心の隅にしまう感情
朝、徹くんにメールをした。
お兄ちゃんが言うには、今日は部活が休みらしいから放課後は空いているはずだ。私から呼び出すなんて、そう滅多にないから、きっと徹くんはビックリするだろう。
返事は驚く程速く来た。
もちろん!!なんて彼の笑顔が直ぐに浮かぶ様な内容で、思わず笑ってしまった。
マネージャー業を後輩に引き継ぎ部活を引退した私は、受験勉強と平行してマネージャーとして必要な知識の勉強をしていた。
行きたい高校は見付けた。先生からは今のまま勉強を続ければ大丈夫だろうと言われている。
今の懸念は、徹くんの説得だけである。
「二葉ちゃん!」
青城の校門前でぼんやりと立っていたら、徹くんの声が聞こえた。周りに女の子が居たことに少し動揺する。女の子に何かを告げ、徹くんは私の元へと駆け寄って来た。
「二葉ちゃんからお誘いなんて珍しいね」
「うん、ごめんね、急に…徹くん、用事とかなかった?」
「だいじょーぶ!俺は二葉ちゃん優先だから!」
笑顔でそう言う徹くんだけど、一緒にいた女の子が恨めしそうに私を睨んできていて、聞こえるようにドタキャンされた、って話をしている。そっちを見るには気まずくて、さっと会釈だけして徹くんの影に隠れた。
徹くんは相変わらずの笑顔で私の手を取った。女の子達がざわりとした。気まずさと少しの優越感。徹くんは近くにいる沢山の可愛い女の子との約束よりも、急に入った私なんかとの用事を優先してくれるんだって、そんなこと思っちゃダメだって分かってるのに、その考えは私の頭の中を巡って離れない。
――私は、こんなに嫌な子だっただろうか。
徹くんが何より私を一番に考えてくれることを嬉しいと思うなんて、…いや、違うか。
「バレーに、勝てないもんなぁ…」
「ん?どうしたの?」
「え!?なんでもないよっ」
口に出してしまっていたらしい。不思議そうに首を傾げた徹くんに慌てて首を横に振って否定する。徹くんは特に気にした風もなく、前を向き直した。真っ直ぐ家に帰るつもりなんだろうか。まだ私の用事を伝えていないけど、徹くんは気になったりしてないんだろうか。
「徹くん、あのさ、」
「なに、二葉ちゃん?」
「……えっ、と…、」
「ん?」
何を言うか考えずに声を掛けてしまった。ニコニコと笑う徹くんに何にも言葉が出てこないで、キョロキョロと視線をさ迷わせてしまう。徹くんはニコニコしたまま私の言葉を待っていて、何か言わないとって気持ちだけが焦ってしまう。
「う、んと、……あ、そうだ!たまには徹くんの部屋で遊ばな「ぶっ!!」……い?え?ダメかな?」
徹くんが私の言葉の途中で吹き出した。私としては結構良い提案をしたと思ったんだけど、どうやら違ったみたいだ。いつも家で結局お兄ちゃんと3人でワイワイするのが当たり前で、でも今日は真面目な話をしたいし、何より今日は“徹くんが帰る”っていう状況にしちゃダメな気がする。それに、それに。
「おっ、うぁ、お、俺はいいけど…!?」
「え?ホントに?大丈夫?今日は止めておく?」
こんな徹くん見たことがない、ってほどに焦ってる姿に、私の提案には何やら問題があったのだと分かった。何が問題なのかはさっぱりだけれど。うーん、と悩んでると、徹くんが困ったような笑顔で私の顔を覗き込んできた。
「いいよ、俺の部屋行こう!二葉ちゃんを及川さんの部屋へ招いてあげよう!」
「いいの?やった!」
へへーん!って胸を張る徹くんが何だか可愛くて素直に喜んだら、ちょっと複雑そうな顔をされたけど、徹くんを引っ張って彼の家を目指す。
20160910
(きっと徹くんが家に招く女の子は私だけだって)
(些細な優越感を必死に隠した)ALICE+