきながら目を向けるのはこの2人の恋愛とは、アンタもなかなか可愛いところがあるじゃないですか」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
クックと声を漏らして笑う男に、顔を赤らめる。
「また面白い実験をしたら教えてくださいよ」
「……面白いですか?」
「ええ、俺もそんなもん信じちゃいないが……アンタが創りだす『運命』なら、見てみたくなりました」
そう言って、男は研究所から去っていった。
人と人の出会いは偶然なのか、運命なのか。それは誰にもわからない。
研究者は一つ、彼に隠していたことがある。それはシミュレートして得た2人の名前だ。
男の方は内藤 馬乃介。そう、その名はまさしく、彼女のスポンサーでたった今まで会話をしていたスーツの男。
そして、女の方は――――。
(修正20160908)
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Smotherd mate