「私、命を狙われているんです!」
応接室で黒いスーツに身を包み、サングラスをかけた大柄な男性――外城、と名乗った方に私はそう告げた。
遡ること15分前。
私は警護会社に連絡もなく突撃し、受付の人に急を要する件ですぐに警護を頼みたい旨を伝えた。受付の人は困惑しながらも応接室へ案内してくれた。
そしてやって来た男性に簡単な自己紹介を済ませ、警護が必要な理由を説明し、焦りながら冒頭の台詞を吐き、今に至る。
我ながら実に簡潔なあらすじだ。
「この会社で、一番腕の立つ方を24時間私に付けて下さい」
「苗字さん、それは我々ではなく警察に行かれた方が……」
「それでは駄目なんです!」
眉を八の字に下げ、泣きそうになりながら声を震わせる。外城さんは返答に困り口を閉じた。少ししてから沈黙が包み込んだ室内にノックが2回響く。外城さんが返事をする前に、無作法に中へ入ってきたのは1人の長身の男性。スーツ姿にグリーンのシャツ、チェック柄のネクタイ……おそらく同じボディガードの方だろう。
「内藤、来客中だ」
「わかってますよ、ンな事。だがアンタらの声がこっちまで筒抜けなんでね」
「すみません……」
申し訳なさげに頭を下げる。内藤と呼ばれた男性はまた外へ出て行くのだろうと思ったら、外城さんの隣にどっかりと腰を下ろした。
「おい内藤、何している」
「アンタ、随分急な依頼じゃねえか。一体何があったか俺にも一から話してみろよ」
内藤さんは外城さんの話も聞かず、体を前へ押し出しながら私をじっと見つめた。品定めするような鋭い眼光、刈り上げた頭部に金髪のトサカ、ニッと口端を上げて不敵な笑みを浮かべる彼の登場に、私は訝しみながら再び口を開いた。
「実は――……」
私は今、命を狙われている。
その理由は昨日、殺人事件を目撃してしまったからだ。殺人犯は現場からすぐに逃走し、私は警察に通報した。もちろん犯人も被害者もしっかりとこの目で見た。
すぐに現場は野次馬で埋め尽くされ、私は警察の事情聴取を受けた。それからまた現場に戻ってみると相変わらずの人だかり――の中に、私が見た犯人が居たのだ。
私は事件の証人として明日の裁判で証言をする事になった。犯人も証人として召喚されると知り、裁判で犯人を名指す事に決めた……が、そう簡単に明日を迎えられそうにない。
あろうことか犯人は、次に私の命を狙い出した。
朝から、出勤中に階段から突き落とされそうになったり、駅のホームで背中を押されたりと散々な目に合ったので、会社に連絡して休みを取り、そのままこの警護会社G.O.E.Iに飛び込んだ。
「警察には?」
「行けません。無理です」
「犯人は警察関係者か。そうだな?」
「……そうです」
内藤さんはすぐに私の言葉の真意を理解した。なんて洞察力の鋭い人だろうか、外城さんも驚いている。
「殺されたのは、私の恩師です。だから私は裁判で全てを明らかにし、法で犯人を裁いて貰いたい。自分のした罪の重さを、その身に刻みつけて欲しい。どうか明日の裁判までの24時間、私を守って頂けないでしょうか」
真剣な眼差しで内藤さんを見つめる。ここまで洗いざらい話したんだ、警護して貰わなければやってられない。もし断られたら明日の開廷時間までここに居座ってやる。
数秒ほど睨み合った後、内藤さんは体を反らしてソファにもたれかかった。
「オーケー、俺が守ってやる」
「本当ですか! ありがとうございます!」
内藤さんは腕を組みながら私の依頼を受ける事を決めてくれたが、すかさず外城さんが口を挟む。
「内藤、勝手に決めるんじゃない!」
「いいじゃねえかリーダー。どうせ今は大した仕事もねえし、命を狙われてるとあっちゃ役に立つのは俺くらいだろ?」
随分と腕に覚えがあるようだと思ったら、どうやら社内でもナンバー2の実力を持っているらしい。内藤さんと外城さんは揉めていたが、やがて外城さんが折れて渋々承諾してくれた。
契約書にサインをした今この瞬間から丸一日、内藤さんが私の警護に付いてくれることに決まった。急な依頼で申し訳ないがこれで身の安全が保証されたと思うと、ほっと胸を撫で下ろした。
「命を狙われてんなら明日まで家に閉じこもってりゃいいんじゃねえのか?」
私と内藤さんは警護会社を後にして大通りを歩く。人の姿はあまりない。1人で徒歩で来た時はあんなにビクビクしていたけど、誰かが一緒というだけでとても安心する。
「もし家に帰って、そのまま犯人が付いて来ていたらと思うと怖くて……。そんなに立派な防犯じゃないですし……」
「まあ、家に押し入られたらアウトだな」
楽しそうに言わないで欲しい。内藤さんなら押し入られても逆に倒せるだろうけど、私なんてきっと一溜まりもない。
「それに、私はまだやらなければいけないことがあるんです」
前を見据えてそう言うと、内藤さんは私に目を向けた。
「事件を目撃した時に犯人が落とした凶器を拾ったのですが、どこかで落としてしまったみたいで」
「オイ……アンタまさか、それを今日中に探すつもりか!?」
「はい。あ、安心してください。素手では触れてませんから」
「問題はそこじゃねえよ……」
我ながらとんでもないドジを踏んだと思う。どこで落としたのかはわからないが、もしかしたら現場の近くかもしれない。しかし警察が現場の立入禁止をして捜査をしている以上、私がそこで探すのは不可能だ。それに現場に落ちていれば警察が見つけてくれるだろう。
だから私は現場以外で自分が行った場所をこれから探すつもりだ。こんなことなら事情聴取を受けた時にさっさと渡せば良かった。その時にもちゃんと持っていたか覚えてないけど。
話しながら交差点を歩いていると内藤さんが急にハッとし、私を抱き寄せた。そのまま抱き抱えて走り出し、跳んだかと思えば地面を横転。正面は内藤さんの胸元で守られているが、背中が硬い地面に当たって地味に痛い。
同時にけたたましいブレーキ音が響く。どうやら通りを走っていた車が内藤さんもろとも私をはねようとしたようだ。慌てて確認するが、車はすぐにバックしてその場から走り去ってしまった。ナンバーは折り曲げられていてよく見えなかった。
「マジで命狙われてんだな、アンタ」
「だから言ったじゃないですか! し、死ぬかと思った……!」
死に直結した恐怖から心臓がバクバクいっている。
辺りは騒然とし、私は内藤さんに手を引かれてその場から逃げ出した。まさか、2人まとめて亡き者にしようとするなんて。しかもひき逃げ。相手も手段を問わなくなってきている。
急いで公園へ到着するが、やはり立入禁止。そこから、昨日歩いた道を辿っていく。
公園の通りから住宅街へ向かう。なるべく人通りが多い道を歩いたのは覚えている。凶器は折りたたみナイフだったから、落ちた拍子にたたまれているかもしれない。
足元に気を付けながら探していると、凶器を拾った時に包んでいたタオルを発見した。
「内藤さん! きっとこの辺にあるはずです!」
「よし、探すぞ」
内藤さんと手分けしてナイフを探すがどこにも見当たらない。そうだ、もしかしたら側溝に落ちているかも。そう思って溝の中もくまなく探していると――……
「あった、ありました!」
乾いた溝に落ちていたナイフをタオルごしに掴む。良かった、これで明日の裁判で決定的な証拠も提示出来る――と、思ったのも束の間。
通りに面した横道から4、5人の男が現れた。見るからに私達を狙っている。その中心に居たのは紛れもなく、私の恩師を殺害した犯人だった。
「ご苦労さん。さて、それをこちらに渡してもらおうか」
手を伸ばして証拠品を渡すよう促すが、もちろん応えるわけがない。隣に立っている内藤さんが眉間に皺を寄せて苦々しく言い放つ。
「おいおい、複数人なんて聞いてねえぞ」
「わ、私だって知りませんでしたよ!」
内藤さんはチッと舌打ちをしながら、私を背中に隠すようにして男達と向かい合った。
どうしよう、こんな人数に勝てるわけがない。
「ぞろぞろと群れやがって。1人じゃ何も出来ねえのか?」
「そんな軽口も叩けないようにしてやるさ。死人に口なしってな」
ズボンのポケットから刃物を取り出し、男達が一斉に向かってきた。内藤さんは逃げる素振りを見せずに腰を落として構える。
「内藤さん、無理です! 逃げましょう!」
「うるせえな、アンタは黙って俺の傍に居ろ!」
心なしか声のトーンが楽しげなのは気のせいだろうか。人数差などものともせず、内藤さんは嬉々として襲いかかる男達を次々と殴り倒し、蹴り飛ばす。
……すごい、一流のボディガードってこんなに強いんだ。5人をたった1人で相手にしているのに、優勢なのが目に見えてわかる。
この騒ぎに気付いた通行人が警察に連絡したのか、周りに人の気配が増えだした。
「チャンスだ、逃げるぞ!」
「は、はい!」
内藤さんが私の手を握って、人混みをかき分けながら走る。後ろで男達が追い掛けてくる足音が聞こえた。しかし内藤さんに相当やられたのか足取りは重く、こちらに追い付くことはなさそうだ。
辺りは大分薄暗くなり、さあさあと小粒の雨が曇天の空から降り注ぐ。
隣を歩いていた内藤さんが急に立ち止まり、路地裏に私を連れて行く。ポリバケツやダンボールが雑多に転がっている奥へ進んで私を壁際に寄せると、内藤さんが私を隠すように覆ってきた。
雨で濡れた内藤さんのシャツが体に張り付いて、彼の肉体のたくましさを強調する。頬を伝う雫が顎からぽたりと零れ落ち、角ばった喉元がごくりと動く。そんな様子を見ていると心臓が慌ただしく脈を打った。恥ずかしさから内藤さんが直視できず、視線を反らしながら話しかける。
「……どうしたんですか?」
「シッ、黙ってろ」
人差し指を口元に突き立てられ、口をつぐむ。
通りに顔を向けるとバタバタと先程の男達が走っているのが見えて、心臓がヒヤリと凍りつく。
未だ息の荒い内藤さんに視線を戻すと、スーツの腕の部分が鋭く裂かれ、グリーンのシャツが赤く染まっていることに気付いた。
「内藤さん、血が……っ!」
「黙ってろって、平気だから」
きっと、証拠品を見つけた時にナイフで切られたんた。平気なわけがない。内藤さん、表情も呼吸も少し苦しそうだもの。
「ごめんなさい内藤さん……」
「何言ってんだ、アホ」
私のせいで内藤さんが辛い思いをしている。
傷付いているんだ。
そう思うと自然と目の前が滲んで、自分の存在を否定するような苦しみが私の心を襲った。
「私、もう1人でも大丈夫です……」
「ふざけんな、いいから今は静かにしろ……!」
「でも、やっぱり――……んっ」
謝罪と契約破棄を伝えようとした瞬間、内藤さんにキスをされた。唇への柔らかい感触。内藤さんの甘い香りがふわりと鼻孔をくすぐる。びっくりして涙は引っ込み、頭の中が真っ白になった。
内藤さんはゆっくりと唇を離し、熱い吐息を漏らしながら言った。
「今更『頼まなきゃ良かった』なんて言うなよ」
「だって、私のせいで……」
「この仕事を請けると決めたのは俺だ。アンタが気にすることじゃない」
けど、と一言こぼした途端に内藤さんが私の両肩をぐっと掴んだ。真剣な眼差しで私を見つめながら口を開く。
「しっかりしろよ! 明日の裁判で奴を有罪にして自分の罪の重さを刻みつけてやるって言ったじゃねえか。俺はその言葉を聞いてアンタを絶対に守ると決めたんだ!」
……そうだ。私は何を弱気になっていたんだろう。例え独りぼっちだったとしても、やるべきことは何一つ変わらない。私は明日の為に今を生きているのだから。
「ありがとうございます、内藤さん。どうか明日の裁判まで、よろしくお願いします!」
「ヘッ、言われんでもやってやるさ」
内藤さんに感謝を伝えて、路地裏から出て行く。追手の姿はもう見えないが家に帰るのも危険だ。雨はまだ止みそうもないので、私達はビジネスホテルへ泊まることにした。
悲しい事に空いている部屋はツインのみだった。ダブルよりマシか。それに万が一という事もある、内藤さんと共に居る方が安全だ。
それぞれシャワーを浴びて、あとはゆっくりと明日を待つだけ。凶器もこちらにある。
ああ、なんて長い1日だったんだろう。でもまだ終わりじゃない。気を緩めてはいけない。
「そんなに険しい顔してどうした? まさか俺がアンタを襲うとでも思ってんのか?」
「ええっ!? な、何言ってるんですか! 明日の事を考えてたんです!」
そう言われ、先ほど内藤さんにキスされた事を思い出す。でもあれは私を黙らせる為にしただけだろうし、深い意味なんて無いに決まってる。
「安心しろよ、こんな状況で女を襲うほどプロブレム・チャイルドじゃねえさ」
プロブレム・チャイルド……問題児ってこと? 詳細はわからないけど内藤さんの言葉は信じられる。いつでも私を置いて逃げ出せたのに、危険も顧みずに守ってくれた。そんな内藤さんにだったら私は……なんて、何考えているんだろう。内藤さんは仕事で私を守ってくれていただけなのに。
自分でそう思っておきながら胸がモヤモヤする。何でだろう。……いや、自分でもわからない感情に悩まされていたって仕方ない。
おやすみなさい、と内藤さんに声を掛けて布団を深く被った。目を瞑るとすぐに体がベッドに溶け込むような感じがして、私は深い眠りに落ちた。
翌日。
裁判所まで内藤さんに送ってもらう。長いようで短い間だったけど、本当にお世話になった。内藤さんが居なければ私はきっと5回くらい死んでいただろう。
「内藤さん、ここまでありがとうございました。お陰で真犯人を罪に問うことが出来ます!」
「頑張れよ。アンタみたいに芯のある女なら大丈夫だ」
内藤さんに励まされると不思議と力が沸いてくる。ここでお別れなのが名残惜しい。仕事としての付き合いではなく、内藤さんという1人の男性をもっと知りたい。今離れたらもう会えなくなるような気がして、私はおずおずと口を開いた。
「あのっ……」
その時、一台の赤いスポーツカーが私達の近くに停車した。車から降りてきたのは赤いスーツに身を包んだ男性。彼は私が証言をする裁判の担当検事だ。
「苗字さん、お待たせ致しました。では参りましょう」
「あっ……はい。……内藤さん、本当にありがとうございました」
「……おう」
結局、私は内藤さんに何も伝えられないまま検事さんと共に裁判所へ歩き出した。中へ入る前に一度だけ振り返ってみると、内藤さんの姿は無かった。
いよいよ裁判が始まり、私は証言台に立った。
持ってきた凶器は開廷前に検事さんに渡してある。無事に証拠品として受理されたようだ。私は目撃した殺人事件を思い出せる限り説明し、そして真犯人の名を告げた。
法廷内が異様にざわつき、名指しした真犯人が今度は証言台に立たされる。
検察側の綿密な捜査資料、決定的な証拠、矛盾のない証言、被害者との関係と殺害動機、最早これらを覆す手立てなど存在しない。男は冷や汗をかきながら、しかし私を見ると奇妙に顔を歪めて笑った。
「――貴方に事件の真犯人として判決を下します」
まもなく裁判長から有罪判決が下される。だが犯人は検察側の証人席に座る私の方へゆっくりと歩み寄ってきた。
今までさんざん命を狙われた恐怖から、体が強張ったままジッと動きを見つめていると、男は懐から刃物を取り出した。そんな……一体どうやって持ち込んだというんだ。
「貴様、早まるな!」
「お、お前さえ居なければ、俺は! やはり昨日の内に殺しておくべきだったんだ!」
検事さんや係官が取り押さえようと走り出すが、間に合うわけがない。
……ごめんなさい、内藤さん。
せっかく守ってくれたのに……やっぱり私は殺される運命だったんだ。
でも私はやるべき事を成し遂げた。
それだけで全然違う。
十分じゃないか――……いや、そんな事はない。
だってまだ、私は内藤さんに何も伝えていない。
――瞬間、誰かが私の目の前に飛び込んだ。その人物は長い足を伸ばして、犯人の顎を思い切り蹴り上げた。背中から倒れ込んだ犯人はすぐに係官に取り押さえられる。
この長身の広い背中に、見覚えのある独特な髪型は紛れもなく……
「内藤さん!?」
今朝まで私を守り続けてくれたその人だった。
内藤さんは私の方へ振り向くと、腰に手を当てながら笑った。
「よう。危ねえ所だったな」
「ど、どうして! 会社に戻ったとばかり……。それに、契約期間はとっくに終わって……!」
内藤さんがここに居ることが信じられなくて、私はただ自分の目を疑った。すると彼は腕を伸ばし、その大きな手で私の頬に優しく触れた。
「バーカ。惚れた女を守るのに期限なんかねえよ」
その言葉に、顔が一気に熱くなるのを感じた。突き動かされるように内藤さんの胸に飛び込むと、背中に腕を回して受け入れてくれた。
ああ、確かな感触がある。これは私の妄想でも夢でもない、本物の内藤さんが身を挺して私を再び守ってくれたのだ。
嬉しくて堪らなくて心が色んな感情で溢れてくる。内藤さん、私、あなたに会いたかったんだよ。
その後、裁判が再開されると、遂に犯人に有罪判決が下された。
やっと、この瞬間が訪れた。けれど私の恩師はもう居ない。仇を取ったなんて大それたことは言えないけど、少しでも浮かばれる事を祈る。
私達は裁判所を後にし、特に行く先もなく通りを歩いていた。
「それにしても、よく法廷に入れましたね」
「傍聴席が空いてたからな。いつでもアンタを守る準備はしていた」
「えっ、それじゃあ最初から居たんですか!?」
まあな、と内藤さんが答える。
全然気付かなかったが、内藤さんは裁判を傍聴していたらしい。どうしてそこまでして……と問うと、内藤さんが苦笑しながら言った。
「あんな捨てられた子犬みてえな顔されちゃ、離れるに離れられんだろ」
「す、捨てられた子犬……」
「安心しろよ、俺が責任持って拾ってやるから」
「ペット扱いしないでください!……でも」
「『でも』?」
先程の、死ぬ直前に感じた恐怖が一気に払拭された感覚を思い出す。
私は顔に喜びをたたえながら、そっと呟いた。
「……内藤さんが助けに来てくれた時、本当に嬉しかったです」
「ああ。俺も……名前を守りきれて良かった」
内藤さんが私の手を強く握る。警護中に何度も繋いだ彼の大きな手が私の手をいとも簡単に包み込み、その温もりにただ安心していたのを覚えている。
「今度は離さねえからな」
「……はい!」
手のひらから伝わる熱とその力強さに寄り添うように、私は心から真っ直ぐに返事をする。
そしてもう二度と離れないようにと、愛する彼の大きな掌を強く握り返した。
Queening square
…ポーンがクイーンになるマスの事
(20170129)
Smotherd mate