幼い日のメリークリスマス
「サンタさん、いつくるかな?」
小さな声で呟いていたのを聞いて、俺は顔を上げた。窓の外をそわそわと見つめている妹に、何と声を掛けようか悩んでしまった。
学校で早くもサンタクロースなんていないと教えられた俺と及川は、無言で顔を合わせる。
サンタクロースの真実を知った及川が、真っ先に口にしたのは、「俺が二葉ちゃんのサンタクロースになる」だった。
俺の親の前でも高らかに宣言していたが、両親は微笑ましく笑っていた。俺にしてみれば、及川がおかしくなったとしか思えなかった。
「おにいちゃんとトオルくんは、サンタさんに何たのんだの?」
二葉は窓の外から視線を俺と及川に向けてきた。
「俺はね、新しいバレーシューズ!」
「……トオルくん、すごい!」
何がすごいのか。
クリスマスということでテンションの上がっている二葉の思考回路が謎過ぎる。
「ねえねえ、おにいちゃんは、おにいちゃんは?」
キラキラとした瞳で二葉が俺を見る。何でだか物凄く期待されているようだ。
「そういうお前は何頼んだんだ?」
「んーとね、ひみつ!」
本当は知っている。
及川が両親から聞き出し、必死に貯めたお小遣いで何割か負担をしていたからだ。流石に全額出すだけの金はなかったらしい。
その話を聞いた時、ついつい哀れむ目で及川を見てしまったのは秘密だ。
「二葉ちゃん、早く寝ないとサンタさん来ないんだよ?」
「え、そうなの?」
「枕元にちゃんと靴下ぶら下げるんだよ」
「うん!もうねるね!」
バタバタと慌ただしく、二葉は部屋へと走っていった。
及川と二人でそれを見送ってから、用意していた二葉へのプレゼントを準備する。
大きいクマのヌイグルミ
無理矢理包装されているソレの形を整え、見た目を綺麗に直す。
後は、二葉が寝た時間を見計らって及川が枕元へ置くだけだ。
父親からその任務を奪った及川はウキウキと時間が経つのを待っている。
俺は及川を視界の端に捉えながらも、バレーの本を読んでいた。
「そろそろ寝たかな?」
「ああ、あいつ寝付くの早いからな」
「岩ちゃん見てきてよ」
俺が行くと起きてた時怪しまれるでしょ、と言う及川の言葉に確かにと納得して俺は二葉の部屋を見に行く。
静かに開いた扉から中を覗くと、クリスマス用にと用意された靴下をしっかりと枕元にぶら下げ、二葉は寝ていた。すーすーと寝息が聞こえる。
恐る恐る中へ入り、本当に寝ているのかを確認する。
きちんと確認を終えてから部屋へ戻る。及川がそわそわした様子で俺を見てきた。
「寝てた。大丈夫だろ」
「分かった!じゃあ俺行ってくる!」
及川は俺の返事に嬉々として包装を持って歩いていった。時折ずるずる、という音がする。
及川が失敗しないか心配しながらも、その時はその時だと思い直し、さっきまで読んでいた本の続きを読む。
及川が出ていってから、少しした頃。そろそろゆっくり動いていた及川も役目を終えて戻ってくるだろうと思っていたら、バタバタと控えめながらも足音を立てながら及川が部屋に戻ってきた。
手にはプレゼントの代わりに紙を一枚持っていた。
「音立てんなボケ!二葉が起きるだろ!」
「岩ちゃんこそ声大きい!理不尽!」
枕を及川に向けて投げると、ボフンという音を立てて及川の顔にヒットした。
うう、と泣き真似をする及川を見ていると、思い出した様に手の中の紙を差し出してきた。
「岩ちゃん!二葉ちゃんが可愛すぎるんだけど!」
「は?何言ってんだ?」
及川が意味不明すぎて、とりあえず紙を受け取って、見てみる。
それは可愛いキャラクターの印刷された封筒だった。
宛名には、サンタクロースさんへ、と二葉の字で書かれている。
何だこれ。
封を開いて、中の手紙を出す。封筒と同じキャラクターの用紙には二葉の字で一生懸命な文章が書かれていた。
――サンタクロースさんへ
プレゼントありがとうございます。ほしいものがわかっちゃうサンタさんはすごいですね。すごいサンタさんにおねがいがあります。クマさんもほしいけど、ホントはもっとほしいものがあります。おにいちゃんとトオルくんと、ずっとずっといっしょにいたいです。ずっとずっとなかよしがいいです。クマさんはもらえなくてもいいから、おねがいかなえてほしいです。二葉。
「かわいすぎる、やばい俺やばい…!!」
「及川キモい」
床で転げ回って悶えている及川を無視して、手紙を封筒に入れ直す。二葉にとってのサンタだった及川にこの手紙を託すべきなんだが、ひたすら転げ回る及川には何故か渡したくない。
とりあえず机の引き出しの奥へ仕舞い込み、ただただ転がる及川を蹴り飛ばすことにする。
20151224
(クマさんだ!)
(二葉ちゃん、これ俺からのプレゼント!)
(あ、トオルくん!わあ、かわいいゆびわ!)
(これで俺と二葉ちゃんはずっと一緒で仲良しだよ!)
(ホント!わーい!)
(サンタさんってすごい!)ALICE+