最近の告白は、ケータイの通信機能を使うものが多いんだって。なんだか味気ない。告白なら直接言って欲しいし、大事な話なら尚更相手の顔を見て聞きたいものだよね。あ、返事に迷う場合は時間稼ぎが出来るから、やっぱりそういうのもアリかも。でもメールより手紙の方が気持ちがこもっているから、私はそっちの方が良いな。
「我は昔、ラブレタアなるものを書いたことがありますぞ」
「そうなんだ。どんな内容?」
「……忘れてしまいましたなあ。何せ、遠い昔の事ですから。さて、そのレディも今どこで何をしているのやら……」
哀牙は椅子にかけて紅茶を飲みながらしみじみと言った。
彼にもそんな青春時代があったんだなあ……って、当たり前か。生まれた時からこんな性格で鼻が長くて顎が割れてたわけじゃあるまいし。
「相手はどんな子?」
「ム、ジェラシイですかな? ご安心なされよ、我は名前殿一筋でござい」
「……ふふ、そうだね。前からずっと」
私は棚にしまっておいた小物入れから、小さく折りたたまれた紙を取り出した。それを丁寧に広げる。大きさはキャンバスノートを横半分に切ったくらいのもの。
そこに書かれた文章を目で追い、くすりと笑った後に音読する。
「『初めまして。
ぼくはこの学校に古くから住んでいる探偵です。
ずっとチャアミングなあなたを見ていました。
これからもずっと見ています。
いつかぼくのこともルックアットミイ。
放課後のシャアロック・ホオムズより』」
読み終えた時、哀牙の顔がみるみる赤く染まっていくのがわかった。
やっぱり、これを書いたのは哀牙だったんだ。こんなへんちくりんな文章を書く小学生なんて、今となっては哀牙くらいしか思い浮かばない。
私が小学6年生の時、下駄箱にこの手紙が入っていた。漢字があまり使われていない上、字もあまり上手ではないので年下だろうとは思っていた。下駄箱でこの手紙を読んでいる時、視線に気付いてそちらを振り向けば、短パンにサスペンダー、パリッとしたシャツに蝶ネクタイの少年と目が合ったが、すぐに逃げて行ってしまったのを覚えている。
「あの、そのですな、それは、まさか」
「相変わらずだね、あなたは」
「し、しかし苗字が……それに、そのレディは既に学び舎から……」
「うん、この手紙を貰った後すぐに転校したよ。しかも両親が離婚しちゃって苗字が変わった。けど私は3年後に戻ってきたの」
何でだと思う? と問い掛けると哀牙は顎に手を当てて考え込む。
哀牙の回答は――親の仕事の為。進学したい高校があった為。生まれた地に戻りたかった為。エトセトラ、エトセトラ。残念、どれも違います。
隠しているつもりだけど悔しそうなのが丸わかり。仕方ないから教えてあげる。これぞ年上の余裕だよね。
「哀牙を探す為、だよ」
そう言うと哀牙は目を見張った。彼の綺麗な瞳は、あの頃と寸分違わない。真実を映す鏡のような、私を捉えた時にのみきらきらと輝くあの虹彩。
哀牙は眉を少し下げて、困ったように、けれど嬉しそうに笑みを浮かべながら口を開いた。
「全く、貴女には敵いませんな」
Smotherd mate