※メリーバッドエンド
帰り道の公園で、いつもパトロールをしている貴方に恋をしました。
ピシッと整った警官服、キリッとした目元、誰にでも分け隔てなく接する誠実な優しさに、私は段々と心惹かれていきました。
仕事帰りにいつもの公園で貴方とすれ違いざまに挨拶を交わすのが毎日の楽しみです。
勇気を出して、挨拶以外の言葉を話した時は本当に緊張しました。けれど貴方は笑顔で話題を広げてくれました。
貴方にとっては些細な事でも、私にとっては舞い上がるくらい嬉しくて仕方なかったんです。
それからは、挨拶だけで済ます時もあれば、他愛ない話をする時もありました。
警察官になるのは子供の頃からの夢だったこと。
野球が好きで、応援するチームがあること。
晴れた日の休日は、必ず外に出掛けるくらいアウトドア派なこと。
動物や子どもが好きで、もし男の子が生まれたら一緒にキャッチボールをしたいこと。
そして、……同じ職場に気になる女性が居ること。
それを聞いた時は目の前が真っ暗になって、言葉が何も出て来なかった。
やっと絞り出すようにして出てきたものは、『応援します』という心にもない言葉。
辛かった。心が引き裂かれそうなくらい悲しくて虚しくて寂しくて、恋したことをこんなにも後悔することになるなんて思わなかった。
その日から私は、あの公園を通ることを辞めた。
もちろんそれから町尾さんに会うことは無くなったし、彼を忘れようと必死だった。
けれど足掻けば足掻くほど頭の中には町尾さんが浮かんで消えなかった。考えないようにすればするほど貴方を想ってしまう。
今頃町尾さんは、気になる女性と上手くいっているのだろうか。私にはもう望みなど無いのだろうか。
ああ、ご飯が喉を通らない。夜も眠れない。もう何もやる気が起きない。心がボロボロで、どうしようもなかった。こんなに辛い毎日を送るのはもう沢山だ。
そんな自分を救ってあげたくて、私は玉砕覚悟で町尾さんに告白することを決意した。
久しぶりに通るいつもの公園。人通りは少ない。
町尾さんを探すようにあちこち歩いていたけれど、時間帯が悪かったのか目当ての人物は見当たらない。
そんなに都合よく会えるわけないか。やっぱりこのまま、私はこの気持ちを終わらせよう。
そう思って諦めかけたその時、上から誰かの声がした。聞き覚えのある声だった。
少し暗くなった空を仰ぐと、町尾さんが空から私に向かって落ちてくる。
ほんの一瞬の出来事が、スローモーションのように感じた。まるで天からの贈り物のようだ。私はあれだけ焦がれて手に入れたかった彼を大事に受け止めるように、笑顔で両腕を広げた。
ありがとう、神様。
――このまま死ぬと思った。
後ろから誰かに背中を押されて僕は高台から落ちていった。
感じたことのない浮遊感、胸がひゅっとする感覚に、心臓が凍り付いた。
落下予想先に2週間ぶりにみた彼女――名前ちゃんの姿を捉えて、咄嗟に「避けろ」だか「逃げろ」だか自分でも聞き取れない言葉を発した。
けれど彼女は、僕の姿を見るとふわりと優しい笑顔を浮かべて、僕を受け入れるかのように両手を広げた。
それを見た僕は何故か助かるような気がして、僕もまた彼女に向かって腕を伸ばした。世界で一番美しい愛の形を見た気がした。
最期の最後に救いをくれてありがとう、神様。
Smotherd mate