「こんにちは、草太さん」
「……アンタも暇だねー」
だって貴方は、馬乃介さんの唯一の友達だから。
私がそう言うと草太さんは顔を顰め、そんなんじゃない、と否定した。
「私の知らない馬乃介さんを知ってるのは、草太さんだけだから」
「俺だってアイツの事なんか知らないよ。再会したのも最近だし」
ていうかさ、と草太さんはヒラヒラと手を振って、言った。
「アンタの恋人を殺した俺を憎んでるんだろ?」
「いいえ」
「本当は俺が死刑になればいいと思ってるんだろ」
「いいえ」
「嘘だね」
「嘘ではありません」
面会に来る度に、同じ問答を繰り返す。
草太さんは決して私を信じない。大事な人を奪われた気持ちを間接的に味わっているから。彼も私の気持ちをよく理解しているからだ。
(もっと俺を恨めばいい。そうすればアンタだって楽になる)
草太さんの表情が翳りを帯びる。苦虫を噛み潰したような、どこか葛藤をしているような、言いたい事はあるのに言葉に出来なくてもどかしい、そんな風に見受けられた。
「私は草太さんに信じて貰えるまで、何度も貴方に会いに来ます。貴方は私と馬乃介さんを繋いでくれる、希望ですから」
「何で、そんなこと言えるんだよ」
「貴方が居ないと、私は本当に独りになってしまう」
自分がどんな表情を浮かべていたかはわからないけど、多分寂しそうな笑顔だったのだろう。草太さんが私の言葉を聞いて、返答をくれるということは、きっと少しずつでも彼の心に届いているはず。
そう信じなければ、私は心が折れてしまう。
「差し入れも、持ってきたので良かったら受け取って下さい。今日はこの辺で失礼します」
「…………もう来ないでよ、名前さん」
草太さんは力無くそう呟いた。
私は椅子から立ち上がり、小さく会釈をして面会室を出て行った。
最後に見た草太さんは、肘をついた両手を広げて顔を隠すようにし頭を垂れていたのでどんな顔をしていたかはわからなかった。
でも、ほんの少しでも、私の気持ちが届いたでしょ?
"こんな所"から、早く出てきて。私は早く、貴方に会いたい。貴方に触れたい。貴方の、私を見る瞳が光を失う瞬間を早く見たい。信じていたものに裏切られて絶望する貴方の顔を、網膜に焼き付けたい。ああ、早く。早く。間違っても"こんな所"で誰かにやられたりしないで。死刑になんかならないで。
貴方を殺すのは、他でもない私なのだから。
Smotherd mate