ぶっきらぼうなアイ
お兄ちゃんの手から離れた携帯を見ると、メール画面で止まっていて、お兄ちゃんの顔も、固まっていた。
「……まあ、俺は止めねぇけど…」
「、けど?」
少し間を置いて、お兄ちゃんは携帯を拾いながら言った。珍しく語尾が弱々しくて、思わず聞き返してしまった。よく考えれば、お兄ちゃんが懸念することなんて一つだけだ。
「及川には、ちゃんと話しとけよ」
「うん……、分かってる」
「……理由、俺が聞いても大丈夫か?」
「ん、だいじょーぶ」
お兄ちゃんは携帯を机に置き、私の顔をじっと見てきた。私なんかに気を遣わなくていいのに、変に優しいお兄ちゃんだ。
ソファのお兄ちゃんの隣へ座って、今日の試合を思い出す。私の気持ちを思い出す。
「今日の、試合、…私、影山くんを助けてあげられなかった」
「……おお」
「お兄ちゃんにも徹くんにもあんなにいっぱいアドバイスしてもらってたのに、私、影山くんを、最後までみんなのチームメイトでいさせてあげられなかった…」
「…おお」
「私、何も言ってあげられなかった…」
思い出すだけで涙が出そうになる。指先にお兄ちゃんの服の裾が触れて、思わず掴んでしまう。頼らないって決めたのに。
「私、分かってたのに…あのままじゃダメだって……なのに、何にも、言葉が出なかった…」
でも、まだこの瞬間だけは、お兄ちゃんに頼らせて下さい。
「…私が、…何か言わなきゃ、いけなかったのに、…お兄ちゃんと徹くんを探したの…二人なら、…二人ならって思っちゃった……」
ポフン、と頭の上に柔らかい感触が来て、頬を何かが伝っていた。
わしゃわしゃと少し乱暴なお兄ちゃんの手が温かくて、止めなきゃいけない涙が、どんどんどんどん溢れてくる。
「…わた、しっ…わたし…」
「いいんじゃね、今はまだそれで」
ぽつりとお兄ちゃんが言った。お兄ちゃんの顔を見ると、お兄ちゃんは珍しい程に優しい顔をしていて、不謹慎だけど驚いてしまった。
「…俺は、それでいいと思う。お前がそう決めたなら、それでいい」
「うん……ありがと、お兄ちゃん…」
ぎゅってお兄ちゃんに抱き着くと、お兄ちゃんはしっかりと抱き締め返してくれる。ああ、やっぱりお兄ちゃん大好きだなあ、なんて思って、ぐりぐりと頭を押し付けてみると、調子に乗るなとばかりに頭を軽く叩かれたけど、モヤモヤ悩んでたのも嫌な気分も全部吹き飛んでしまった。
「おにいちゃん、すきー」
「知ってる」
「えへへー」
ぶっきらぼうに言っているけど、ちょっと照れてるんだって知ってる。これ以上笑うと怒られるからしないけど、嬉しくて抱き着く腕に力を込めた。
20160830
(徹くんに、ちゃんと話せる気がする)
(思ってること全部伝えて、ちゃんと分かってもらいたいから)ALICE+