ん、何だか少し息苦しい。
重い瞼をゆっくり開けると、目の前の暗闇が徐々に輪郭を取り戻していく。白いシャツ、赤いリボン。少し頭を上げれば哀牙さんがすやすやと穏やかに眠っていた。
哀牙さんの仕事が遅いから先に寝ていたんだけど、そっか、ようやく帰ってこれたんだね。そのままシャワーも浴びずに寝てしまうなんて、よっぽど疲れたんだなぁ。ジャケットは流石に邪魔だから脱いでいるようだ。
寝ているとは思えないくらい固く抱き締められていて、上手に身動きが取れない。仕方なく彼の胸元にこてんと頭を預けて、規則的に鼓動を繰り返す彼の心臓の音を聞きながら目を瞑る。ああ、安心する。
何となくこのまま二度寝するのは惜しい気がして、私は少しだけ上にずれて哀牙さんの顔を正面から眺める。意外とまつ毛が長い。それにしても鼻も長いなぁ。指先で鼻の付け根から鼻先までつつ、と撫でる。皮膚の感触に「本物だ」とクスクス笑いながら鼻先をつんつんと突付く。
唇から顎へ視線を移し、男性が女性にキスをするように哀牙さんの顎に優しく手を添える。親指を左右に動かして顎の割れ目を確認し、他の指は顎裏に回して固定する。海外じゃ割れ顎はセクシーポイントらしいけど、あながち間違ってはいないだろう。
無防備な哀牙さんの唇に、そっと自分の唇を重ねてすぐに離す。ドキドキしながら彼の顔を伺うが、すうすうと静かに寝息を立てているだけ。
「……起きないよね?」
どうやら彼は白雪姫ではなく、私も王子様ではないようだ。
一度じゃ物足りない。もう一回。
顔を寄せて、哀牙さんの唇にもう一度自分のそれを押し付ける。マシュマロみたいな柔らかい感触が気持ち良い。ちゅ、ちゅ、と小さく音を立てて、何度も小鳥が啄むようなキスをする。私になすがままにされ、何度もキスを許す哀牙さんに対し、愛しさがこみ上げてくる。
「……えへへ、可愛い」
にへら、と顔が自然と緩んでしまう。
――と、哀牙さんの口角が微かに上がっている事に気付いた。が、それは見る見るうちに弧を描き、頬は上がり、肩が少しプルプル震えて……あれ、待って、もしかして。
「哀牙さん、起きてます?」
囁くように問い掛ければ、哀牙さんは薄っすらと目を開いて私を見つめた。私のいかにも「そんな馬鹿な」という表情を目の当たりにした哀牙さんは、クックックと肩を震わせて楽しそうに笑った。
「いやはや、バレてしまいましたか」
「うう、恥ずかしい……。ちなみに、どこから起きてたんですか?」
「名前が我の鼻先を愛でていた所から」
「最初からじゃないですか!」
私が哀牙さんにしていた事全てがバレていたと知って、熱くなっていく顔を両手で押さえた。そんな私をギュッと抱き締めて、身を寄せてくる哀牙さん。
「名前の余りの可愛さに、起きるのが勿体なく感じましたぞ」
「じゃあ、二度寝しますか?」
「そうですな、抱き心地の良い名前殿と共に密なる夢へ誘われると致しましょうか」
哀牙さんは私の背中へ回した手を移動して、今度は裾から中へまさぐり入れてくる。彼の素手の感触に背筋がゾクリとして、キュッと目を閉じた。でも彼になら何をされても構わないから、私は哀牙さんに恐る恐る身を委ねた。
Smotherd mate