救いの言葉を求める


「今日は応援行くからね!頑張ってね!」


朝、出掛けようと家を出たら、門の前に徹くんが立っていた。お兄ちゃんはまだ準備が終わっていないのに、どうしたのかと思っていたら、笑顔で頑張ってと言われた。頑張るのは私ではなくチームの皆なんだけど、徹くんの中ではマネージャーもチームの一員で一緒に頑張っている存在なのだ。変に否定すると熱くなりそうなので、うん、と返事をする。
徹くんはそれに満足したのか、ブンブンと手を振って私を見送ろうとした。


「いってきます、徹くん!」
「うん、いってらっしゃい」


私も徹くんに合わせて手を振ると、すごく嬉しそうに笑った。私はそれが嬉しくて笑う。集合時間もあるので、行かなければいけない。歩き出してみても、徹くんはずっと手を振っていた。



*



「この試合を勝てば、全国だ」


監督が、静かに言った。試合開始直前、チームの皆に緊張が走る。ピリッとした空気を纏いながら、監督はスターティングメンバー一人一人の顔を確認していく。全員、気合いの入った顔をしているのは私にだって分かる。


「皆が力を合わせれば、どのチームよりも強いって、私、信じてる」
「二葉さん…」
「だから、頑張ろう!」


言うことしか出来ないけど、私も一緒に頑張りたい。ぐっと拳に力を込めると、階上くんが笑顔になった。それに釣られる様に少しずつ皆が笑顔になる。端で一人仏頂面の影山くんの前まで移動して、目を真っ直ぐと見てみる。いつもの、ギラギラとした瞳。


「影山くんも、皆を信じて、頑張ろう」
「……おぉ」


当然ながら、笑顔にはならなかった。私の言葉が伝わっているのかすら心配になる。でも、私は信じてる。影山くんのことも、ちゃんと信じてる。


――ピーーッ


整列のホイッスルが鳴った。
コートに入って行く背中を見送って、私はベンチへ座った。監督の言った通り、この試合に勝てば、全国だ。お兄ちゃんと徹くんがずっと行きたがっていて、でも一度も行けなかった、全国。
無意識に、持ったノートをぎゅっと握ってしまう。
光仙学園は、全体的にレベルの高いバレーをするチームだ。そして、ブロックが上手かった気がする。トスの上がる先をしっかり見て、動いてくる。連携をきちんとしないと、あのブロックは抜けない。


「皆、頑張れ…!!」


――ピーーッ


試合開始のホイッスルが鳴った。



*



最初は順調だった。
サーブもちゃんと決まるし、レシーブもきちんと取れて、セッターへボールを返せていた。
ただ、1つ。セッターから、スパイカーへのトスが、少しずつ、少しずつ崩れていった。
やっぱり相手のブロックは上手で、スパイクはブロックに結構捕まってしまい、焦っているのか、影山くんのトスはどんどんと速さを増していき、スパイカーが追い付かない場面が何度も出てきた。


「もっと速く!!」


影山くんが叫んだ。
金田一くんや国見くんや、皆が、影山くんを睨む。
ああ、ダメだ。これじゃ、ダメだ。ちゃんとお互いを尊重して、そうじゃないと、ダメになる。
どうにかしなきゃ。何て言えば、何て言葉にすれば、分かってもらえるんだろう。
あの時のお兄ちゃんみたいに、どうすれば救えるんだろう。


「もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!俺のトスに合わせろ!!勝ちたいなら!!」


下げてしまっていた視線を、驚いて上げる。
今の、影山くんの、言葉、は。
影山くんを見ると、本人も言い過ぎたと思ったのか、思っていても言うつもりがなかったからか、驚いた様に目を見開いていた。
影山くん以外の皆が、彼を見る目が明らかに変わった。もう知らないとでも言うように、拒絶するように、彼を冷たい目で見ていた。

1セット目、相手のセットポイント、次、点を取られたら1セット目を落とす場面なのに、チームで力を合わせなければいけない場面なのに、チームに溝が出来た。もう、取り返しのつかない、深い深い溝が。


「おにい、ちゃん…と…おるくん……」


無意識に、応援席にその姿を探してしまった。助けて、私じゃどうしようも出来ないから。北一を、助けて。





20160320
(二葉ちゃん…?)
(どうした、及川)
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