先日作ったサザエアイスを売り出しに、私達はひょうたん湖公園に屋台を出した。
太郎さんが居ないので、代わりに私がアイスクリーム屋さんの店番をしている。この公園は割と良いスポットで、お客さんもそれなりに来てくれた。
「お嬢、アイスを一つ貰えないかのう」
「はい……って、あら。了賢さんじゃないですか」
また新たな客だと思ったら、太郎さんの知り合いの方だった。太郎さんより年上で和服がよく似合っているご老人。いつも大きくて黒い犬を連れている。名前は『クロ』というらしい。そのまんまだ。
どうやらこの方も殺し屋らしく、最初は驚いたけど言われればそう見えるかもと単純な私は納得した。
「了賢さんもアイスなんて食べるんですね」
「すまんが、クロに氷もやってくれんか?」
「良いですよ。ね、クロ!」
なんとなく話を逸らされた気がする。カウンター越しにクロに声を掛けると、「わん!」と吠えながらカウンターに前足を掛けた。その時クロの首輪についてた鈴がチリンと鳴り、一瞬何かがフラッシュバックした。ぐらりと世界が揺れて足がよろめき、咄嗟に壁に手をつく。
「お嬢、大丈夫かね?」
「え、ええ……大丈夫です」
今、私は何を思い出しかけたんだろう。……わからない。それに、もう忘れてしまった。
了賢さんのアイスとクロの氷を用意して、カウンターを回って外に出て差し出した。
「どうぞ、サービスです」
「この老いぼれに二段重ねとは、酷なことをするものよのう」
「これが最後のアイスになるかもしれませんから」
「くくく。言うのう、お嬢」
「冗談ですよ。また買いに来てください」
「お嬢の法被姿をまた見に来るとしようかのう」
手を振って了賢さんとクロをお見送りする。太郎さんに会わずに行ってしまったけど、良いのかな。やっぱり、単にサザエアイスが食べたかっただけだったりして。
それにしてもこんな平和な所に殺し屋が2人も存在するなんて、世の中はなんて末恐ろしいものだろうか。まだまだ私の知らない世界が広がっているんだろうなぁ、とカップにサザエアイスを盛り、プラスチックのスプーンで掬って頬張る。
アイスとサザエの奇妙な組み合わせに首を傾げながら、それでも口に運ぶ手が止まらないのは本当に不思議だ。太郎さんはまだ帰ってこないし、ゆっくりと堪能させてもらおう。と、聞き覚えのある声が背後からぬっと私に声を掛けた。
「名前さん、商売道具を食べるとは感心致しませんね」
やばい、タイミング悪すぎた!
Smotherd mate