天国から地獄へ
今朝、二葉ちゃんからのメールが届いた瞬間、何故だか俺は嫌な予感がしていた。
本来なら二葉ちゃんからのメールに嬉しい以外の感情なんて生まれないのに、何故かモヤモヤとして、それを掻き消すように明るい返信をした。
どうやら俺の変な感情は顔に出ていたらしく、朝から岩ちゃんに不審な顔をされたけど気にしている訳にもいかない。
部活休みで前から遊ぶ約束してた女の子に無理だと伝えると、残念そうな顔をされたけど、二葉ちゃんとの予定には変えられない。放課後になってもぶつくさと文句を言っている彼女を横目に、俺は手早く帰り仕度を済ませて教室を飛び出す。岩ちゃんがビックリした顔しているのをさらっと流し、何故か俺についてくる女の子たちの声に返事をしながら靴を履き替えて、校門へ急ぐ。二葉ちゃんがわざわざ青城まで来てくれるみたいだから、待たせるわけにはいかない。
「及川くーん、用事なんていいじゃん、遊ぼうよー」
「そうだよー!私ら先約でしょー!」
「ゴメン、大事な用事だから」
「えー!」
ガヤガヤと周りで文句を言う言葉にヘラリと笑顔で返す。
本当は、俺が二葉ちゃんと出会ったその瞬間から俺の予定は全て二葉ちゃんが予約しているんだとか叫びたくなったけど、彼女たちの前でそんなこと言って二葉ちゃんに対して何らかのアクションを起こされても困る。
笑顔で対応すれば、ふてくされた様に口を尖らせたもののそれ以上何も言うことはなかった。
二葉ちゃんは、もう待っているだろうか。
チラッと見た校門には青城とは違う制服が見えた。
「二葉ちゃん!」
思わず上げた声に、周りの女の子も反応した。二葉ちゃんは俺に気付いたのか振り返る。
「え、何あの子?」
「ゴメン、俺行くねー」
「ちょっと、及川くん!」
明らかに二葉ちゃんを見て不満そうな声を漏らした女の子たちに一言だけ告げて、二葉ちゃんへ近付く。
「二葉ちゃんからお誘いなんて珍しいね」
俺の言葉に二葉ちゃんは少し申し訳なさそうに答えた。チラリと俺の後ろを確認して、そして直ぐに俺の影に隠れる様に動く。
女の子たちが分かりやすい程に文句を言っているのが聞こえたんだろう。
ドタキャンだなんて騒ぐなと怒りたいけど、二葉ちゃんをこんな状態で置いておく訳にもいかない。
いつも通り、笑顔で二葉ちゃんの手を取ると、二葉ちゃんはピクリと小さく反応した。
後ろにいた女の子たちは、予想外の出来事にざわついている。そりゃそうだ。俺が手を繋ぐのは二葉ちゃんだけなんだから。あの子たちとは遊びには行くが触れ合ったりなんてしないんだから。これで、少しは二葉ちゃんが特別な存在だって周りに分かって貰えただろうか。
俺が機嫌良く歩くのに合わせたのか、二葉ちゃんも何だか嬉しそうに見えた。見えただけかもしれないけど、俺の勘違いかもしれないけど、二葉ちゃんも俺を大好きなんだろうなって、何故かそう確信を持てた。
*
「お邪魔します…」
「どーぞどーぞ!」
俺の顔は今、緩んではいないだろうか。変に浮かれてはいないだろうか。二葉ちゃんを不安にさせるような雰囲気は出ていないだろうか。
俺の心配など余所に、二葉ちゃんは俺の部屋の扉を潜った。
俺のプライベート空間に、二葉ちゃんが居る。
それだけで俺は今までにないくらいに幸せを感じている。
何処に座ろうかと悩んでいる二葉ちゃんに座椅子を勧めて、俺は敷きっぱなしになっていた布団の上に座る。今後の為に二葉ちゃん用の座布団用意しよう。ふわっふわで可愛くて、二葉ちゃんが好きそうなやつ。
「徹くんの部屋はバレーだけだね」
「意外と片付いてるでしょ?」
「お布団は出たままだけどね」
「それは仕方ない」
クスクス笑う二葉ちゃんに、今朝感じた嫌な予感は俺の気のせいなんじゃないかと思えてきた。ただ、二葉ちゃんは俺に会いたくなって、オフの日だから連絡してきただけなんじゃないだろうか。いつもは岩ちゃんの部屋でばっかり会うから、たまには違う場所でってなっただけ、きっとそう。
だから、二葉ちゃんが笑顔から突然真剣な顔になったのも。
「徹くん、あのね」
俺の目を真っ直ぐと見てくるのも。
「私、青城受けないことにしたの」
俺にとって全く理解出来ないことを言ったのも。
全部全部、気のせいだったらいいのに。
20170313
(もしかして、俺のこと嫌いになったの、なんて)
(有り得ないことが頭を過る)ALICE+