「クッ。ゴドーブレンド、奢っちゃうぜ」
裁判中、俺は机に両肘を付いて次のコーヒーが机を流れて来るのを待った。
だがいつものマグカップに入ったコーヒーは一向に流れて来ない。
「……どうしましたかな? ゴドー検事」
裁判長のジイさんが動きを止めた俺に聞いてくる。どうしたんだ、って聞きたいのは俺の方だ。
「おいコネコちゃん、まだかい?」
「……フン」
俺はいつもコーヒーが流れてくる方、机の端に目を向けた。そこにはいつもコネコちゃんが待機していて、俺がコーヒーを飲み干すとタイミングよく次のブレンドを流してくれるわけだが、今は無愛想な面構えで俺を睨んでくれるだけだ。
「コネコちゃんのコーヒーがねえと、俺はただの男になっちまう。頼むぜ?」
「私のコーヒーじゃなくても良いくせに」
「妬いてるのかい、名前?……クッ、可愛い引っかき傷だぜ」
きっと先日の事を言っているのだろう。
コネコちゃんが体調を崩し、いつものように法廷で俺にブレンドを流せなかった日。俺はその辺の野郎に頼んでとりあえずコーヒーを流す役目をさせてみたが、途中で止まったり、俺の手に収まらず行き過ぎてしまったりと散々だった。ちなみにその日の分のコーヒーは自分で淹れたものだ。
「別に妬いてなんかないですけど、何ていうか、その……」
「なあコネコちゃん、俺はアンタの淹れたブレンドが飲みたくてウズウズしてるんだ。早くしねえと真実が逃げちまうぜ?」
名前は少し考えた後、仕方ないなあと寛容な溜息を吐きながらいつものブレンドを俺に流した。
それをパシッと受け取って喉に流し込む。やっぱり名前の淹れたコーヒーは最高だ。
「クッ。これからも頼むぜ、コネコちゃん」
「仕方ないから、これからもよろしく頼まれてあげますよ!」
ようやく満足してくれたのか、コネコちゃんは手を腰についてニコッと笑った。
「ほっほ、若い頃を思い出しますなあ」
「あの……そろそろ裁判を再開しても良いですか」
Smotherd mate