「星威岳さん、本当にありがとうございました!」
「クックック、この肉体派の脳ミソと頭脳派の腕っぷしに掛かれば、貴女の探し物など簡単に見つかるのですよ!」
私は今、紛失物を見つけてくれた探偵さんに何度も何度も頭を下げている。私が失くしたのは指輪。これは母から渡されたもので、代々娘に受け継がれてきたという歴史ある代物らしい。
いずれ私も娘が生まれた時に、もしくは息子の嫁にこれを渡す日が来るのだろう。そんな日がくれば良いけれど。
「もう私、ダメかと思ってました! 星威岳さんの所へ依頼して良かったです。依頼料だけじゃ足りません、もっと別の何かでもお礼をしたいのですが」
「依頼料などいりませぬぞ。ただ1つ、我が望みを叶えてくだされば」
「えっ……わかりました! 私、何でもします!」
依頼料がいらないなんて、変わった探偵事務所だ。けれど代わりの望みの内容にもよる。安請け合いしてしまったが、もしこの指輪を渡せなんて言われたらどうしよう……。い、いや、依頼した品に対してそんな非道な事、流石にしないよね……?
「では――我は、貴女を頂きたい」
「……え?」
今の言葉は、聞き間違いではないだろうか。私の耳には、『私が欲しい』と聞こえた気がする。
「すみません、もう1度お願いします」
「我は名前殿が欲しい」
全然聞き間違いなんかじゃなかった。今度こそはっきり言われた。
つ、つまり、それは愛の告白というものだろうか。いや、もしくはここで働けという意味か、体で支払えという意味か。何にせよ健全な意味では無いだろう。
「あの、ちょっと考えさせて下さい……。また連絡しま……」
私は荷物を持って椅子から立ち上がり、そそくさと探偵事務所のドアへ向かう。ドアノブを回してわずか数センチ開いた時、すぐ背後に居た男の手のひらが乱暴にそれを閉めた。
すぐ背中に体温を感じる。布地が擦れる音がしたかと思えば、肩に手を置かれた。私はビクッと震える。その手は私の体にぴたりと触れながら鎖骨を伝い、喉元を優しく触れ、顎を柔く持ち上げた。
「ほ、星威岳さん……?」
「『何でもする』って、言っただろ?」
低い声が、耳元で甘く囁く。胸の鼓動が止まらないどころか一段と速くなるのがわかった。私の正直な心臓が今の気持ちを如実に表現していて少し恥ずかしい。彼には聞こえていて欲しくない。
彼は本当に、つい先程まで私と一緒に和やかに笑っていた探偵さんなのだろうか。口調も、声色も、雰囲気も全然違う。
「――俺のモノになれ」
有無を言わさぬ官能的な誘惑が私の耳朶に吸い付き、ぬるりと痕を残した。
Smotherd mate