洗ったばかりの湯船で熱いお湯を堪能し、気持ちよく鼻歌を歌い、しっかりと温まった身体からほかほかと白い湯気を出しながらリビングに戻ると、馬乃介は未だにテレビにかじりついたままだった。私がお風呂に入る前から全く移動していない。かといって特に面白い番組があるわけでもなく、なんとなくそこでボーッとしていただけだ。
私はその大きな背中にピッタリとくっついて自分の頭に乗せていたタオルで馬乃介の頭をわしゃわしゃと拭く。
「濡れたままじゃん。風邪引くよ?」
「いいんだよ面倒くせえ」
何がいいんだか。風邪引いて困るのはその都度世話をする私だ。そんな事も気付かずに全く呑気な事を言ってくれちゃって。あ、もしかして私に看病してもらいたくてそんな事言ってるのかな? なんて勘違いも甚だしい事を考えながら馬乃介の髪の毛を拭き上げた後、いじくり回す。その辺にヘアゴムとかなかったっけ。輪ゴムでもいいや。せっかくだから縛ってあげよう。
なんて思っていると手の動きの変化に気付いた馬乃介が振り向いて、私の腰に腕を回して抱き寄せた。
「オイ何してんだよ名前」
「馬だけに、ポニーテールにでもしようかなって」
「ふざけんな」と言いながら私を捕まえて、あぐらをかいた自分の足の上に乗せる。簡易版お姫様抱っこというより、まるでゆりかごだ。というか私の髪はまだ濡れたままだから乾かしたいんだけど。
すると馬乃介は自分の肩に置かれたままのタオルで今度は私の頭をわしゃわしゃと乱暴に拭き始めた。ちょっと痛い。優しさが足りない。
「小せえな、お前は」
「馬乃介がでかすぎるんだよ」
膝を曲げた足をパタパタさせながら喜びを表現する私はまるで尻尾を振る犬のようだ。そうか、私は馬乃介に触れられて嬉しいのか。ふと気付いた事実に少しだけ口元が緩む。
「何笑ってんだか」
「なんでもない」
馬乃介の胸元にそっと頭を寄せて埋める。薄いTシャツ越しに触れて感じる彼の厚い胸板にはいつも安心感を得る。同じく風呂上がりの彼は、私と同じシャンプーと柔軟剤の匂いがして、いつまでも嗅いでいたくなるくらい良い香りだ。
そんなふうに甘えてきた私の額に、馬乃介がチュッと口付けをしてきた。大きな手を私の頬に添えて自分の方を向かせ、今度は唇に直接キスをする。柔らかい彼の唇の感触は、何度も押し付けられていく内にねっとりと舌を絡める深いものになっていき、少しづつ吐息が乱れてくる。
馬乃介の目を見れば先程までの愛しいものを慈しむような目つきから、ギラリと獲物を狙う肉食獣のような鋭いものに変わっていた。……あ、これは、アレだ。
私が止める間もなく、馬乃介の唇は留まることを知らずに首筋へと伝っていったので、私は彼がそうしやすいように彼の首元へぐるりと両腕を回した。ちく、と吸い付かれて、見えない所に付けてくれてたらいいな、と余裕のなくなった私の頭はぼんやりとズレた事を考えた。馬乃介の興奮を抑えきれない吐息が私の耳元を掠めて背筋がゾクリとして、思わず「は、ァ」と声を漏らすと、いよいよ理性を失った馬乃介が「名前」と激しく私を求めてきた。
今日はこのままリビングでかな、出来ればベッドが良いんだけど。そんなのもきっと、今の彼にはお構いなしだ。
Smotherd mate