拍手お礼・04(逆転シリーズ)
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「おい、起きろー遅刻すんぞ」
「はっ!」
勢い良くベッドから飛び起きれば、脇に居たのは馬乃介さん。
ってあなた、何で学ランなんか着てるんですか。
「ビックリするほど似合いませんね……」
「毎朝同じ事言うんじゃねえよ!」
コワモテの馬乃介さんに堅苦しい学ランというミスマッチな姿に、プークスクスと笑い出す。馬乃介さんは額に若干青筋を浮かべながら私に手刀を繰り出した。痛い。
でも、待って、今の発言は一体全体どういう事だ。
「毎朝……?」
「オラさっさと着替えて準備しろ。遅刻しても知らねえぞ」
「遅刻……?」
馬乃介さんの言っている言葉の意味が何一つ理解できない。
ふと部屋を見渡すと、私のものと思しきセーラー服が掛けられていた。
「あのーちょっとー記憶が混乱していて……ここはどこ? 私は誰? 状態でありまして……」
「なに寝ぼけたこと言ってんだよ! ったく仕方ねえな……ここはお前の部屋、そんでお前と俺は幼なじみだろうが!」
何だその都合のいい設定。まるでありふれた学園もののような……。
「まさか、これが学パロ時空……!?」
「やっと気付いたか」
「馬乃介さん!」
なるほど、彼もいちキャラクターとして時空に沿った発言をしていただけなのか。
……の割にはすごく馴染んでいる。
「気付けばこのおかしな空間に迷い込んでいた、しかも逃げ道なんかねえ」
「どうしたらいいんでしょうか」
「とりあえず……」
とりあえず?
何か打開策でもあるのだろうか。
「学校へ行くぞ」
「ええ――――ッ!?」
まさかの提案に素っ頓狂な声を上げてしまう。
しかし馬乃介さんは私の言葉も聞かず、さっさとセーラー服を着せて、学校へと引きずって行ったのだった。
(2/5)
おかしい。
絶対におかしい。
成人年齢をしっかり超えつつも、学生服を身に纏う私と馬乃介さんが学校に到着し、教室に入ればそこは江戸時代よろしく家屋のように見えた。いや、違う……梁と畳、障子にふすま、飾られた刀、壁には掛け軸。
「城……?」
ぽつり、と頭に浮かんだ単語を呟く。
「いやァ、寺だ」
否定を述べる声の主は、馬乃介さんではない。というか、気付けば馬乃介さんの姿は消えていた。
その正体は、黒髪に一部白髪が混じった長い髪の毛を後ろで結い、白い着物を着ていた。
「……って、夕神さん!? 何してるんですかこんなところで!」
「よォ。おめえさん、着物もよく似合ってるぜ」
「はっ……?」
よく見れば私の格好も何やら綺麗な着物に変わっていた。
あ、わかった。やな予感がする。
「今度は時代劇パロ時空ですか……」
「へっ、察しが良いじゃねえかァ」
ポン、と頭に手を置かれて、優しく見つめてくる彼に少しだけドキッとする。
心なしか、この時空の夕神さんは優しい気がする。
平和だったのも束の間、突然ふすまがバンっと勢い良く開いた。
「大変です夕神さん! 番殿が謀反を!」
「なにィ!?」
入ってきたのは心音ちゃん。番殿? 番って、"あの"番さん? 慌てて夕神さんに報告をしているが、む、謀反とは? それにしても何だか心音ちゃんがノリノリに見える。
すると、外からは番さんの声が聞こえてきた。
ハァーッハッハッハ……ユガミくーん……
こんなところに引き篭もっていないで……社会復帰をしよーじゃないかー……
「あの、このお寺ってまさか」
「本能寺だァ」
「やっぱりね! そうだろね!」
しんどいねー! 未練だね! と心の中で続ける。なんて馬鹿なことを言ってる場合じゃない。
「おめえさんを死なすわけにゃァいかねェ。とっとと逃げな」
「そんな事を言っても、もう周りは火の海ですよ!?」
いつの間にボウボウメラメラと、私と夕神さんと心音ちゃんを容赦なく炎が囲み、迫ってくる。やがて建物が崩れ落ち、夕神さんと心音ちゃんに手を伸ばすも届かず、そのまま私は意識を失った。
(3/5)
「ハッ! 本能寺で夕神さんの変がああぁー!」
「おーい大丈夫?」
パチっと目を開けると、そこは森の中だった。……って、森!? 今度は何なの!?
「いや、面白いことになったね」
「あなたは……!?」
「あれ? 知らない? お茶の間を賑わせる番組を作ってるのは大体この僕、人呼んでヤマシノPなんだけど。ほら、シクヨロ〜」
「し、しくよろ……」
親指と小指を立てて拳を振るそのポーズは、私の記憶上、アメ○カンホームダ○レクトくらいしか思い浮かばない。
「ノリが悪いねーそんなんじゃ数字、上がらないよ?」
「数字って……というか、ここはどこですか?」
「さあね。……あ、敵だ」
「敵!?」
その明確な発言の根源に目をやれば、本当になんか、変なモンスターが2匹居た。
そして何やら体が重いと思えば、私が着ているのは鎧だった。おまけに、手にはかっこいい剣を持っている。
「ほら頑張って戦って!」
「いやいやいやいや、何ですかこの異世界ファンタジー! はっ、今度はその時空!?」
「まずは苦戦してさ、それから巻き返すように大勝利を掴もうよ。ついでに視聴者の心も鷲掴み!」
「なんで命をかけた戦いにそんな汚いメディアの裏事情を押し付けるんですか! ていうかあなたも戦ってくださいよ!」
最早やらせバンザイと言わんばかりの清々しい発言である。
ヤマシノPとかいうふざけた名前のふざけた格好のふざけたヒゲのふざけた男はハンディカメラを取り出して私とモンスターの戦いを撮影しているが、戦いには一切手を出さない。
「いいね〜そこで脱いでみようか!」
「なんでお色気路線に行くんですか! いい加減にしてください!」
「触・手! 触・手!」
「やかましいわ!!」
戦いもツッコミも忙しくてままならない。
気付けばモンスターは私の背後に回りこみ、一撃。
頭に鈍い痛みが走り、昏倒した――――。
(4/5)
「い、たた……く、うぅー……あの男ぉ……!」
痛みが走る後頭部を擦りながら、あのヤマPだかボカロPだか、名前を瞬時に忘れた男への恨み言を吐く。
今度はどこに飛ばされたのかと周りを見ると、どこかのビルの廊下っぽいところに居た。
「君、斯様なところにへたり込んでどうした?」
声を掛けられ、振り向くとそこに居たのは。
「え、あ、亜双義課長!?」
自然と、"課長"という敬称がついたことに、自分でも驚いた。
亜双義課長は私の知っている亜双義一真ではあるが、違う点といえば頭に赤い鉢巻を巻いていないのと、ストライプのスーツを着こなしているところだった。
しかし、首元にしっかりと締められたネクタイはパタパタとはためいている。駄目だ、笑っちゃいけない。
「ほら、立ちたまえ」
「ひゃっ!?」
口元を隠して必死に笑いを堪えていると、両脇を支えられて無理やり立たされる。
突然の接触にびっくりして変な声を上げてしまった。
「君も淑女なのだから、座る場所くらい考えた方がいい」
「す、すみません……」
「構わん」
フッと優しく微笑む亜双義課長に、胸がきゅんとする。これはまさか、オフィスラブ時空!?
「さて、仕事に戻ろうか。まだまだ残っているぞ」
「もしかして残業ですか?」
「……かもな」
この若さにして課長になった彼の実力は確かなものだ。
しかし、仕事量がいかんせん多すぎる。1人に振り分けられる量ではないのだ。
「ああ、そうしてくれると助かる。ついでに夕食も御馳走しよう」
「そんな、悪いです」
「いや、俺が君と一緒に居たいというのが、本音かな」
ふと見ると、課長の横顔は少しだけ赤みを帯びていた。そんな事を言われて私だって恥ずかしい。……でも、嬉しい。
ガチャ、と課長がオフィスのドアを開けた瞬間、浮遊感が私を襲った。
違う、これは……落ちている……!
「ぎゃああああああああ――――!!」
私は先の見えない闇の底へ、ただ降下していった。
(5/5)
※6-2某キャラネタバレ
「……ふう」
気付けば私は和風な部屋の真ん中で、ちゃぶ台を前にしてのんびりお茶を啜っていた。
一体今までの変な時空は何だったのか。何かのメッセージか。それとも嫌がらせか。もしくはこの現代的な世界観ではちょっと無理があるパロディをことごとく詰め込んだだけの暇つぶしか。
「でも、今度は誰も居ないし、やっと一息つけそう」
そう思った矢先に、またもや勢い良く障子が開いた。
「よう、元気だったか?」馬乃介さんが決めポーズで現れた。
「おめえさん、大変だったみてェだな」夕神さんも口に鷹の羽を咥えながら登場した。
「目線こっちにくれるかな?」あ、この人なんとかPって人だ。またハンディカメラ構えてる。
「貴様達、静かにしろ」学ラン、赤い鉢巻、日本刀を腰に差した亜双義くん。
……って、はあ!? 今までの登場人物が軒並み現れましたが!?
いやしかし、私だけがいろんな時空に飛ばされるならまだしも、時系列が違う方々がこれだけ集まるということは……。
「サ○エさん時空……!?」
「おめえさん、つまらねェ冗談は良しな」
「お前だって気付いてんだろ?」
「何の因果か、君に好意を抱く男が此処に集っている」
好意を抱くって、そんなにハッキリ言われると急に意識してしまう。
それって、つまり、夢見る乙女なら誰でも一度は経験したい……
逆ハーレム時空……!!
自分の浅ましい妄想が具現化されたような気持ちになり、なんだか恥ずかしい。
「貴様とて例外ではないのだろう?」
亜双義くんが差した先に居たのは、ヤマシノP。いや、彼は違うと思う。
しかし、ヤマシノPは肩に掛けていた上着を翻し、マントのように羽織り直した。
「……クックック、キサマラの潰し合いが終焉してから最後にカノジョを戴こうと思っていたが、バレてしまっては仕方がない」
えっ、うそっ。
急に彼の雰囲気が一変し、ミステリアスさを醸し出す。
「つー事は」
「誰がおめえさんをモノにするか」
「早い者勝ち」
「……と言う事、だ」
ま、待って待って。急な展開に私の頭だけがついていかない。
何かの冗談じゃないかと、また変な夢なのではないかと頬をつねってもじんわりと痛みが残るだけ。
こうして、私を巡る恋愛戦争が始まったこの時空に、迷える子羊宜しく、彼ら共々取り残されたのだった。
結果は……ごそーぞーにお任せします。めでたしめでたし。
「めでたくなーーいっ!」
(20161115)
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Smotherd mate